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偽主  作者: シュカ
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チュリッシェとティム

カタカタカタカタとコンピューターのキーボードを叩く音が部屋に響く。ここは生徒会の部室に割り当てられた二つの部屋のうちの1つ。ぞくに作業部屋と呼ばれている部屋だ。


各種資料やOA機器等が大量に鎮座しているそこは先程皆で話をしていた生徒会の応接室の隣に当たる。


「会長もさー。ここで話せば良かったのに。ここなら防音加工も完璧でユウリ先輩も力を使わずに済んだのにねー」


「会長は雰囲気を大事にするから。ユウリ先輩も会長の気持ちを分かってたから、そうしたんでしょ。それにさっきはここに移動する時間すらも惜しかったのだと思う」


その部屋で小さな机の上に置いた彼女専用のコンピューターをチュリッシェはひたすら操作していた。目的はもちろん生徒会長に命じられた仕事をこなすため。シドを名乗った彼女シルヴィア・クローバードが語った話が真実か確かめるためだ。


「ふーん、まぁ会長らしいか。そんなことよりちょーしどう?チュリッシェ先輩。」


チュリッシェの左斜め後方の机にもたれ掛かるようにして立っていたティムが声をかけた。彼は暇そうに紙パックに入ったオレンジジュースを飲んでいた。


「流石にセキュリティーが固くて一筋縄にいかない。ていうか、あんた仮にも会長からあたしのサポートを頼まれてんだから少しは手伝いなさいよ!」


「いやいや、先輩の手伝いとか無理だって。その手のじょーほーしゅーしゅーは俺の専門外だかんね。ほら先輩にイチゴ牛乳買ってきてるから、なんとかそれで勘弁してよ。」


チュリッシェはコンピューターのプロだ。能力持ちではないがそれが嘘だと言われるようにあらゆる電子機器を手足のように扱い表に裏に活躍している。


どちらかというと ハッキングや電子キーの解除など暗躍することが多いし本人も得意としている分野なのだ。ティムと軽口を叩き合いながらも、キーボードを叩く手はさらにスピードアップしている。


彼女は話ながら作業する方がはかどるタイプだ。キーツがチュリッシェにティムをつけたのも話し相手をつける意味が大きいのだろうとはティムの考えだ。


「よし、ようやく抜けた。これで一息つける。」


ティムが渡してくれたイチゴ牛乳の紙パックにストローを差す。一口啜ると口の中に甘ったるい味が広がった。それを飲み下し、再び画面とにらめっこする。


「せんぱーい。俺には先輩が何をどうやってるのかさっぱりなんで、説明もらってもいい?」


「半年前のクローバード夫妻の事件の詳細とそこまでの経緯の洗い直しをしているの。役所の死亡者リスト閲覧では、クローバード夫妻の死亡が確認できたけどシドの名前はそのまま残ってる。後、妹がいるってし情報は見つからない。15年も生きていれば学校とか病院とかどっかには名前があるはずなのに」


「不思議だね。今はなに見てんの?」


「半年間のクローバード家事業の動向や推移の確認は終わったから今は警察であげてる調査書を漁っているけど、あの事件の調査書が存在していない。」


「へぇー、それでどう?シド君の話はホントそう?」


「今のところあいつの話を本当だとも嘘だとも言えない。情報が少なすぎるからもう少し色々粘ってみる」


「そっか、お疲れ様」


さして興味もなさそうに作業の過程を聞いてくるティムにチュリッシェは訝しげな視線を送る。


あいつのことを簡単にシドの名前で呼ぶことも興味なさそうな態度も気にくわない。というか、こいつ何考えてるか分かんないんだよね。そんなチュリッシェの思いが顔に出たのかティムが口を開く。


「俺はね、先輩。しょーじきどっちでもいいんだよね。シド君の話がホントでもウソでも。でも、どちらにしても今後おもしろいことになりそーだし今回のことに興味はあるよ」


「そう。だけどあいつのことをあんたはそんなに簡単にシドって呼べるんだ。」


さっき思っていたことを思わず口に出してしまっていた。それにもティムは余裕たっぷりに答える。


「だって、会長がシド君をシド君として接するって決めたんだから、そう呼ぶでしょ。チュリッシェ先輩のちょーさでもシド君が言ってたこと嘘じゃないことが証明できそーだしどっちみち明日からはシド君って呼ばないとだしさ。そしたら今からそう呼んでいても同じでしょ」


「同じには思えないし、まだあいつがほんとのこと言っているって証拠もないわ」


ティムが言うことにも一理ある様には思えるが、これは自分の気持ちの問題だ。今もキーボードを動かし続けているが現段階ではあいつが本当のことを言っている証拠も嘘をついてる証拠もない。


そんな曖昧な状況であればまず間違いなく会長はあいつを受け入れるだろうとチュリッシェは考える。キーツはおひとよしなのだ。


そして、シドのことをマイスイートハートと呼ぶほど後輩として好意を抱いている。そんなシドに少なからず何かが起こっているとなればキーツが見放す真似をするはずがないのだ。


チュリッシェとしてもシドに何かがあったなら当然力になりたいと考えているが、あいつのやり方が気に入らないのだ。シドに変装しシドが亡くなったと淡々と語ったあいつ。見れば見るほどシドにそっくりなのも落ち着かない気分にさせられる。


仮に明日になりあいつをシドと呼ばなくてはならないギリギリまでは、その名であいつを呼びたくないとチュリッシェは思っていた。


「まぁ、先輩はそれでいいと思うよ。それは先輩の気持ちだし大事にしよーよ。んじゃ、もうちょいお仕頑張ってさ会長に報告しに行こうよ。」


残りのオレンジジュースをズズズッと飲み干したティム。あんたは特になにもしてないでしょーがと言いたくなったもののこいつとの会話で作業が捗ったとも思うので、チュリッシェは黙ってイチゴ牛乳を飲み干し、キーボードを叩く手に力をいれるのであった。


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