第8話:ボクと妹と三角関係
【海東彼方】
今日も運動系の部活の子達と共に練習をしてきた。
どこの部活に入るでもなく、でも、皆や指導教師からも自由にさせてもらっている。
どっちつかずの今の状況は申し訳ないけども、楽しくもある。
家に帰ると、キッチンで料理中の母さんに声をかける。
「ただいま~」
「あら、おかえりなさい。彼方。お風呂はもうわいてるわよ」
「ありがとう、母さん。それじゃ、先に入らせてもらうね」
汗をかいていたので、早くお風呂に入りたかった。
母さんはボクに「今日はハンバーグよ」と夕食のメニューを教えてくれる。
ハンバーグは大好きなので嬉しい。
「……ボクも女として料理でも覚えた方がいいのかな」
ふと、何気なく呟いた一言。
「彼方が料理?無理じゃないの」
「母さん。速攻で否定しないで。ボクは泣きたくなる」
「人間には向き不向きがあるのよ。彼方は自分の向いてる事をすればいいじゃない」
ボクは料理が下手だ。
それに比べて妹の貴音はかなり上手である。
学校で食べる昼食のお弁当は毎朝、貴音の手作りだ。
ボクもそろそろ、料理くらいできたらいいと思うんだけど。
「ボクだって女の子なんだし」
「彼方がそう言う事を気にするなんて珍しいわね。誰か好きな男の子でもできた?」
母さんのさりげない言葉にボクは慌てて否定をする。
「ち、違うって。ただ、ボクも自分の女らしさがないから気にしてるだけ」
「女の子らしさねぇ?ホント、恋でもしてるんじゃないの?」
「してません」
断言するのは悲しいけども、恋はしてない。
「彼方ってば、全然、浮いた話もないけども。まさか、妹だけはやめなさいよ」
「ありえないから。母さんまで変な事を言わないで」
「……貴音も彼氏ができる様子もないし、姉妹揃って心配なの。高校生ぐらいなら、恋人のひとりやふたり、できても普通でしょ?いつ彼氏を紹介してくれるのか、楽しみにしてるのに」
彼氏を作るのはまだ当分先になりそうだ。
「彼氏なんて貴音に期待してよ」
「……小さな頃から彼方にべったりすぎて、ある意味、諦めてるわ。これはもう、彼方が彼氏を作って、妹に姉離れをさせるしかないわね。とにかく頑張りなさい」
実の母親にここまで言わせる貴音はすごいと思う。
ボクはお風呂に入り、ゆっくりと湯船につかる。
お風呂は少し温めのお湯が好き。
「ふぅ、やっぱりお風呂は落ち着くなぁ」
この時間が一番好きかも知れない。
のんびりとした時間が過ぎていく。
リラックスしていたボクの安らぎをぶち壊したのは妹の声だった。
「――おにぃっ♪」
「――なっ!?」
いきなり、浴室の扉が開いてビクッとする。
「おにぃ、私も一緒に入る~っ」
「た、貴音!?」
明るい声で入ってきたのは貴音だ。
立派なスタイルを私に見せつけるように、タオルも身につけていない。
白い素肌をさらす、綺麗な肢体。
同じ姉妹でも胸もボクとは全然サイズも違うし。
自分のスタイルと見比べて悲しくなる。
……って、冷静に考えてる場合じゃない。
「ちょっと、貴音!どうして、ここに」
「おにぃと一緒にお風呂が入りたいから。お母さんがおにぃがお風呂に入ってるって言ったから。それに最近は私への態度がおざなりすぎるからアプローチの方法を変えようと思って。別にいいでしょ。姉妹なんだから」
「姉妹でも問題だと思う。さっさと出て行って!」
「気にしない、気にしない♪」
ボクは妹を追い出そうとする。
けれど、無駄な努力に終わるのは分かり切っていたので「せめてタオルだけでも巻いて」と懇願しておく。
この妹の扱いは長い付き合いでも、中々対処法が見つからない。
「おにぃと一緒に入るのって久しぶりだよね」
「当然でしょうが。ボクは望んでないし」
「またまたぁ。おにぃ特有の照れ隠しをしちゃって」
断じて照れた意味での拒絶ではない。
昔はお風呂にも一緒に入っていた。
小学校を上がる頃には当然のながれで一緒に入る機会は少なくなる。
姉妹とはいえ、そこまでの仲の良さはないのだから。
別にスタイルのいい妹と自分を見比べたくないと言う理由からではない。
我が家のお風呂は2人一緒に湯船に入れる余裕はない。
貴音は先にシャワーを浴びて髪を洗う。
妹はシャンプーで泡だらけになりながら、
「……ねぇ、おにぃってば、好きな人とか私以外にいないよね?」
「貴音以外にもいないよ」
「おにぃって、ホントに素直じゃない。今日はちょっと真面目なお話。最近、上原さんとも仲がいいじゃない。その辺どうなのかなって……姉に恋する妹としては気になるんだ」
あいにくとボクには好きな人はいない。
上原君とは中学時代から仲は良いけど、恋愛っぽい雰囲気にもならない。
女の子の後輩から慕われる事は多いけども、男子は疎遠気味だ。
「上原君は女の子からもモテるじゃないか。ボクなんか相手にもならないよ」
「そう言う思い込みがおにぃの場合はあるよね。自分を過小評価してる。もっと自信をもっていいのに」
「今までボクと付き合いたいっていう男の子がいないんだもん。女としての魅力に欠けている自覚はあるよ」
「おにぃと付き合いたい女の子はたくさんいるけどね。ノーマルな女子をアブノーマルな世界に引き込むおにぃの魅力はむしろ魔力かもしれない。不思議だよね」
変な事を言わないでください。
そんな魔力は持ってません。
「おにぃの場合は無自覚で予防線も張ってるし。上原さんだって可哀そう」
「……?」
「気にしないで。おにぃは男の子の好意に気付かない今のままでいて。おにぃは私のものなんだから。他の誰かに取られるつもりはない。私は今のままで安心していられる」
ボクはそっちの世界に突入する気は何度も言うけどない。
「でもさ、おにぃが誰か男の子を好きになったら私との三角関係になっちゃうよ」
「さも当然のようにさらっと問題発言をしない」
「えーっ。私は認めないからね!私と言う者がありながら、他の子を好きになるなんて。そんな恋愛、絶対に認めたりしない。泥沼の三角関係が嫌なら、素直に私を好きになりなさい」
真顔でとんでもない脅しをしてくる妹である。
「――もしも、おにぃが男の子と付き合う事になったら、私は手段を選ばずに邪魔をするわ」
「邪魔しないで祝福して」
「いやだ。私はおにぃを愛してるもんっ。おにぃは私だけのものなんだからっ」
……妹のその愛が重い!
お風呂場で愛を宣言する妹にボクはただ頭をかかえるしかなかった。