第5話:ボクと妹の昼ドラ的出会い
「おにぃ……」
妹の貴音が潤んだ瞳で彼方を見つめてくる。
「ダメだよ、ボク達は……」
「知らなかったの。私たちが……血のつながった姉妹だったなんて! でも、好きになっちゃったの!仕方ないじゃない、好きになったらどうしようもないよ。例え、実の姉妹だとしても私はおにぃを愛してるっ」
愛の言葉を叫ぶ妹。
その瞳は真剣そのもの。
「姉妹と知らずに恋をした。でもね、私はおにぃが好き。例え、世界のすべてを敵にしてもいい。この愛を貫きたいのっ」
「……貴音」
「私は諦めたりしないからっ! 運命になんて負けない」
貴音の想い。
愛する気持ちを彼方にぶつける。
そんな彼女にできる唯一の事は……。
「――ていっ」
「――ひゃんっ」
思いっきり、彼女の額をデコピンすることだった。
現実に戻れ、目を覚ませと彼女は言いたい。
「うぅ、おでこが痛いよっ。暴力反対~っ!」
力はいれてないが、タイミングがよかったのかペチッという良い音がなった。
貴音は痛む額を手で押さえる。
「はいはい。つまらない冗談は外でやりなさい」
呆れた彼方は少女マンガの雑誌に視線をおろす。
――いつもの妹の戯言です。
わざわざ、彼方の部屋に来て何を語るかと思えば、王道路線の昼ドラでも見たんだろう。
「おにぃってば、冷たいよ! ひどいっ。私の気持ちを知ってるくせにっ」
「……修羅場の男の子にぶつける台詞だよね、それ。大体、血のつながりがあるのは、ずいぶん前から知ってるじゃない」
「えーっ。実は義理の姉妹とか可能性がないわけじゃないでしょ?」
「うちの両親の仲の良さを見れば、はっきりと分かるでしょうが。あれで義理の妹ができる可能性があるとでも?」
両親は近所でも有名なラブラブな夫婦だ。
高校時代から交際し、結婚と言う流れらしい。
離婚どころか喧嘩すらもほとんどない、理想的な夫婦。
それゆえに妹と義理になりようがない。
「分からないよ。実は私はお父さんの浮気した子供かもしれない」
「はい、不謹慎発言。お父さんに報告」
「い、いや~っ。ごめんなさい、冗談です、嘘です。お父さんにだけは、報告するのをやめてぇ」
服をつかんで必死に止める。
――こんな風に何かあれば、義理だ、ホントの姉妹じゃないと言うからお父さんも呆れてるし。
そりゃ、実の娘からそんな事を言われたら傷つくわけで。
「またお小遣い、減らされちゃうからやめて~っ。お小遣いの減額とか、実力行使するのはひどいと思うの」
「だったら、言わなきゃいいのに。親も大事な娘から義理とか言われたら傷つく」
「うぅ、おにぃはロマンがないよ。叶わぬ望みだとしても、私は夢を見たいのっ。わずか1%でも可能性があるのなら……」
「1%の確率でもあったら両親が泣くわ。0%です」
最近はそんな事を言うと、親からお小遣いを減額されてる貴音だった。
自業自得だけど、親の苦悩も考えてあげてほしいものだ。
「ぐすっ……おにぃってば私と結ばれたくないの?」
「まったくないです」
「うわぁーん。ひどいよ、傷ついたぁ」
いじけて拗ねる貴音はボクのベッドにもぐる。
「布団がぐちゃぐちゃになるからやめなさい」
「……おにぃの反応が薄い」
「そりゃ、毎日、似たような事をされたらね。今日は昼ドラでもみたの?」
「ううん。兄妹同士が恋をする少女漫画に影響を受けて。あっ、そうだ。おにぃもその漫画を読めばいいんだよ。そうすれば、きっと姉妹の愛情に目覚めるかも?」
「読んでも無理。兄妹の恋と姉妹の恋は大きな違いがあると思うんだ」
性別の違いだけは超える気がない。
――そりゃ、貴音は美人だからボクが男ならクラッとくるかもしれないけどね。
「……前世では夫婦だったのに。おにぃと私は魂で結ばれているんだよ!」
「ふーん。あっ、このチョコ、美味しい」
「――私の愛はチョコに負けた!?」
妹の戯言をスルーして、新作チョコレートを食べる。
期間限定イチゴのショートケーキ風味のチョコだ。
風味とだけあって、それっぽく美味しく食べられる。
「ぐすっ、うぇーん。相手にもされてない。相手にして、かまってくれないと拗ねるからね。これがどうなってもいいの!?」
「お願いだから布団を盾にするのはやめて」
布団を盾に取られて仕方なく妹に向き合う。
これから眠る布団をぐしゃぐしゃにされたくない。
「というわけで、私たちは前世で夫婦だったと思うの」
「……ふーん」
「むぅ……それじゃ、未来の話。きっと、来世では夫婦になれるはず」
「それじゃ、現世は諦めてください」
――ぜひ、来世に期待してください。ボクは別の誰かと結ばれる事を望むけど。
「ひどいっ。それじゃ、ちょっと未来の3年後の話」
「リアル路線に戻った」
「私とおにぃの間に子供ができて、幸せな家庭を……」
「――ちょっと、待て」
彼方は貴音の首根っこを猫みたいに掴む。
この妹は時々、斜め向こうの話をするから教育的指導が必要だ。
「や~め~て~」
「姉妹の間に何で子どもができるわけ?」
「おにぃの突っ込みには愛がないよっ。子供いいじゃん。私は子供が好きだよ。それがおにぃとの子供ならなおさら可愛い♪」
「はぁ……まともに突っ込んだボクが悲しくなる」
どこに子供が生まれる要素があるっていうのやら。
―‐まさか養子とか言いだすんじゃないよね?
「私はこんなにもおにぃを愛してるのに」
貴音は甘えたように抱きついてくる。
「そもそも、何でおにぃなわけ? 大体、そういうシチュはお姉様とかじゃないの?」
一般的なイメージだけど。
『お姉様~、愛してます』
百合シチュってこんな感じだという先入観が彼女にはある。
「だって、私がおにぃの事をお姉様って呼ぶと百合カップルみたいじゃない」
「違うの?」
「だから、私は百合属性はありませんっ! 誤解、大きな誤解があるよ。おにぃ。私はカッコいいおにぃが大好きなだけで女の子だから好きになったんじゃない。もうっ、そういう勘違いはやめてよね」
どこがどう違うのかが彼方にはよく分からない。
「たまたま、好きになった相手が姉で、女の子だっただけだって前から言ってるじゃない」
「その時点で諦めようよ!?」
「恋は障害が大きければ大きいほどに燃え上がる。そういうものでしょ?」
可愛くウインクをする妹。
何を言おうと気持ちが変わることはない。
貴音いわく、「そんな中途半端な気持ちで恋をしてない」そうだ。
「でも、おにぃがあんまりにも素っ気ないから……」
「諦めてくれる?」
「ううん。これからは違うアプローチを考えてみる。ふふふっ、楽しみにしていてね」
「その笑いはボクにとって不安でしかないよ。マジで」
顔をひきつらせながら笑顔の妹にびびる。
――この子は次は何を企んでいるのやら。妹に愛され過ぎて、マジで辛いです……。
彼方の受難の日々は続く。