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僕が大きな木に生まれ変わった話

作者: 山奉行

 ある日、目が覚めたら目が見えなかった、鼻も利かなかった、喋れなかった。触覚と、何故か辺りの気配が感覚としては分るんだけど、そもそも体が自由に動かせない。


 僕は、小さな粒になっていた。どうやら僕は、何かの種らしい。


 ある日、雨が降ってきた。水だ、水だ。僕は大喜び。人間だった頃は、種から芽が出たと言っていたが、こうやって植物になるとよく判る。芽が出るのじゃなくて、根が張るほうが大事だ。ここはいい土地みたいだ、栄養がたっぷりある土はとっても美味しい。美味しい水と美味しい土、そして晴れてきたらたっぷりのお日様。なんでもない事だけど、それがこんなに幸せだとは人間だった頃には気付かなかった。


 ぼくはどんどん成長する。生まれたときは雑草だったら嫌だなぁとか、すぐ食べられちゃう草だったり、野菜だったら嫌だなぁと思っていたが、どうやら違って木になってるみたいだ。どんどん大きな木になれば長生きできるだろう。折角植物に生まれたからには植物ライフを楽しまないとね。


 どうも、僕は村はずれの小高い丘に立っているらしい。最近子供たちが僕の周りで鬼ごっこしたりして遊ぶようになってきた。元気な子供は大好きだ、僕が憩いの場になってるのはちょっと嬉しい。でも、蹴らないでね。


 最近鳥が巣を作るようになった。僕は大分大きい木になっている、多分10メートルくらいかな?ここの土は美味しいし、周りにそんなに木が生えてないから栄養独り占めだ。雛がきちんと大きくなれるように、枝で木陰を作ってあげよう。あと、雛鳥を狙う蛇はこっちに来ないでおくれ。


 鳥さんは虫を食べてくれる。最近虫が多くて体が痛かったんだ、頑張れ鳥さん。雛も僕の体にある虫を食べて大分大きくなってきた。そうか、僕が美味しいから虫がやってきて、虫が美味しいから鳥がやってくる。鳥の糞は地面に還って僕の栄養になる。なんと素敵なサイクルなんだろう、そう考えると虫に食べられるのもそう悪くないな。でも、痛いからちょっと手加減してくれよ。


 気が付いたら僕は村一番の巨木になっていた。子供たちは―もう何代目の子供たちだか数えてもないけど―僕に登って遊ぶようになった。ああ、僕に視界があったらパンツを覗くのに。いやそうじゃなくて、登るの自体は大歓迎だけど、怪我には気を付けてくれよ。ああ、そっちはまだ枝が細いから折れるって。


 僕から見る景色は最高らしい、僕に登れることが村の子供たちにとって一人前の証になった。僕が人間だった頃は高い所苦手だったから、子供たちの方が凄いと正直に思う。気をつけて登って、鳥の雛には手を出さないでね。


 そして、どうやら僕はモチノキらしい、村の大人が僕の皮を剥いでトリモチを作っている。ちょっと痛いけど、村の人の役に立つなら仕方ない。でも、優しくやってくれよ。あと、僕の木に住んでる鳥には手を出さないでほしいなぁ。僕のおかげで最近は美味しい鳥料理が食べられるようになったって皆喜んでる。村の皆が、僕に登った子供たちが大きくなった彼らが喜ぶのは僕の喜びでもある。


 すっかり僕も植物ライフを満喫している。最近じゃ新しい王様だか殿様だかのお城に向かう街道が、僕の傍を通る形で作られた。現代日本からファンタジーの世界か大昔に転生している事に今更気づく、なるほど、通りで空気が公害臭くないわけだ。


 旅人が僕の前を通って行く、村の人が長椅子を作ってすっかり僕は休憩所だ。でも、鳥の糞には気を付けてね。僕は僕に住んでる鳥も大好きだから、皆仲良くしてほしいんだ。僕はすっかり村の名物で、周りの人からはでっかいモチノキの村って呼ばれてるらしい。ちょっぴり鼻が高い(花はついても鼻はないけど)のは内緒。


 なんと、殿様が僕を見に来てくれた。殿様も、こんなにでっかいモチノキは初めて見たらしい。村長さんも嬉しそうだ。彼は、昔僕を蹴っ飛ばして遊んでたクソガキだったのにね。もうこの村の人達は、何代も見てきてるから全員僕の家族みたいなものだ。


 殿様は、僕をこの地のご神木として祀ってくれるらしい。でっかいネクタイみたいなしめ縄で飾ってもらった僕はちょっぴり男前なのだろう。


 でも、幸せな日はこの後すぐに終わってしまった。殿様と隣の国の間でいくさがあって、殿様が勝ったのはいいのだが、落ち武者がこちらの国にやってきてしまった。


 落ち武者達は野盗になって周りの村を荒らしまわる。殿様も大急ぎで何とかしようとするのだが、まだ国境に兵隊の大部分を置いておかないといけないので、対応が後手後手に回ってしまっていると旅人が不安そうに僕の下の長椅子で話していた。


 僕も不安だ。僕の家族である村の人たちが心配だ、何で僕は動けないんだろう。彼らが大好きで助けてあげたいのに、僕にできるのはここで皆を見ている事だけだ。ご神木という事でお参りする人が増えたけど、何にも出来なくてごめんよ。ファンタジーの世界にいたトレントみたいに動いて戦えるご神木、かっこいいと思うだけどなぁ。


 ある嵐の夜、とうとう野盗が村にやって来た。幸いにして早めに見つけて皆殿様のお城まで逃げ出している、僕の横を通って。僕はここに立ってるだけだ。神様、もし本当にいるのなら、僕をどうして構わないからあいつらをやっつけて下さい。


 そして最後の村人が僕の横を通り過ぎて、野党が僕の傍まで追いかけて来た時、僕の祈りが叶ったのか、それともただの偶然か、僕に大きな雷が落ちた。


 僕は燃えて倒れる、野盗の方に向かって。野盗の連中は燃えた大木、つまり僕に押しつぶされて大怪我と大やけどしてる。僕の家族に手を出した報いだ。幸いにしてひな鳥はもう巣立ってて、僕を家にしてた鳥さんたちは上手く僕から逃げられたみたいだ。よかった。


 僕は死んでいくのだろう、意識が遠くなっていく。でも、悪くない気分だ。だって、立ってるだけの僕が、何にもできない僕が家族を助ける事が出来たのだから。


 その後、村人達は自分たちを救ったこの大木をこのまま朽ちさせずに、接ぎ木をした。幸いにして接ぎ木は上手くいき、村の新たなご神木、守り神として祀られている。


 近くに建てられた神社では、城下から送られた宮司が村の子供や旅人に、村を守った偉大なご神木の話をしている。


 ご神木はまだ若木だが、いずれ大きくなるだろう。なぜなら、土と水と太陽と、この地に住む鳥と村人の全てがこの木を大好きだから。

2ちゃんの某スレで転生ものの話になった時

植物に転生するってネタを誰かが書き込んでた。


それを見て、実際に作ってみた。

動けない、他人と意思の疎通が出来ない、そんな植物の話。

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