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頼朝

 「頼朝様の命を受け封じ込めるは国家安泰こっかあんたいはじめなりと見備みそな)はし()していま往先ゆくさき子孫(うみのこ)八十続(やそつづき)五十()樫八桑枝(かしやくはえ)(ごと)家門(いえかど)(たか)(ひろ)立栄(たちさか)へしめ(たま)へと御願奉おんねがいたてまつる」

 咲姫さきは、母から口伝くでんされた言葉の封印をときほどき、ゆっくりと、しかし、よどみなく声にして発した。


 「これだけなんです」咲姫さきは薄く目を開き、体力を使い果たしたかのような弱々しい声で言った。

 高見刑事はメモを取ることも出来ずに聞いていたが、

 「たった?いや、失礼・・・」そう言うと、うつむき加減で白髪頭しらがあたまに手をやり、

 「で、その意味は?」と、咲姫の顔を見た。


 「頼朝様の命令で封じ込めるのは国の安泰とお思いになられて、今後とも子孫の繁栄をよろしくお願いします、ってことでしょうね」神田は憔悴しょうすいした咲姫の顔を見た。

 「そうですわ。頼朝は、国と子孫、つまり、日本の今後のためにと思って、あの鉄の棒を富士山頂に封じ込めた、つまり封印したのだと思いますわ」

 「富士山頂とここ宮島の弥山みせん山頂にね」神田は付け加えた。




「でも、どうして宮島と富士山なんだろうか?確かに宮島と富士山は、平氏と源氏を象徴するものではあるし、あけの大鳥居と雪を被った富士山から、頼朝は白い雪が紅葉を埋めてゆくことを連想しても不思議はないけど」神田かみたは腕を組んで、以前、高見刑事と疑問に思ったことを口にした。


 「大事なことは、1000年近く前の人間の考え方は、今の時代の人間とは大きく違うってことよ」咲姫さきは薄っすらとひたいに浮かんだ汗をピンクのハンカチで押さえるようにしてぬぐった。

 「それに、1000年以上前では、人間の種類も違っていたでしょうね」そう言って高見刑事を見た。


 「種類だなんて」高見刑事は少し大げさに背を伸ばしてみせた。

 「民族が違う、と言ってもいいかもしれませんわ」

 「民族がですか?」高見刑事は再び背を丸め、咲姫の話に聞き入った。

 「そうです。今でも日本の西と東に住んでいた日本人が違う民族だったという痕跡こんせきはたくさん残っていますでしょ」

 「そう?・・・ですね」高見刑事はやや口をとがらせた。




 「川の名前の分布を見ると、日本の西と東できれいに分かれるのはご存知でしょ?」咲姫は高見刑事を見た。

 「え?、まあ・・・」高見刑事はゆっくりとうなずいた。


 「それは、川の流れの形状や、水の量などによって名前が決まるのじゃなく、その地域に暮らしていた人たちが違っていたからでしょうね」コーヒーカップを手に取り、

 「西日本では谷がつき、東日本ではそれが沢になっていますよね」両手で包むように持った。


 「たとえば、宮島には紅葉谷もみじだにがありますけど、紅葉沢もみじさわじゃないでしょ。紅葉谷が東日本あれば、丹沢たんざわ悪沢あくさわや日本アルプスの涸沢かれさわのように紅葉沢もみじさわになるでしょうね」コーヒーを一口飲み、

