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08:セフィラさん仕事してるの?

ある日の昼休み。お腹いっぱいごはんを食べてご機嫌な顔で希樹は友達と別れて裏庭のベンチで日向ぼっこしていた。

勿論日向ぼっこだけではなく、片手にはちゃんと教科書を持っている。

というのも来月には早速テストもあり、出来れば赤点など取りたくないからだ。


黙々と教科書を読んでいると頭上から絹を裂くような悲鳴が聞こえて

ゆっくりと頭上を見上げると


「そ、空から男の子が!!!???」


「うわあああにゃああああああああああああああ!!!!」


希樹の後ろの校舎から落ちてきたであろう少年を教科書を放り投げてキャッチする。

必然的にお姫様抱っこになってしまい、少年は恐怖で身体をプルプルさせながら

希樹の首にキツく抱きしめてくる。


なんだか、とってもデジャヴだなぁと希樹は苦笑しながら考えた。


恐る恐る少年の顔をみると、やはりこの間子犬に追い掛け回されていた少年だった。

今日は半裸ではないけれどYシャツの前部分が濡れていて、まるで桜のような乳首が透けてしまっている。


まだ恐怖が収まらないようなので、されるがまま抱きしめられている。

どこかバラのようなとても素敵な香りが彼の肌からして、あれ?と希樹は目を見張る。

もしかしたらと、よく香ってみようと顔を近づけると


「うわあ!!へ、変態っ!!!」


ようやく現実に戻ったのか、希樹が顔を近づけたタイミングで

大きなメガネでも隠せないほど目元や頬をさくらんぼのように赤くさせて暴れだした。

それに苦笑しつつ、ゆっくりと下ろしてあげると脱兎のごとく駆け出した。


「な、なんだったんだろう…」


結局今回も変態のレッテルを貼られてしまい

困惑した表情をしながら希樹はつぶやいた。



◇◆◇



学校帰りにセフィラのお家に寄ることにして、希樹はいちご大福を買った。

甘党だからいちご大福で喜んでくれるだろう、それに家にお邪魔するのに手ぶらは居心地が悪い。


あたりはもう薄暗く、セフィラ様の家もオレンジ色の明かりがついている。

それもこれも、今日はついに小テストの点が悪かったことで放課後先生に呼び出されてしまったのだ。

頑張って復習をしているが、勉強の基礎を忘れているため未だにみんなのレベルに追い付いていない。

ため息をつきつつ、家には友達と遊んで帰るから遅くなると連絡を入れておき、セフィラの家に入った。


「セフィラさん、なにしてるんですか?」

「おお、勇者様ちょうど良いところに」


セフィラはTシャツジーパンというラフな服装で座布団に正座をしテレビを見ている。

希樹は靴を揃えた後にセフィラに見せるように手持ちの大福を軽く持ち上げた。


「えぬえいちけーという放送のドラマが面白いのですよ」


彼は希樹に近づくと手持ちの袋を軽くのぞく。


「おお!なんと面妖な菓子を!ありがとうございます。今お出しいたします。」


わくわくが抑え切れない様子でセフィラはいちご大福を皿に盛り付け緑茶を出してくれた。

希樹とセフィラ様はドラマをいちご大福をつまみながら見る。


「ねえセフィラさん」

「なんでしょうか?」


2人は画面から目を離さず会話をする。


「魔の反応って本当にないんですか?」



一瞬の静寂が長く感じるが前のように殺気が出ているわけではなくのんびりとした空気が流れる。

セフィラは一度お茶を口に含むと、ふうと息を吐きだした。


「勇者イツキよ」


まるで神託を伝えるような深い声色で名前を呼んだ。

そしてセフィラはテレビから目を離し、希樹を見据えた。


「私は生まれてから神殿で修行を積んでまいりました。

来る日も来る日も修行と仕事の毎日…ですがとても実りのある毎日でした。

……賢い貴女様ならば私の心情を察してくださいますね?」


セフィラは神々しい笑顔をして、希樹に訴え、圧力をかけた。

希樹はそれに汗をかきつつもうなづいた。


「…まぁ本当に魔の反応がないのですが」


「あ、本当にないのですね」


セフィラは大福のもち部分をびよーんと伸ばしつつも神妙な顔で答える。


「いくつか考えられることはありますが、推測の域をでないですね。

有力な点としては力が弱すぎて発見できていない。

ですが最悪なケースとしては誰かが魔を管理している、などです。」


もちはべちっとセフィラのほっぺたを攻撃し、そのまま張り付いた。

それを希樹は眺め、自分の伸ばしていた大福はそこそこの長さで留めておく。


「うーん…前の例もありますし魔を管理しているほうがありそうな気はしますが」


「ですがこちらの世界に魔法がないとなるとその線は薄いです。」


「……そうですね」


一瞬嫌な予感がした希樹だったけれど今は考えても無駄だと思い

お茶をすすりつつドラマをみることに専念しようとした時だった。


「!」

「ようやくきましたね」


その瞬間魔の気配があたりを覆った。

粘着くような生暖かいような気配に、希樹は確信する。

セフィラも希樹もお互い軽く微笑むと家から出てその反応がある方向へと駆け出した。

希樹は塀を軽く上り、家の屋根を音を立てず飛び越えていく。

セフィラは自信を白い鳥へと姿を変えその横を羽ばたく。


「なにか情報が得られるといいですが」


セフィラの思案した声と風を切る音だけが聞こえた。



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