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14:謎の介入者?

薔薇の妖精はローズという名前で3人は成り行きで話を聞くことになった。

要約すると、ローズの友達リリーは祝福を授けに町に出たら

何者かに捕まり、この妖精の世界に戻れなくなってしまったということらしい。


交信はできるので場所はなんとなくわかるけれど、妖精達は戦闘力はなく

戦闘力のある者はあの蔦のモンスターしかおらず

あのモンスターを助けにいくのに使ったら、この町の警備がスカスカになってしまうのでそれもできない。

――むしろそれが目的なのではないか、と彼女は言った。


「こんなこと、会ったばかりの貴方たちにお願いするのもどうかしていると思うわ

でも、貴方たちの力があればあの子を、リリーを助けられるはず。」


悔しそうに話をするローズは渋々といった様子でお願いをする態度ではない。

妖精は2パターンにきっぱり別れる。


偏屈で意地っ張りなタイプと穏やかで友好的なタイプだ。

どうみてもローズは意地っ張りなタイプである。


セフィラは思案するように顎に手を当てた。

その色っぽい繊細な手つきにローズは思わずカァっと顔が赤くなってしまう。


「犯人はどのような方なのですか?

妖精が見える上に捕まえるなど普通の人間ではないのでしょう?」


「……わからないわ。

だけれど交信したリリーがいうには黒い煙の塊ようなモンスターだと言っていたわ」


そういった瞬間希樹とセフィラは顔を見合わせて

お互い意志を伝えるように目配らせた。


「それって、俺をこの間襲った…」


「ええ…カンがいいですね。そうです『魔』です。」


魔がなにかしら知性をもって襲うことは時々ある。

憑依されたものの意思が反映されることがあり、その目的を無意識に達成しようとするからだ。

今回は前者か後者かわからないが、用心するに越したことはないだろう。


セフィラはニコリとローズに微笑みかけて彼女を『魅了』した。

希樹はそれに気づいて妖精相手にかけ辛いだろうに、と呆れつつそれを黙認する。


――この美貌の男は普段呆れるくらい天然だが、自分の魅力を十分に理解しているのだ。


「我々が倒しに行きましょう。

――ですから、その代わり彼の祝福を解いてくださいね。」


セフィラが小さい彼女の頬っぺたに指先を寄せると、壊れた人形のようにローズは頷く。

先ほどの意地っ張りな彼女の態度が急変して、タマは首を傾げた。



◇◆◇



場所は数駅離れた付近の廃業になった工場だと聞いた。

たしかにこれだけ離れていて、弱い魔なら気配を追えないのも納得だった。


希樹とセフィラは早速その犯人をやっつけに行こうと腰をあげる。

勿論2人はタマをおいていく気満々でさっさか出口へと向かってしまう。


「お、おい!俺を置いていくつもりか!?」

「あ、心配しなくても夕方には戻ってきますよ。」


希樹が答えると、タマはなにか決心したような顔を上げて目の前に立ちはだかった。

ぎゅうっと握った拳に爪が食い込みそうで白くなっている。


「俺を連れていけ!!」


キョトンと虚をつかれたように驚き、2人は顔を見合わせる。

まさかあんなビビってばかりの彼がついていきたがるなんて思わなかった。


「…まぁ大丈夫じゃないでしょうか。」

「いや、そうですけど。」


そりゃあまぁ初期型の魔ならタマがいたところでなんともない。

だけれどなにかがないとも限らない。


「元はといえば俺のこの呪いを解くためだ。

…一人こんなとこで安全にしているのも、違うだろ…!