 「味覚もそうですわ。カップうどんやカップラーメンもメーカーは出荷地域によって味を変えてるのもご存知でしょ?」再び高見刑事を見た。

 「え?、まあ・・・」高見刑事は膝の上の手帳に目を落とした。


 「それに、顔つきも、今でこそ、混血が進んでいますし、移動も頻繁になっていますから東西で違うってことはありませんけど、当時は一目見て分かった と思いますわ」

 「そ?、そうでしょうね・・・」高見刑事は顔を伏せたまま、ボールペンで白髪頭を掻いた。

 「典型的なのは、西郷隆盛タイプ、高杉晋作や吉田松陰タイプ、そして、アイヌタイプの顔を思い浮かべれば分かると思いますわ」

 「遺伝子や肝炎ウィルスの分析でもこうしたことは確認されていますでしょ?」

 「そ?、そうですよね・・・」そうなのか、という顔で神田を、チラッ、と見た。

 「それに、その西と東を分けて日本を統治すると言う考え方は今でも皇室の行事には伝統として受け継がれていますのよ」

 「皇室へ?」高見刑事は、そんなことがあるのだろうかと言う顔で咲姫さきを見た。


 「そうです。大嘗祭だいじょうさいというのをご存知でしょ?」

 「ああ、確か天皇の即位の時の儀式ですね」高見刑事は、「これは聞いたことはあるな」と思った。

 「はい。天皇様が一世に一度だけ即位された後に行われる国家のお祭りです」そう言って、思い出すようにゆっくりと説明し始めた。

 「9000平米という広大な敷地にいろいろな建物を作っていくわけですけど、その中心になる建物は東日本を意味する悠基殿ゆきでんと西日本を意味する主基殿すきでんなんです」咲姫の透き通るような顔がやや赤みを帯びてきた。


 「そして、一連の儀式をこの悠基殿ゆきでんで行ない、全く同じことを主基殿すきでんでもおこなうのです」宮島観光推進協会の渡辺も真剣に話を聞いている。

 「こうした儀式を終えて即位として認められ、正式な天皇様になられるのです」

 「フーム」咲姫のこれまでの話を聞き、神田には、頼朝が富士山と宮島に鉄の棒を「まつり、封印した」と言うのも事実だろうと思えてきた。




 「専門の立場から見ましても西と東の民族の違い、それははっきりと分かりますわ」咲姫さきは高見刑事と神田かみたを交互に見つめた。

 「専門?」神田かみたはコーヒーカップから口を離した。

 「私は宮司ですけど、実は、歯科医でもあるの」

 「へー」予想もしていない言葉だった。


 「大学を卒業して、商社に勤めたんだけど、ほら、当時、ロッキード事件なんかで総合商社への風当たりが強くなって、私もちょっと仕事に疑問を感じ始めていた頃だったから大学に入りなおしたの」

 「ほー、そりゃあ、たいしたもんですね」高見刑事の声がやや大きくなった。

 「そんなことはありませんけど」コーヒーカップをテーブルの上に置き、

 「歯科医の私が見ると、人相で歯の形状に違いがあるのがはっきりと分かるのよ」そう言うと目を閉じしばらくの沈黙の後、額に手をやり、

 「少し頭痛がしてきたわ。これくらいでよろしいでしょうか?」と、高見刑事を見た。


 「お体の具合でも?」

 「ええ、少し疲れたみたいです」

 「今日は?」神田は心配そうに咲姫に尋ねた。

 「今夜はそこの聚景荘じゅけいそうを予約してあるの。荷物も、もう預けてるのよ」そう言いながら立ち上がった。




 「今夜はゆっくり休むといいよ。聚景荘じゅけいそうのレストランから見るライトアップされた鳥居はとっても綺麗だよ」

 「木野花このはなさんにはかないませんが・・・」高見刑事は手帳を背広のうちポケットに入れながら言い、白髪頭に手をやった。


 「まぁ、ありがとうございます。では、私へのご用件はこれで?」咲姫さきは、笑いながらそう言って立ち上がった。

 「はい。お疲れのところ、大変ありがとうございました。非常に参考になりました」高見刑事も立ち上がり、

 「文書の内容はお話していただきましたし、警察としましては、もうお引止めする理由はございません。今夜はごゆっくりとお休み下さい。また今後もご協力をお願いすることもあるかと思いますが、その時にはよろしくお願いします」そう言って頭を下げた。


 「いつでもご連絡下さい。じゃあ神田君」咲姫は神田のほうを向いて、

 「私、明日はお昼から岩国いわくに錦帯橋きんたいきょうに行って、広島に帰り、市内で一泊して、明後日、平和公園を散策してそのまま失礼します」と、言いながらドアの方へ向かった。

