閑話2:ある異世界の男の話
すいません、閑話とかいってますがこれも本編の内です。
次に勇者様にあったのは勇者様がこの地に降り立って4年目のことだった。
成人を迎えた俺は術者としての才能を開花させ、師匠の元を離れ各地を転々としながら魔法の研究をしていた。
山で珍しい薬草があると聞き登ったので、他に面白いものが見つからないものかと思ったが
…まさか瀕死の勇者様をみつけるとは思わなかった。
あの日姿をみた勇者様は少し大人になり、地に伏して破れた服からむき出しの手足は土で汚れている。
瞼はぴったりと合わさって目を開ける様子もなく、それはまるで死んでいるようだった。
月のような銀髪を持っているであろう目の前の男も、今はそれがくすんでみえるほど身なりは汚れている。
だけれど目の前にいる不審者(俺)を射抜く視線だけはギラギラと輝く。
まるで母猫が子猫を守るように立ちはだかり、慌てて俺は攻撃の意思はないと伝える。
紆余曲折あり、彼らが大怪我をしていたのでそれの治療をし
満身創痍の2人の目的地まで同行することになった。
何故あんなことになったかは実は知っていた。
勇者様が王族を殺した罪で手配されているのはこの国での一代ニュースだ。
元々あの王はきな臭い噂もあったし、俺自身王宮に何度か行って不要物を処理することもあったから
勇者様が無罪だということは新聞を見たときからピンと来ていた。
大方自分の犯した罪を魔の所為にしてそれが露見しそうになり、勇者になすりつけたのであろうとは思っていた。
だけれどここまで自分の思い通りだと、少し肩透かしをくらった気分になる。
この国を超えればセフィラの協力者が何人もいるらしく、とにかく我武者羅に目的に進んだ。
旅は終始和やか、とは行かなかったけれど道中で表立ってギスギスはしなかった。
勇者はあの日見たときよりも成長したようで、軽い文句は言いつつも弱音は吐かなかった。
女性の命だろう髪の毛を躊躇なく短くし、少年の服に身を包んで無邪気に微笑んだ。
でも、髪の毛は長くしていたのは想い人のためだったと聞いて、少し口を尖らせていた。
野営と質素な宿ぐらし、それに時々くる刺客。
命を狙われたって、そのことを『しょうがない』と何事もないように告げた。
「私は王女を殺してなんかいないよ
だけれど勇者という肩書きをもっていて、任務以外のことに首を突っ込んで…しかもそれをしくじった
真実がどうであれ、命を狙われたってしょうがないんだよ。それほど重い肩書きなんだもん」
勇者の自覚が芽生えた彼女は、もう少女ではない。
…だけれど、まだまだ甘いところがあるのはこの隣の男のせいだろう。
セフィラはあの頃から全く変わってなく、彼女の良き師であるようだった。
一緒に旅をしていても俺のことは信用していないようだったし、きっと他の仲間も彼にとっては同じなのだろう。
笑顔の裏に隠しながら油断なく、俺に牽制をかけていた。
ようやく仲間とも合流し、勇者と仲間達の快進撃が始まった。
まず自分のかかった容疑を十分な証拠と証言を世界最高と言われる魔道士を使って集め
大々的に自分の疑いを晴らしてみせた。
それに亡命していた前王の嫡男に指揮をとらせ、あっという間に国の上だけが変わった。
勿論計画を立てたのは勇者ではない。
勇者の知り合いがお膳立てをしてくれたようだ。
彼は合流先の国の竜騎士であり、貴族でもあり、7つの祝福をもっている王の側近であり友人だ。
彼と王が勇者に全面協力していて、ここまで大掛かりの謎解きがなったのだ。
大国の王ならば約束を違わぬだろうと、あの慎重なセフィラが納得して頼ったわけだ。
勿論王も勇者の為だけに協力したわけではない。
新しく王を置いた隣の国に有利に色々な交渉ができるし、なにより勇者に恩が売れる。
彼女が全てやったと見せた彼らと彼女の堂々とした演技と手腕は中々のものだった。
民衆は彼女が先導してすべてのことをやったと思っているのだろう。
そんなごたごたも終わり、勇者たちはまた魔の殲滅の旅に出ようとした。
俺はこのまま彼女たちについていくことにした。
セフィラや一部の仲間は俺に嫌な顔をしたけれど
勇者の説得とちょうど俺のような戦闘スタイルのものはいなかったのもあるし
人数もかなりの数減ってしまったのもあり、付いていく事を許可してもらえた。
それだけのことだけれど、嬉しくてこれからにワクワクと心を躍らせた。