見てるだけかもしれないけど、一人のうのうとしてるなんて出来ない!」


キッと睨みつけるような表情でみる彼を希樹は眩しいものをみるような目で見る。

希樹がなくしたような初々しさがあるようで、とても美しいと思ったのだ。


「うん、じゃあ一緒に行こう!」


微笑みながら、手を差し伸べるとタマは決意を決めて手を握った。



◇◆◇



「うわあああああ!!!!あああああああ!!!」

「あははは!楽しいいいいいい!!!!」

「あ、うるさくしても大丈夫ですよ。結界はってるので聞こえませんから」


希樹達は空を飛んでいた。


妖精の羽からは空を飛ぶ効果の粉がでるのでそれを靴に振りかけてもらい

セフィラの『歪み』魔法を使い周りからみえないようにしているのだ。


希樹とセフィラのコンビは『さあ!行くぞ!』となっていたところタマから待ったがかかった。

二人のニコニコ笑顔を青ざめた顔でみつつ、額に手をあて問いかける。


「え、俺の思い違いじゃなければ空中を?飛んで?いく?」


間違いだといってくれとばかりの声色だったけれど

極力空気を読むということをしない2人の師弟には通じない。


「うん、電車じゃ移動時間結構かかりそうですもん」

「ちなみに空飛んでて靴が脱げた場合は…」


顔色が青から白に変わったタマに希樹は残念そうな声色を作って答えた。


「残念ながらその場合は落ちるしかないですね

大丈夫!私かセフィラさんがキャッチできると思います!!」

「ええ、浮遊魔法もつかえますし!ね!」


目をキラキラさせつつ2人はキャッチのポーズをとった。

それを見たタマは悟った。


「ああ…!!この浮かれ具合…お前ら絶対空が飛びたいだけだろ!!!!!!!」




◇◆◇





そんなタマを無理やり空の旅に連れて行ったところ

声をあげるくらいには楽しんでくれているようだ……と希樹は感心したように頷いた。


よろよろと子鹿のように歩いていたタマを見かねセフィラが靴に加速の魔法をかける。


タマが恐怖でさらに絶叫したことは言うまでもないだろう。



目的地の廃工場につき、徐々に下降して着地する。

希樹がタマの方をみるとセフィラにしがみついてヒューヒュー言っていた。

移動するだけでこんなになってて大丈夫かな?と思いつつも希樹だけ先に工場へと向かう。


廃工場といってはいるが元がなんの工場かは知らなかったが

どうやら食品の製造工場だったようで剥がれた壁からレーンのようなものが見えた。

周りには家はなく静かで、工場の手前には車を止めるスペースがあり、割れたコンクリートの間から雑草が生い茂っている。


その足場の悪いコンクリートの地面を歩くとすぐに異変はわかった。

魔の気配はしないがあの独特の生臭さがあり、多分だがさきほどまでいたのだろう。


だが、


「浄化、されていますね」


希樹とセフィラは今までにないほど厳しい顔つきで荒らされた工場をみつめる。


工場内部はしっちゃかめっちゃかに荒らされていて、半壊していた。

中には大きな焦げ跡もあり、大きな水溜りもあり、戦闘の跡だと思われる壊れかたが見受けられる。


そして工場の手前には浄化されたであろう猫の数々が倒れていた。


希樹はそのうちの黒い猫に近づき、匂いを嗅いだ。


この黒い猫が先程まで魔に憑かれていたのだろう、一番匂いが強い。

猫達が妖精を捕まえたかったのだろう、魔になってまで。


(――私たちはなにもしていない)


じゃあ、なぜ浄化されている?


希樹とセフィラはなにも言わないがお互いに警戒のレベルを上げて周囲の気配を探る。

タマは猫の傷の手当を軽くしてあげているが、2人のピリピリした空気を感じ怯えていた。


タマをここに連れてきたのは失敗だったかもしれない。

状況がわからない、というのは最悪の状況を考えた時より余程恐ろしいのだ、と希樹は考えた。


(――私たちが知らない『なにか』がここで起きているなんて、あってはならない。)



「……考えられるのは」


セフィラが穏やかな声色で話しかけた。

まだ空気がピリピリしているが、セフィラは微笑んでその場を楽しんでいるようでもある。


「1、魔はここにいたが遠い他の箇所へ行ってしまった」


あまり可能性はないが、そういう可能性も少しはある。

猫の匂いが強いのも、接触していたからというのも考えられる。

…接触していたら多分殺されていたと思うが。


「2、魔が暴れたあと勝手に浄化した」


その可能性もないともいえない。

時々取り憑かれた者の意思が強い場合勝手に治ってしまうこともある。

だが、複数の猫たちが全て浄化するだろうか?


