07:嫌いになれないよ
「セフィラさん、随分和風な家にしたのですね…」
「ええ、折角ですし勇者様の生まれの日本の文化を楽しもうと思いまして」
学校が終わり、セフィラが住んでいる家を案内すると伝えられたので希樹はお邪魔することにした。
案内された先には家庭菜園付き一戸建ての古民家で、希樹の家の近くにあった。
田舎といっても最近は開発が進んでいて、都会とそんなに大差ないので
平屋の昔ながらの家はあまり見たことがなく、新鮮な気持ちで希樹は眺める。
「イロリってとってもクールですね!」
「セフィラさんが囲炉裏使ってると違和感ありますね」
まるで戦国時代にトリップしたような純和風の部屋で
囲炉裏を囲いながら出されたお茶をすする。
「はい勇者様、お団子やけましたよ」
「いえ、セフィラさんお団子じゃなくて魔の捜索はどうしたのですか!」
魔は記憶を食い成長をする。
最初の潜伏期間は対したことのない日常の何気ない記憶を食べるからそんなに被害はないが
身体が変形するほどになると、記憶がおかしくなり、幻覚を見て人を襲うようになる。
そこまでくると魔を退治して身体を直しても、大事な思い出の一つや二つ無くすこともある。
だから出来れば早く探し出し、退魔をしたほうが安全なのだが
いかんせん希樹は退魔できるけれど、魔を発見することはできない。
「それが……魔の気配はあるのですが正確な位置がわからないのです。
……まるでなにかに隠されているようで」
「……」
2人の間に沈黙が流れる。
お互いが殺気を出し肌にピリッとした空気が流れるがそれを気にした様子もなく
セフィラは茶器を手にもった。
「このあたりに気配はあるので、孵化すればおのずとわかるでしょう」
「悠長だなぁ…」
人間に憑依して身体が変形した魔などのことを『孵化』と呼ぶ。
セフィラは孵化する前の潜伏している魔の気配を察知することが出来きるかなり貴重な人材だ。
だから戦闘能力がなくても、こちらの世界に来るのに選ばれたのだろうと希樹は思う。
「……こちらの世界は本当に平和なのですね」
セフィラは少し寂しそうに微笑んだ。
希樹は考え事をやめてお団子を飲み込み、ゆっくりとお茶を飲んだ。
「貴方が帰りたがった理由がやっとわかった気がします」
あちらの世界はお世辞にも治安が良いとは言いづらい。
希樹は日本にいたときにはスリにあったこともなければ強盗にあったこともない。
街中で喧嘩をみるのも1年に1度あるかないかくらい。
あの世界で平和な町もあったけれど、安全が確証されているところではなかった。
確かにこちらの世界のほうが暮らしやすく安心できただろう。
それに異世界に行かなければ希樹は普通の女の子でいられたのだ。
「でも、10年…」
希樹は持っているお茶をみつめつつ、ぽつりと小さい声でつぶやいた。
「10年もあちらの世界にいたんですよ
この街も好きではありますが、あちらの世界だって懐かしむくらいには好きです」