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偽主  作者: シュカ
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オープニング

「うわぁぁぁ!!!」


また、いつもと同じような悪夢を見て飛び起きた。大きく深呼吸をして、ベッドから降りる。昨日のうちに用意していた服に着替える頃にはようやく騒いでいた心臓も正常に働き始める。シド・クローバードの一日はだいたいこのように始まる。


姿見で身だしなみを確認してみる。…少し髪が乱れているな。身だしなみは大事だからなと気になる所を直す。朝食をとるため二階の自室から一階の食堂へ向かった。途中で洗面所により顔を洗い歯を磨くことも忘れない。食堂のドアを開けると、そこには黒髪黒目で背の高い細身の青年が待ち構えていた。


「おはようございます。坊っちゃん」


「ああ、おはよう」


彼はクローバード家当主であるシドの執事、アルベルトだ。彼はシドより少し年上で、まだ幼い頃に先代の当主に連れられ孤児院から、この屋敷にやって来た。幼い時はシドの良い遊び相手にシドが当主になった今は執事として、影に日向にシドを支えてくれている。


「朝食の用意は?」


「はい。すでに用意出来ております」


「流石だな」


シドはアルベルトの横をすり抜けるように席につく。当然のようにアルベルトは椅子を引いて主のサポートをした。


「いえ、寝室の方から可愛らしい声が聞こえて参りましたので」


「それは余計な話だな」


口許に手を当ててくすりと笑うアルベルトにシドは苦言を呈する。が、そこは昔からの付き合いだ。お互い本気ではなく軽口を叩いていることはわかっている。


「さて、只今朝食をお持ちしますので、少々お待ちくださいませ。」


やや芝居がかった仕草で華麗に一礼をすると、アルベルトはキッチンの方に消えていった。


「坊っちゃん、おっはよう、ございまーす!」


そんなアルベルトと入れ替わるようにしてやって来たのはメイド服を着た小柄な少女だ。手にはシドのための朝食と思われる皿を乗せたおぼんを持っている。


「ああ、ナタリーか」


彼女はナタリー・フォード。シドより一つ年上の女の子で、訳あってここでメイドをしている。髪の毛はショートカットだが、いつも前髪をヘアピンで留めている。


「ナタリーかとはなんですか!せっかくご飯持ってきたのにー」


年が近い彼女とはアルベルトとはまた違った意味で気やすい仲だ。

もちろん主従として最低限のラインはあったが、それも最近ではあまり気にしなくなってきた。だからシドは彼女の言葉に素直に謝る。


「ああ、すまない。おはよう、ナタリー。ありがとな」


ナタリーはシドの返事に満足げに笑うと、彼の目の前に朝食の皿を置いていく。小さめのベーグルサンドと黄金色のスープと緑と赤の野菜のサラダ、デザートには一口サイズにカットされたフルーツというメニューだ。


「ねぇ、坊っちゃん」


ナタリーは皿を置き終えると小声でシドに囁く。食べ始めようとした手を止めてシドは聞き返した。


「なんだ?」


「今日もアルベルトさんがかっこいいよーー!」


待ってましたとばかりにナタリーは言う。それは好きなアイドルに会ったファンのような喜びかただ。血色のいい頬をさらに桜色に染め、鈴の転がるような声が一段と高く響いた。


「だって、だって、あの艶やかな黒髪に切れ長な目。鼻も顎もスッとしてて、シュっとしててー。あの低音ボイスで『坊っちゃんに朝食をお持ちしてください』って話しかけてくださったのー」


段々ヒートアップしていくナタリーにシドが苦笑を浮かべていると、それに気づいた彼女は、はっとして、いつもの調子に戻って言った。


「あ、坊っちゃんも、もちろんかっこいいですよ。髪と同じ色のおめめはぱっちりで可愛らしい顔立ちです。癖のないグレーの髪が素敵ですし、背は……成長期を迎えたらもっと高くなるでしょう。」


アルベルトと対比するように言われるも彼女には悪気がないらしい。先ほどまでと同じくニコニコ笑っている。


「そっか、ありがとう。」


正直容姿に関して言われるのはあまり好きではないが、のこは用意された食事を食べながら、簡単に礼を述べとこう。


「ナタリー、キッチンのお皿が置きっぱなしでしたよ?

片付けておくように言いましたよね。」


凛々しい顔つきに銀縁の眼鏡が似合う彼女。メイド長のヘザー・ランドールはナタリーに苦言を呈した。


「あっ、すみません!アルベルトさんに坊っちゃんの食事を頼まれまして、ご用意してました。ただいま、片付けて参ります」


ヘザーは新人であるナタリーの教育係だ。先ほど僕と話していたときとは大違いの態度で彼女は動き出す。


「いえ、そういう事情なら片付けは私がやりましょう。坊っちゃまはご多忙の身です。お待たせしてはなりませんから。」


そう言ってヘザーはキッチンに戻って言ってしまった。

厳しいようではあるが、娘ほどに年が離れているナタリーの扱いに少々戸惑っているだけなのだ。優しいが不器用な人。シドはそう思っている。


「えへへ。やっちゃった。」


小さく舌を出して呟いたナタリー。あまり反省はしていないようだ。

 

 その後、食事を済ませた頃を見計らい、ナタリーと入れ替わるようにアルベルトがやって来た。


「さて、本日のご予定についてお話しさせていただきます」


「ああ。」


「本日は、午前中にはレインティーン様が商談にお見えになりますのでご対応を。その後、昼食を挟み座学のお時間です。夕方からは、明日からの学校のご用意を行います。」


「分かった」


頷いて返事をした僕にアルベルトは早速準備をするように伝え、

奥の部屋に消えた。また、慌ただしい一日が始まる。

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