 「おひとりで?」高見刑事は2、3歩ドアの方へ歩き、咲姫の後姿に声をかけた。

 「いえ。連れがいます」咲姫はドアのところで振り返り言った。

 高見刑事は、チラッと、神田を見やり、

 「ご主人?」と尋ねた。

 「いえ、私がアメリカで歯科医の研修していた時に知り合った友人と一緒です」

 「ほー、それはご友人もお喜びになられるでしょう。ごゆっくりとお楽しみ下さい」高見刑事は改めて深く頭を下げた。




 翌朝、神田かみたはいつものように博打尾ばくちお尾根から獅子岩までゆっくりと走っていた。


 咲姫さきから聞いた文書の内容は不可思議なものだった。源頼朝みなもとのよりともが日本の安泰を願ってあの鉄の棒を富士山と宮島に隠した。それだけなら、いくらそれが不思議でも、それは単に昔の人間の宗教的な儀式だ、で終わりだ。

 しかし、それを奪い取ったあの大男は何者なんだ?また、なぜ、中国はそれを奪おうとしたのか?咲姫さきの言った「多くの人の命が救える」とはどういうことなんだ?


 獅子岩までの登山道は、途中、ロープウェイの中継地点の榧谷かやだに駅の建物の下をくぐる。トンネルのようになっているが、永年積み重なった砂で埋まり、今では、うんと背を低くしないと通り抜け出来ない。

 「言われてみると、ここも榧谷かやだに榧沢かやさわじゃないな」と思いながら腰を低くして建物の下に入った。くぐりながら、

 「歴史の事実もこうして時が埋めていってしまうんだろうな」と、ふと思った。




ロープウェイの榧谷(かやだに駅を過ぎると少しの間急登になるが、すぐに見晴らしの良い大岩に着く。ここは神田かみたのお気に入りの場所だ。左手には広島市が見え、江田島をはじめとして、瀬戸内に浮かぶ島々が見渡せる。


ここを過ぎるとすぐにロープウェイの終点駅のある獅子岩ししいわに着く。ロープウェイの駅から出ると野生の猿と鹿が出迎えてくれる。こんなところは宮島以外にはないだろうと思っている。そして、宮島の最東端のピークからは、先ほどの大岩以上の絶景が迎えてくれるのだ。


 「ん!?あれは・・・?」神田は汗を拭く手を止めた。

 「咲姫さきちゃん?」

 「あら、神田君。どうしたの、こんなに朝早く」

 「それはこっちの言うセリフだよ」神田は咲姫のいる岩場へ続く石段を駆け上がった。

 「そうね」瀬戸内から吹き上げる風で髪がそよいでいる。


 「朝、とっても気持ちがいいから、久しぶりに紅葉谷(もみじだにから登ってきたの」

 「へー、元気なもんだな」足元を見るとジョギングシューズだ。

 「当たり前よ。鍛え方が違うわよ」そう言って、足を「ポン」と叩いた。

 「お友達は?」神田は周りを見渡した。

 「そこにいるわ。」そう言って名前を呼んだ。


 「え?キヨシ?男?」神田にはキヨシと聞こえた。




 「ハロー、こんにちは」そう言いながら一段低くなっている展望台からカールした栗色の髪の女性が駆け上がってきた。胸元のネックレスが揺れて光った。女性だった。神田は、何だかホッとした。


