05:貴方と私の事情
セフィラは異世界での仲間で初代勇者の女神を信仰している司祭だ。
そして希樹の師であり、お守り役であり、仲間でもある。
ぼんやりと彼を見つめながら希樹は今までのことを思い出す。
最初、突然召喚されて泣き喚いてる私を宥め慰めセフィラさんが丁寧にいろいろな理由を説明してくれたっけ。
それからあの国の歴史、これからする事、マナーとかあちらの世界での貴族との接し方……
文化の違いがかなりあったから、最初は言っていることは分かるのに宇宙人と話しているようだったけど
セフィラさんが歩み寄ってくれたから私はあの世界に馴染めたんだと思う。
…そんなセフィラさんをこうして日本でみると、とてもでかいな、と感じる。
器とかではなくて、身長が。
セフィラさんは司祭のくせに身長が2mあり、ひょろいわけじゃなくてかなり鍛え上げられた筋肉がついていて
彼の美貌と含めて誇り高い狼の様な印象がある。
今更ながら戦闘要員というわけでもないのにそのしなやかな筋肉はどこに使うんだろう。
ちなみに今まで気づかなかったのは元々あの世界は身長が大きい人が多く、2.5mの傭兵のおじさんがいたからだ。
女の人も170cmくらいが多く高い人だと180cmちょい超えだった。
そんな大きいセフィラさんが私の部屋にいると私の部屋がミニチュアサイズに見える。
そう、河川敷で出会ったけれどとりあえず場所を変えようと私に家に場所を移したのだ。
母が買い物にいっていて家に誰もいなくてちょうどよかった。
もしいたらなんといわれることか…。
「この世界は様々なものが小さい…まるで小人の世界のようです。」
セフィラさんもそう感じていたのか、まじまじと部屋を見回しながら言う。
その様子が新鮮で思わずくすりと笑った。
◇◆◇
「つまり私の帰還の際、残っていた魔がこちらにも迷い込んでしまったってことですか?」
「ええ、その殲滅作業に私が馳せ参じました。」
事の大きさに驚きはするが、あまりにも深刻な事態すぎて希樹はリアクションも取れない。
いつもニコニコしたセフィラもさすがに表情が陰る。
希樹は嘘であってほしいと、その望みをかけつつセフィラに問いかけた。
「確か全てを殲滅したはずでしたよね?」
そう、10年かけて希樹達が全ての魔を殲滅したはずだったのだ。
それに『魔』を傾倒していたりそれを売り物にしていた組織の処分も終わらせたはずだ。
伊達に10年あの世界にいたわけじゃなく、取り零しがあるはずがない、と考えている希樹は困惑した。
「原因はわかりかねます。ですが人がすることです…間違いや見落としもあるでしょう。
私も皆も貴方に謝らなければなりません。貴方の世界を危険に晒してしまうことを」
セフィラは儚げに深く眉を下げ、悲しそうな表情だ。
まるで一つの芸術品のような美しく繊細な顔だけれど希樹は見慣れているのだろう、なんてことのない顔でそれを見つめる。
「また貴方のお力を拝借させてください」
セフィラは勢いよく膝をつき、あちらでの最大の敬意を表す礼を取った。
希樹は慌ててはしゃがみ込むと友として、下を向いた彼の顔を覗き込む。
「こちらこそ、私の世界の危機を知らせてくれて感謝してます。
私を放って置くこともできた…。それに異世界に門を作ることはとても大変だと聞きます。」
作らなくても優しい気持ちでいっぱいになり、希樹は自然と笑顔が浮かんだ。
あちらにいた際に異世界に門を作るのは大変で、とてもお金も魔力もかかると聞いていた。
見て見ぬフリもできたはずだ。気のせいだと知らないフリでもすればいい。
でも彼らはしなかった。
セフィラは顔を上げ、いつもどおりの作り物みたいな美しい笑みを浮かべる
だけれどその中から少し困惑の色を希樹は見つけた。
彼のスカイブルーの美しい瞳が少し戸惑いに揺れている。
「私は当たり前のことをしているだけです。
大変でも世界を救ってくれた貴方を、そして私たちの大事な友を救うのは当たり前です」
彼は立ち上がり彼女を優しく抱きしめた。
大きな手のひらが彼女の肩を優しく包む。
希樹は彼の表情が忘れられないでいた。