第4話:ボクは妹に相談なんかしない
海東彼方、17歳。
人生で一度も彼氏なんてできた事がありません。
――彼女なら作ろうと思えばできそうなのが本当に悲しい。
何で後輩の女子にばかり告白されるのか。
悲しい現実。
――女の子としての魅力に欠けまくってる自分には恋なんてできない。
そう思い込んで悩んでいる彼方であった。
ある日の昼休憩。
彼方は一人で中庭のベンチに座り、お気に入りのイチゴ・オレを飲んでいた。
甘くて美味しいイチゴ風味が好きだ。
「あれ、今日はカナタひとりか?」
「上原君じゃん。そうだよ、ボクひとり。妹は忙しいみたい」
普段は昼休憩だと妹と一緒に食事することも多い。
今日は用事があるらしくて、彼女一人での食事だった。
「またイチゴ・オレか。好きだな」
「イチゴ風味なら何でも好きだよ」
「ふーん。そのクッキーは?」
彼方の手元にはクッキーの袋がある。
「お弁当を食べ終わったあとのデザート。後輩の子が作ってくれたの」
「おおっ、モテるねぇ。カナタは後輩の王子様だからな」
「言わないで。リアルに悲しくなるから」
真剣な顔で『先輩のために作りました』と言われたら断れない。
こんな風にクッキーやら、手作りお菓子をもらうことは多い。
――甘いものは大好きだからいいんだけどね。
問題はそのお菓子に変な思いが込められていたらの場合だけども。
「はぁ……ボクは男に生まれた方がよかったかも」
「美形で女性って言うのがいいんじゃないか?」
「どうなんだろうね。憧れたりされるのは嫌じゃないけど」
ただ、人から想われることは大変だ。
好きって気持ちは時に嫌いって気持ちになってしまうこともある。
彼方はそれが怖い。
人から好かれると言うことは、人から嫌われることもあるから。
「女の子の気持ちってよく分からないなぁ」
「いやいや、カナタも女子のひとりだろう」
「ボクは普通とは少し違うよ。女の子らしさなんて微塵もない」
自分でもあきれるほどに男っぽい。
彼方がボク口調なのも、女の子らしくないから開き直ってるだけでもある。
ふとした時に自分が貴音みたいに女の子らしかったなって思う事もある。
「変な話をしてごめん。上原君はどうしてここに?」
「うちの顧問と話をしてたんだ。今週の土日、グラウンドが使えなくなるそうでさ」
「そうなの?」
「あぁ。どこの部活が聞き忘れたが、大会があるんだって。今週は俺も休みだな。彼方の都合がよければ遊びにでも行くか?」
彼の誘いに「うん」と頷いて答える。
ふたりはのんびりとベンチに座りながら中庭を眺めていた。
上原は中学の時からの友人だ。
中学の頃から偶然にもずっと、クラスが一緒になっている事もあり、何より彼とは話していても安心できる。
――それに、ボクみたいな子に普通に話しかけてきてくれたのって彼くらいだし。
携帯のメモリーに男子の名前は彼しか入っていない。
「上原君とは付き合い長いよね」
「ん? そうだな。中1の時以来だから、もう5年目か」
「5年も経つんだ。時間が過ぎるのって早いなぁ。ボクたちが出会った頃はボクの方が身長が高かったのにね。男の子ってすぐに大きくなるからずるい」
今は上原も身長は180センチ越え。
そのおかげで、彼方と一緒にいても彼の方が身長が高いから違和感はない。
「目標がカナタ越えだったからな。女の子って中学時代は身長で抜かれる事が多いからさ」
「今はすっごく大きいよね? 180センチくらい?」
「春の時にはかって186センチだったかな。サッカーは身長があった方が有利だからな。この体格も武器になるし。望んでた通りに背が伸びてよかったよ」
今では彼方の方が見上げる側になってしまっている。
――ホント、人の成長って面白いね。
