表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

19:協力者

深夜の公園は電灯がちらほらとあり、思っていた以上に明るい。


希樹は目の前の丸い出目金のような、ぽよんっとした生き物をしげしげと眺める。

その出目金――いや出目金の妖怪はぽよぽよと宙を浮いていた。


つんっと1匹つつくと口から水泡らしきものを1・2個ポコポコと吐き出す。


「妖怪って結構かわいいよね」


「可愛いけど、この子達の泡に触ると爆発するから気をつけてちょうだい。

ボンッ!!!「いったぁぁ!!!」……ってああああ!もう、並野くんったら言ったそばから…!」



希樹は手をやけどして涙目になっている並野と春日をを見やると

なんだかんだで馴染んでいる自分に、ふとここに至るまでのことを思い返した。




学校での事件から、1週間経ち

妖怪に取り付いた魔を倒すために希樹と 4人(・・)は毎日行動をともにしていた。


彼らが守る妖石は封印が解けたことによっていくつか欠片になって割れ

そのままどこかへと光りながら飛んでいってしまったのだ。


推測だが、妖石はどこかの妖怪の手に渡ってしまった可能性が高い。

なので彼らは残った石を守りつつ、妖怪退治をして欠片探しをしていて

魔の(暴走した妖怪)退治はあくまでもそのついでだったらしい。



希樹にとって正直、妖怪退治は難易度は高くない。

ただこの世界のことを知るにはとても有効だった。


詳しいことを聞いていないが、うっすらとこの世界の全体像は見えてきた。

彼らと行動していてよかった、と希樹は微笑む。


(あまりにも逸脱した力は幻妖協会に目をつけられるようだし

話を聞く限りあんまりいい団体には思えないんだよね。

ま、その点私が最初に接触したのが、お人好しなこの子達で運が良かったかな。)



希樹は出目金のお腹をツンツンとつつきながら、少女を見つめる。



春日と呼ばれた少女は名前を『春日(かすが) (さくら)』といって

夜見町の真ん中にある小さい神社の娘さんのようだった。


学校で見る春日の印象としては汚れがないまさに美人で

頭も良く、物静かで、男子生徒からは『大和撫子』と評価されている。


(――でも春日さんって結構……気が強いよね。まぁ、なんだかんだで優しいけど…。)


希樹は並野に治癒術をかけつつ小言をいっている春日を苦笑してみつめた。


一緒に行動をしてから、希樹は彼女が猫を被っていると気づいた。

並野や留香に対して遠慮がなく……特に並野にはお母さんのように口うるさく注意などしているからだ。

だが、希樹に対してだけ丁寧な対応なのは居心地が悪いので、敬語は必要ないというと


『ぇ、えぇ……いいの?』


と最初はもじもじしていたがすぐに敬語は取れ、彼らと同じ対応になり

よそよそしさはなくなったのを、少し希樹は嬉しく感じていた。


「いっ!?春日さん、もうちょっと優しく…!」


同じクラスの並野は『並野なみの 陽太ひなた』といって

見たとおり少し臆病で、でも人一倍優しい男の子だ。


妖怪に縁もゆかりもない一般の学生だったらしいけれど

うっかり妖石を守っていた神域に入り込んでしまい、封印をといてしまったらしい。

それで責任を感じて……というよりは春日がすごい剣幕で手伝うよう強要したようだ。

なので妖怪にも戦闘にもなれておらず、このチーム一番の初心者だ。



希樹はわいわいと2人が楽しそうにしているのを遠巻きにして

もくもくと金魚退治をしている留香を寂しそうに眺める。



(―――幼馴染だからって全部知ってるわけじゃないもんね

私だって、10年も異世界にいってたんだもん…。)



希樹が彼らと行動していて一番驚いたのは、留香の経歴だった。



留香は春日と同じく、古くからいるこの町の妖術使いの血筋のようで

幼い頃からずっと妖術使いの修行をしていたエリートで

中学の終わりあたりに幻妖協会という、異形退治専門の団体に所属していたらしい。

若くして強く、協会では尊敬の目で見られていたのだと。


希樹はいつ留香がそんな修行をしていたのか気になったけれど

確かにいわれてみれば思い当たることがあるような気がしなくもないのだ。


「世の中まだまだ知らないことだらけだなー…」


希樹は金魚の泡を指で爆発させながらつぶやいた。

彼女の手は魔力でガードしているおかげで、傷ひとつなかった。



◇◆◇



「え、なんでユウは怪我してないの?」


――ユウと呼ばれ、振り返った希樹はにっこりと微笑む。


希樹は彼らに『ユウ』と偽名を名乗っている。


それもこれも、ユウと呼ばれるようになったきっかけはセフィラで

うっかり皆の前で『勇者様』と呼ばれそうになったのを慌てて口を塞ぎ

ごまかすためにユウという名前だということにしたのだ。



(――もともと偽名を使う予定ではあったからいいけど)