セフィラも歌うように口を開く。

希樹もセフィラも考えていることは同じだろう。…あまり信じられないが。


「――3、私たちの他に、魔を倒せる人物がいる」


セフィラは楽しそうに、希樹は厳しい表情を浮かべ思案した。




妖精は無事に工場の隅っこの鳥籠の中で発見された。

白い可愛らしい妖精はセフィラがお気に召したようで『怖かった!』と泣きながらも彼にくっついた。

いつの間に『魅了』の魔法をかけたんだ!?と希樹は思ったが特に魔法は使っていないようだ。


事情を詳しく聞こうとするが希樹の言葉には総スルーで夢見心地でセフィラを見つめている。

ちなみにセフィラがなにがあったか聞くとほぼ気絶していてなんにも知らないと返された。


「でも、気のせいかもしれないですが…若い男の子の声が聞こえた気がいたしました。」

「…そうですか」


だが夢の中の話なのであてにならないとは念を押されて言われた。

そして手がかりらしい手がかりもあまり見つからず、一行は軽く廃工場の痕跡を探って、帰ることにした。


――今回わかったことは私たち以外にも魔に倒している人たちがいる。

それだけ、どこの誰かはわからないままだ。



魔を倒せるのは勇者やその仲間だけ。

前の世界ではそう言われ続けていたからか、尚更信じられない気持ちが心を支配する。


少しの不安を抱えて希樹は廃工場をあとにした。




◇◆◇





「リリー!!ああ!私の可愛い妹よ!!」


大げさなリアクションで友達に抱きつく妖精に希樹達は微笑んだ。

友との再会を喜んだところ水を差すのも悪いが、やってもらわなくてはいけないことがある。


「さあ、俺の呪いを解いてもらうぞ!」


タマが少し怒りの表情を浮かべて妖精2人の前に仁王立ちした。

怒った表情を浮かべているが、可愛らしい顔立ちをしているためかあまり怖くはない。


だが魅了の魔法がかかったローズは観念した様子でタマの前へと飛んでいく。


「わたくしの祝福はお気に召さなくて?」

「召さないね!というかなんでこんな酷いことを見ず知らずの俺にしたんだ?」


ローズは少しため息をついてやれやれと首を振る。



「わたくしの夢はモブおじさんになることでしたわ」



そうローズが言った瞬間空気が凍った。


(――また私とセフィラ様の知らない単語がでてきたぞ。)

だけれどタマが鳥肌を立てて悲鳴をあげている時点であまりいい単語ではないことは察せられた。



「ですが私は妖精、この小さき身体では美しい少年をいいようにすることも出来ない身ですわ。

でも私はどーしてもモブ×貴方がみたかった!!!そこで私は考えましたわ!」



「――そうだ、祝福を…捧げよう、と!!!!」



「きゃー!ローズ姉さまってば天才!!!」


まるで演説をするようにローズさんは手に拳を作って熱心に話した。

そして取り巻きと化したリリーは顔を赤らめて、手を叩いた。

だがタマの顔色はどんどん悪くなる。


「も、もしや俺は…」

「ええ、隙あらばモブと、できればおじさんと…」

「うわああああああああ!!!!!!!!」


タマは自分の肩を強く抱きしめて力いっぱい叫んだ。

そして大きな目に涙をたんまり溜め、変態!!変態!!と泣き喚く。


「わたしく、貴方のお顔とっても好きですわ

その色素の薄い肌も猫みたいなまんまるい目も愛らしい唇も全て、ね。

だから私なりに貴方を守ろうとしてもいたわ、下らない祝福もあるけれどちゃんとしたのもあるでしょう?」


うっとりとローズはタマを上から下まで舐めるように眺めた。

その時にセフィラの『魅了』がやや薄まるのを感じた希樹はローズの好みは『美少年』だと理解した。



「…………そうなのか?」


タマは微妙な表情浮かべつつ、セフィラに振り返った。

セフィラもそれにゆっくりと肯定をして頷く。


「まぁ、『絶対防御』は便利なので、なくさないほうがいいとは思います。」

「え、絶対防御はいってるんですか?」


絶対防御といえば物理攻撃をすべて効かなくしてくれるものだ。

…ああ、だから3階からでも平気で飛び降りたのか、危ないことするなって思ったけど、と希樹は理解した。

それを軽く説明するとタマはハッと瞠目する。


「たしかに、変態に追いかけられて車に惹かれても無傷だったし

…いままで怪我らしい怪我ってしたことないな…」


「…それ気づきましょう」


希樹が呆れた声をあげると、タマの為に妖精へとたずねた。


「じゃあ、絶対防御以外ははずしてもらえる?」


「……乳首がピンクになる祝福は残させてね

じゃないとそれに人に好かれる(主に性的に)祝福残してもらうから」


「はい、タマ先輩の乳首がピンクでも誰にも迷惑はかからないので、いいですよ」


そんな取引を聞いてタマは恥ずかしそうにプルプルと震え、顔を赤くして俯いた。

そりゃあ自分の体のこと他人に知られるの恥ずかしいよね、と希樹は考えて


「大丈夫です、私先輩の乳首がピンクなこと、誰にもいいませんから!」


親指を立ててそう言うと、タマの怒りのゲージがMAXを超えたようで

涙を溜め、耳まで赤くして、希樹の肩をベシベシと叩くのであった。


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