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ボクと妹の禁断領域  作者: 南条仁
ボクと妹の禁断領域
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第6話:ボクの妹に手を出すな


 今さらかもしれないけども、貴音はとにかくモテる。

 男子の人気は学園で一番だともいえる。

 毎日のように告白されても、それを受け入れることもせず。

 告白慣れしているから、対応もうまい。

 だからと言って人の想いを無下に扱ったりもしない。

 彼女いわく「人を愛する気持ちは私もよく分かるから」。

 けれども、すべてがすべて、うまくいくわけでもなくて。

 時々はその告白でも揉める事もある。

 今日はそんな日常のお話――。

 

 

 

 

「先輩っ。今日はありがとうございました」

 

 放課後、彼方はバレー部の練習に付き合っていた。

 ここの部長は友人なので、時折、練習に混ざったりする。

 後輩の子達と共に練習をしていた。

 

「ボクにとってもいい運動になったよ」

 

 周囲には先程まで一緒に練習をしていた女の子の後輩たちが囲む。

 

「彼方先輩は人に教えるのが上手ですよね。すごく分かりやすいですし」

「いろんなスポーツができるんでしょう? 何でもできるっていいですよね」

「ボクは何でもできるわけじゃないよ。ただ、どのスポーツも好きなだけ」

 

 基本的に苦手な種目は特にない。

 球技も走る事も、泳ぐことも、それなりに得意だ。

 

「素朴な疑問なんですけど、どーして、彼方先輩は部活に入らないんですか?」

「そうですよ。どの部活からも誘いを受けてるんって聞いてます。もったいないです」

 

 部活と言えば青春の謳歌。

 仲間たちと共に優勝を目指して頑張ったり、楽しんだり、時には辛くても、想い出に残るものだったりするんだろう。

 それでも、彼方はフリーでいる事を選んでいる。

 その理由は他人に言うつもりはなかった。

 何かに真剣に取り組む、それは良い事だと思う。

 けれども、大いなる情熱を持てるスポーツに、まだ出会っていない。

 ある程度、何でもできてしまうからこその悩みでもある。

 単純な理由ゆえに、部活で真剣に頑張る人の前では言えないでいた。

 

「それは秘密かな?」

「秘密ですか? 先輩がフリーでどこの部活にも入ってないから、私達の所でも練習を見てもらえたりするんですけど」

「部長達もどこにも入らないで今のままでいて欲しいって言ってます。でも、ホントにもったいないですよ」

 

 フリーの助っ人で十分だ。

 皆も好意的に受け入れてくれるから、その好意に甘えさせてもらってる。

 

「……今のところはどこの部活にも所属する気はないよ。どっちつかずの中途半端に思われてしまうかもしれないけどね」

「そんなことありませんよ。どんなスポーツでも、先輩の活躍は楽しみですっ」

「私たち、応援してるんですよ」

「……ありがとう」

 

 後輩たちからそう言われると嬉しくはなる。

 否定されても仕方のない事なのに、受け入れてくれるのは嬉しい。

 後片付けも終えて帰ろうかと思っていた矢先、彼方の所に後輩の子が走ってきた。

 

「せ、先輩。妹の貴音先輩がっ……!」

「貴音がどうかしたの?」

「それが、中庭で男の人に絡まれて……そ、その、険悪って感じです」

「……貴音が危ない?」

 

 後輩の子が言うには、中庭で何やら貴音が揉めているらしい。

 いつもの告白が一転、と言う感じかもしれない。

 人から好かれる、それは良い意味でも、悪い意味でも大変なことだ。

 告白を断ったことから何か嫌な方向に進んだのかもしれない。

 

「今、私の友達が男の先輩達を呼んで何とかしようって言ってます」

「分かった。すぐにボクも行くよ」

 

 急いで荷物を片付けて、中庭に行くと、何人かの女の子たちが遠目に眺めるようにして集まっている。

 その騒ぎの真ん中にいるのは妹、貴音だった。

 男の人に何やら絡まれて、嫌そうな顔をしている。

 顔見知りの後輩たちが近付いてきた。

 