「でもさ、ボクは……」
「ん?」
「ボクは、こんなに身長はいらなかったかな」
ポツリと呟いた独り言。
女の子にしては高い身長、それは良い面もあれば悪い面もある。
昔、同級生の男の子に言われた言葉を今でも思い出す。
『男より身長が高い女と付き合えるわけないし』
中学の頃に何となく言われた言葉。
あれ以来、彼方は男の子とは基本的に距離をおいている。
「……カナタ?」
「何でもない。上原君はボクにとって貴重な男友達だからこれからも仲良くしてね」
「あぁ。……そうだな」
彼は何かを言いかけてやめた。
それが気になったものの、尋ね返すことはなかった。
しばらくの間、お互いに黙り合って青い空を眺めていた。
ゆっくりと流れていく白い雲。
残暑なので風が吹けば適度に涼しい。
穏やかな時間をボク達は過ごしてたのだけど……。
「あー、あれって彼方先輩じゃない? 隣にいるのは上原先輩かな」
「あのふたりってよく一緒にいるよね」
中庭を通る後輩たちがこちらを見ながら会話している。
「でも、あのふたりって、ああして仲良くしてるとお似合いよね」
「うん。どっちも人気あるし」
お似合いだという、後輩たちの声が聞こえてきた。
「私もそう思った。ふたりともカッコいいんだもん。……BLっぽくていいかも」
「ホント、パッと見たらBLのワンシーンだよね。カッコいい男の子が寄り添いあう。惚れ惚れするわ。素敵」
――そ、そっちの意味で……女の子達を喜ばせてる?
思わずガクッとしそうになる。
隣の上原は不思議そうに彼方を見ていた。
「どうした、カナタ?」
「……自分に自信がなくなりました」
「は? なんだそれ?」
彼女達が去っていくと、拗ねた口調で彼に言う。
「ねぇ、上原君。あんまりボクと一緒にいると変な噂を流されるかも」
「どんな噂だ? 恋人っぽいとか?」
「うーん。男の子ふたりが仲の良い雰囲気みたいだってさ」
「……あー、そっち?」
彼はポンポンっと慰めるように頭を撫でた。
「あははっ。気にし過ぎだ、カナタ。俺は気にしてないよ」
「ダメだよ。上原君、変な趣味持ってるなんて思われたらどうするわけ?」
「……他人にどうこう思われても気にしないな。それに、カナタはちゃんとした女の子なんだから何も問題なんてない」
はっきりと彼に笑顔でそう言われて何も言えなかった。
――ホント……上原君って優しい。ボクみたいな女の子相手に自然に接してくれるもん。
この不思議な気持ちは何だろうか。
一緒にいると楽しいだけじゃない何かを感じる事がある。
上原が立ち去っても、彼方はずっと一人考えていた。
「――おにぃ!」
そんな彼方を呼ぶのはいつのまにか目の前にいた貴音だった。
「私は見てたのよ! ……おにぃがまさか男趣味だったなんて!!」
「……ボク、女の子だから男の子と一緒にいるのは普通の事だと思うんだ。貴音、用事はもう終わったんだ?」
「おにぃがBL風な一場面を演じてると噂を聞いて飛んできたの」
「そんなもの演じてないから!?」
まったく、男扱いするのはやめて欲しい。
――でも、他人から見れば男同士の仲のいい関係にしか見えないんだろうな。
彼方も好きで、男の子っぽいわけじゃない。
「おにぃ、何か難しい顔をしてる。悩みがあるのなら可愛い妹が相談のるよ」
「いや。貴音にだけは相談しない。ろくなことにならないもの」
「私の信頼がなさすぎる。ひどいっ!」
「普段の行いというか……自業自得だと思うんだ」
ため息をつきながら、不機嫌になる妹の機嫌をなだめる。
――ボクだって悩みくらいはあるんだよ。間違っても妹にだけは相談しないけどね。
現実って本当に思い通りにいかない。
そう改めて思う彼方でした。