それよりも質問に答えようと、腕にゆっくりと魔力を腕に這わせる。


「魔力……うーんややこしい、妖力で「手をガードしているんだぜ!」


途中上から声がして、4人はまたか、と呆れたように空を見上げた。

空にはメリー・ポピンズのように傘で空を浮かんでいる男性がいた。

驚きそうな話だがもうこの光景には見慣れている4人は、ゆっくりとその男性が地面に降り立つのを待つ。


だがぷかぷかと浮く彼は中々降りてこないので、若者4人はしびれを切らし、話しかける。


光夜みつよおじさん早くして!!!」


「おっさん、いいかげん早く降りろ」


「光夜おじさん!春日さんも留香くんも怒ってますよー!」


「あはは、おじさんー早く早くー!」


上から春日、留香、並野、希樹が声をかけると


「はっはっは~おじさんそろそろ膝がいたいからな~……って俺はまだおじさんじゃねーぜ!」


それまでのゆっくりの飛行が嘘のように急降下してくる。

そしてピカピカに磨かれた革靴でしっかりと地面を踏みしめると「よっと」と軽快に声を出す。


儚い


見た目だけは、そんな印象が似合う20代過ぎの男性だ。

スーツも白ければ肌の色も白い。髪の毛もやや白よりの灰がかっている。

シャツや靴がかろうじて黒などだが全身がモノクロだ。


唯一色があるのは瞳で、そこは真っ青とハチミツのような黄色のオッドアイ。

痩せ型で筋力があるのか怪しいほっそりとした体型に、ねこっけのふわっとした髪の毛を無造作にしている。



そして彼の一番の特徴は―――半透明なことだ。



「よお!ケツの青いガキンチョ共、まだ妖壁ようへきの使い方知らなかったのかい?

このダンディーでアダルティーな大人の魅力溢れまくり!!の!!光夜様が伝授してやるぜ?」


「……俺は知ってる」


「はぁ~?あんなんで完璧だと思ってんのか?ルカ坊はよ~!」


未熟者め~!と光夜と呼ばれた青年はぐりぐりと留香の髪の毛をぐりぐりと撫でる

それを留香は不快に眉を寄せ、そのまま腕を振り上げて攻撃しようとするがすり抜けてしまう。


「チッ!アンタに攻撃が効けば殴ってやるのに!…って顔してるぜ~!

殺意は隠してくれよな!ちょっとオジサン傷ついちゃうから!」


冒頭で4人と語った通り、彼らにはもう1人協力者がいる。


それがこの馴れ馴れしいこの男で『春日(かすが) 光夜(みつよ)』だ。

彼は春日の叔父にあたる人物で、色々と顔が広く妖石を持っていそうな妖怪の情報をくれている。


(…みんなから、ウザがられているけれど)


と希樹は頭の中だけで情報を追加した。



―――ちなみにこの男に攻撃が効かない訳は、幽体だからだ。


詳しい理由を希樹も聞いてはいないが

本体の体は別のところに隔離されているようで、身体に戻れないらしい。


しょうがないから、と幽体のままかれこれ10年以上生活までして

しかも幽霊探偵と名乗って生計を立てている、細っこい見た目に似合わずトリッキーで逞しい男だ。




「妖壁っていうのは妖力を使って防御することだぜ。

ヒナ坊はまだ妖力を術にだけ使ってる状態だが、これを硬く変化させて身体へ纏わせる。」


できるか?と光夜は並野にレクチャーを始める。

それを希樹は途中までみていたが、退屈していそいそと金魚退治へと戻ろうとすると


「こら待て、ユウ坊」


光夜はこそこそと場を離れる希樹のことをしっかりと見つけ、名前を呼んだ。



一瞬、音がした。


その次の瞬間には後ろを向いていた希樹の頭付近から『何か』が割れた。

破片がパラパラと落ちるのを眺めつつ『何か』が石だと知る。


――並野にはそれしかわからなかった。


「おじさん、なにしたいの?」


「――みたか?ルカ坊…これが色気のある妖壁の使い方だぜ。」



希樹は振り返り、腰に手をあてて呆れたように光夜を眺める。

光夜はビシッと希樹を指をさす。


「今のは俺が投げた石をユウ坊が妖壁でガードしたんだ。

もともと薄く纏わせていた妖力を一瞬で膨らませてな。

……ルカ、お前の妖壁は防御する場所…今回だったら腕だけ妖力を纏わせているが、不意をつかれたらどうする?」


留香はぐっと口を歪ませ、悔しそうに光夜の話を聞く。

彼には希樹の防御の早さが見えたのだろう。


「ルカ坊の技は全体的に色気が足りねぇからな。ユウをお手本にしろよ。

ユウの妖力の使い方はエロいぞー!坊主にしとくにはもったいないくらいだ!」


「光夜おじさんそれセクハラだから!」


「なにそれ、エロい術の使い方って響きが不快なんだけど…。

…まぁ、おじさんなりの褒め言葉として受け取っておくよ。」


女子2人からは大ブーイングに気にした様子も見せず

光夜はうんうんと頷きつつ、舐め回すように希樹を眺める。


「いや~本当に勿体無いぜ、お前がハタチすぎの女だったらおじさん惚れてたわ」


「光夜おじさん…ほんっとキモいからやめて…」


「ハハハ…ア、オレ、デメキン、タオシテクル…」


希樹は背筋がぞくぞくしつつも、光夜の言葉を聞こえないふりをした。


(一瞬、本当の年齢がばれたのかと思った…)


ヒヤヒヤしながら出目金を倒すが、ずっと光夜から見られている感覚がなくならず

こうして出目金退治ごときに気力をごっそりと奪われるのだった。


光夜おじさんは見た目がおじさん臭くないおじさん枠です。

希樹は男の子に勘違いされてます。主に光夜の呼び方の所為とぺったんこだから…しかたないよね…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