「せ、先輩っ。貴音先輩が危ない目に」

「話は聞いた。ボクが間に入るよ」

「でも、危ないですよ。彼、確か、すごく悪い噂のある人で……今、私の彼氏とその友達を呼んでるので待ってください。男の人がいないと危険です」

「いろいろと心配かけてごめん。でも、行くよ。妹を傷つけさせるわけにいかないから」

 

 男子を待っている間に貴音に何かあってはいけない。

 

――普段はアレだけど、妹としては大事だから。

 

「……いいから俺と付き合えって!」

「嫌ったら嫌~っ! 離してっ」

「誰とも付き合ってないならいいだろ? 俺なら満足させてやれる」

「は? 私を満足させられるのは世界でひとりだけなのっ」

 

 貴音も男相手に怯える様子もなく言い放つ。

 2人に近付いて、制するように告げた。

 

「そこまで。ふたりとも、騒ぎになっているよ」

「おにぃ!?」

「ちっ。姉の方か。アンタには関係ないっ」

「そうはいかない。貴音から離れて。そんな風に乱暴な告白はいけない」

 

 噂だけなら知っている先輩だった。

 怖そうな先輩で、実際にあまり良い噂ではない。

 

「おにぃ……ごめん」

「貴音はこの人が好きなの?」

「そんなわけない。私は……乱暴な人は大嫌いだもんっ」

 

 彼方の背中に隠れる貴音。

 告白された流れで揉めた、その方向で間違いなさそうだ。

 男はふたりを睨みつけてくる。

 

「素直にうなずけばいいんだよっ」

「女の子に優しくない人は絶対に嫌っ」

 

 今にも掴みかかろうとするので彼方が牽制する。

 

「……本人が嫌がってるんだ。ここは引き下がるべきだと思う」

「はっ。姉は邪魔だから素っ込んでろよ。俺に話があるのは妹の方だ。お前みたいな男女じゃないっ。さっさと消えな」

「なっ。おにぃに対してそんな暴言を吐くなんて……!」

 

 今度はムッとする貴音を押さえる。

 

――別にボクの事はどうでもいいよ。他人からそう言う風に見られているのは慣れている。

 

 だが、問題はそんなことではない。

 

「貴音、大人しくして」

「でも、おにぃをバカにされたんだよっ!」

「ボクの事はいいから。先輩、ボクの妹は無理やり付き合うような真似はさせない」

「まるで本当に兄のような言葉だな。女としての魅力のねー奴にグダグダ言われてもな。さっさとどけって言ってるだろ。お前じゃ話にもなんねーよ。どけって何度も言わせるなよっ、男女!」

 

 彼方を突き飛ばすと、貴音に手を伸ばそうとする。

 乱暴な真似をしようとするのを止めようとした。

 

「やめてっ!」

 

 とっさにその手を払いのけるようとする。

 だけど、次の瞬間、その男の人の手が彼方の頬を叩いた。

 

「くっ……」

 

 パチンっという音が中庭に響いて、周囲の女の子達がざわめく。

 相手も殴るつもりはなく、故意ではなく、事故だった。

 でも、反動でバランスを崩し、ボクはそのまま片膝をついてしまう。

 


――男の人の力は強いから、頬がすごく痛いや。

 

 これが男女の差なんだと、改めて彼方は感じる。

 

「……お、おにぃッ――!? よくもおにぃを殴ったわねっ!」

「なっ。お、俺は別に殴るつもりは……」

 

 困惑する彼に頬を押さえながら、立ち上がる。

 貴音が心配そうに彼方を見つめる。

 

――ボクはこの子のお姉ちゃんなんだ。姉として妹を守る義務がある。


 だからこそ、姉として守ってやりたい。

 

「――ボクの妹に手を出すなっ!」

 

 しっかりとした瞳で恫喝しながら言い放つ。

 

「ボクの大事な妹だから。貴音を傷つける真似をする人はボクは許さない」


 それが誰であっても、絶対に――。

  

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