 「神田かみた君、紹介するわ。こちら、長谷川キャシーさん」咲姫さきは、その女性の肩を抱くように左手を大きく広げて、その女性を招いた。そして、

 「キャシー、こちらは学生時代の同級生の神田かみたさん」と、右手を神田のほうへ向けた。

 「ハロー、始めましてキャシー長谷川です」そう言いながら、女性は一歩進み出て、右手を差し出した。

 「始めまして、神田です」キヨシじゃなくキャシーって呼んだのか。

 「え?何か言った?」

 「い、いや別に」背は咲姫と同じくらいだろうか。年頃は神田達と同年代だろう。


 「キャシーはお父様が日本の方で、お母様がアメリカの方なの」咲姫さきはふたりを交互に見ながら言った。

 「ああ、そうですか。それで日本語がお上手なんですね」

 「アリガトウゴザイマス。でも、少しだけ発音、変でしょ?」キャシーは大げさに肩をすくめた。

 「とんでもありませんよ。私は英語を何年勉強してもダメですよ」首筋の汗をぬぐいながら言った。


 「彼女とはシアトルのデンタルクリニックで研修中に知り合ったの」そう言う咲姫をキャシーはニコニコと見ている。

 「アメリカ滞在中に日系の子供達に剣道を教えていたのよ。彼女、剣道に関心があったみたいで、教えて欲しいっていうので、子供達と一緒に教えていたの」

 「へー、そうなんですか」




 「キャシー、神田さんはね日本拳法のマスターなのよ」咲姫さきは、いくぶん自慢げにキャシーに言った。

 「オー、弁護士さんですか?」

 「ふふふ、違うわよ。憲法じゃなく拳法、これよ」そう言って右手でこぶしを作り、「エイッ」という感じで前へ突き出した。


 「オォ、分かりました。空手ですね。私はケンポーにも関心があります」キャシーも咲姫の真似をして拳を作って前へ突き出した。

 「今度教えてください」突き出した右手を腰に構えながら言った。

 「まあ、キャシー、本気なの?」咲姫さきは、やや、身をのけぞらせてキャシーの顔を見た。

 「本気です。わたしは日本の武道には興味あります。特に拳法と剣道には」そう言いながら首から下げている揺れるロケットペンダントを握った。

 咲姫は、ニコッ、と笑って、

 「じゃあ、今度帰ったら神田さんに教えてもらいなさいよ」と、キャシーの右肩を、ポンと小さく叩いた。



 「帰ったらって、どこかお出かけですか?」神田はキャシーと咲姫の顔を見た。

 「キャシーは外科医なの。一週間後には海外へ一年の予定でボランティア活動に出かけるのよ。その途中、日本に寄ってくれたの」

 「はい。そうです。海外ではまだまだドクター、不足しています。今回、2度目です」そう言いながら手にしたペットボトルのミネラルウォーターを一口飲んだ。


 「そうですか。それは素晴らしいことをしていらっしゃいますね」そう言って腕時計を見て、

 「おっと、いけない、時間だ。遅刻してしまう」神田はそう言いながら、タオルを首筋に巻きなおした。

 「神田君、今日お昼ごはん一緒にどう?」

 「ああ、いいね。じゃ、携帯に電話するから。じゃあ、キャシーさん、後でまた」そう言って、右手を軽く上げ、紅葉谷もみじだにへ向かった。




 神田かみたは、昼時間に、咲姫さきとキャシーに、「清盛うどん」で落ち合った。

 「ここのうどんはね、手打ちで、カルシウムいっぱいのうどんなんだよ。おいしいよ」そう言うと、店主に冷やしうどんを三人分注文した。


 「神田君、私達、あれから弥山みせんの頂上まで登ったんだけど、キャシーもとっても気に入って、ビューティフルの連発だったわ」と、キャシーの方を向いた。

  「はい。とってもきれいでした。写真たくさん撮りました」そう言って、デジカメの映像を神田に見せた。


 「私は、あの大岩のそばに立つと、いつも霊気を感じるのよ」咲姫さきならそうだろうと神田は思った。

 「この宮島は昔の修験者しゅげんしゃにとっては修行の島だったでしょうし、何千年も前の人たちにとっても何か神聖な島という認識はあったでしょうね。弥山みせんの頂上に立つと、それがよーく理解できるわ」咲姫さきは言葉に力を込めて言った。

 「そうだね。今は厳島神社が有名になっているから市杵島姫いちきしまひめに代表される神の島のように思っている人が多いけど、仏教や、修験道などの歴史も深いからね」

 「市杵島姫は弁財天と同一視されているし、弁財天はもともとヒンズーの神様サラスバティ(サラスワティ)ですものね」




「獅子岩の岩にペトログラフ(古代文字)で太陽神を崇拝する文字が刻まれているということは、何千年も前の人たちも、この島を神が宿る島として認識していた証拠だと思うわ」キャシーはふたりの会話を興味深そうに聞いている。

 「ペトログラフの刻まれている岩がよく分かったね。あれはちょっと分かりにくいんだけど」神田は驚いて咲姫を見た。

 「私には、その岩だけがライトアップされたように見えたの」

 「そうかぁ」神田にはもう、咲姫の言う事には何の疑いも抱けなかった。


 「おまたせいしました」気の弱そうな店主がうどんを運んできた。

 「わぉー、おいしそうですね」キャシーはもう割り箸に手をかけている。


 「そういう意味で、この宮島は学問上でも貴重な島だと思うよ。ペトログラフの古代信仰からヒンズー教、山岳信仰、仏教、神道。神社の配置からも明らかに北斗信仰、妙見信仰も取り入れられていることが分かるしね」神田は、「ありがとう」と言ったふうに店主に手を上げた。

 「へー、そうなの」咲姫も割り箸を割った。

 「ああ、弥山みせん頂上と厳島神社の大鳥居をつなぐ線は南北方向なんだよ」

 「へー。そういえば、弥山本堂には毘沙門天がまつられていたわね」

 「ああ、毘沙門天は北の守り神だからね」




「それでね、弥山みせん頂上と大鳥居の先に宮島を遥拝ようはいするために建立されたと思われる地御前神社じごぜんじんじゃがあるんだよ。」

 「へー」

 「しかもその線を伸ばしていくと極楽寺山ごくらくじやまに当るんだ」

 「おそらく、極楽寺山も文字に残される以前から信仰の対象になっていたんだろうね」そう言うと、うどんを「ツルツルッ」と口に運んだ。

 「そうね」咲姫はそう言って、

 「そもそも、今回の台風でも分かるように、一年に何回かは、大きな台風が来て厳島神社は被害を受けるんですものね。何年に一回かは必ず大きな被害があるし、それが分かっていながら、ここにこんな立派な神殿を築く必要があったのかを考えると、これは曼陀羅まんだらの思想よね」 

 「対岸から臨むと、島全体が曼陀羅絵になっているしね」




 「案外そんなところに、伊勢神宮が20年に一度建て替えられる式年遷宮や、出雲大社の巨大神殿と通じる考え方があるのかもしれないね」

 「私もそう思うわ。出雲大社も高さが48mもあって、何度も倒壊して、そのたびに建て替えられたらしいものね」咲姫さきも、おいしそうにうどんをすすった。


 「以前は、当時の建築技術では高さ48mなんてとても無理だから、単なる言い伝えだと思われてただろ」そう言いながら、キャシーの方を向いて、

 「どうですか?ここのうどんは」と聞いた。

 「おいしいです。大好きです」キャシーはもう半分くらい食べている。

 「ところが実際に巨大柱が発見されたんだから、世間が、アッと言ったのも無理はないよ」

 「たしか平成11年よね」そう言う咲姫に、そうそう、と言う感じで神田はうなずいた。


 「あっ、そうだ。これ見てくれるかな」神田はそう言って、紙袋から一枚の写真を取り出した。富士山本宮浅間大社ふじさんほんぐうせんげんたいしゃの職員が富士山頂上奥宮おくみやで撮った鉄の棒の写真だ。

 咲姫さきなら何か分かるかもしれないと思って、今朝、富士山本宮浅間大社の宮司に頼んでメールで送ってもらったものだ。




 「あら、これが例の鉄の棒?」そう言って神田の手にある写真を覗きこんだ。

 咲姫の顔が急に近づき、神田は思わず顔を動かした。

 「・・・ああ、ちょっと見にくいけど、この表面に刻まれている模様のようなものは・・・何か分かるかい?」写真を咲姫の方へ少し動かした。


 「ええ、これは烏文字からすもじよ」神田から写真を受け取り、それを見るとすぐに言った。キャシーも興味深げに覗いた。

 「烏文字からすもじ?」

 「ええ、それもかなり古いものね。今のはもっと分かり易いわ」写真をキャシーにも見えるように動かした。


 「今は、熊野三山くまのさんざんのおふだに使われているものだけど、もともとは、大事な誓いの言葉を文字にするときに使われたものよ」顔を上げて神田を見た。

 「で、なんて書いてあるか分かるかい?」

 「数字みたいね」咲姫はジッと見ていたが、

 「これは・・・」咲姫さきの顔が急に困惑の表情に変わった。


 「何?どうしたんだい?」そう言いながら、写真を咲姫さきの手から取って改めて、そこに写っている鉄の棒を見た。

 「なんていう数字なんだい?」顔を咲姫へ向けた。キャシーも咲姫の顔を見つめている。

 「三の一」咲姫は顔を上げ、神田かみたの顔を見つめて、困ったように言った。

 「え!?」

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