第2話:私とおにぃの親密関係
【海東貴音】
休憩時間に友達と話をしていた。
話題はおにぃについてだ。
「彼方さんって本当にすごい人だよ。体育の時間に大活躍してたわ」
「ふふふっ。私の自慢のおにぃなの。あれは私のだからあげないからね」
「なんで貴音に所有権があるのやら。でも、貴音はお姉ちゃん好きだよね。この前も一緒に出かけてたでしょ」
友達からよく言われる言葉。
私はおにぃが大好きだ。
ライクではなくラブな意味で。
おにぃはツンデレだから表面上は私の愛を拒むけど、心の底ではきっと私が好きなはず。
「当たり前じゃない。私にとっておにぃは最高の人なのです」
「おにぃって、前から思ってたけど何でお兄ちゃん扱い?彼方さんって女の子だよね」
「あんなにカッコイイ人が姉だと思える?」
「あー、うん。なんとなく、貴音の気持ちは分かるんだけどねぇ。姉を兄扱いするのはどうと思うわ」
彼女達から呆れられてしまう。
そんな事も慣れている。
私の想いを理解できない子が多いのだ。
「私はブラコンだからね。と、はっきり認められるくらいに」
「……シスコンでしょうに」
「皆もおにぃと一緒に暮らしてみれば分かるって。彼女がいかに男の子っぽいのか」
「後輩の女の子からの人気絶大な理由は分かるわ。カッコいいからね。でも、本人は男の子扱いされるの嫌がってないの?」
「どうなんだろう?多分、おにぃも、今さら気にしていないよ」
時々は女の子らしくない事を嘆いているけど。
普段から一人称がボクであるために、私はある程度受け入れている気がする。
でも、おにぃってば意外と乙女チックな一面もあるし。
そのギャップがたまらなく可愛くて。
「カッコよすぎるおにぃが悪いのよ」
つまりはそれが全て。
おにぃの魅力はその美少年っぽい容姿。
今さら女の子らしいおにぃなんて想像できない。
「――貴音、変な事を言わない」
「おにぃ!?」
背後から声をかけられたのでびっくりする。
そこにはいつものイケメンっぷりを発揮するおにぃがいた。
同じクラスなので横を通りかかったみたい。
「人の事を勝手に変な風に言わないで」
「えーっ。おにぃの魅力について語れと言うならいくらでも語れるのに。逆に聞くわ。おにぃは私の事をどれくらい語れる?」
「えっと……変な妹?」
「ひどいっ。私がこんなにおにぃを愛してるのに、“可愛いだけが取り柄の妹”なんて一言で済ませてしまうなんて。おにぃは私への愛が足りてない。もっと、私に対して愛情を持って接してほしい」
「それこそ、一言も可愛いなんて言ってない。あっ、上原君。ちょっといい?」
私の事を放っておいて上原さんの所に行ってしまう。
「ん? カナタか。どうした?」
「あのね、放課後の部活のことなんだけど……」
うぅ、おにぃを上原さんに取られた。
いつものことだけど、おにぃってばつれないわ。
私は唇を尖らせて拗ねる。
「上原君と彼方さんって仲が良いよね? 中学の時からの同級生だっけ?」
「そうだよ。クラスもずっと一緒。おにぃが唯一、信頼してる男友達だもん」
上原君も容姿がいいし、サッカー部のエース候補だし、人気はそれなりにある。
なのに、浮いた話がないのはおにぃと一緒にいる事が多いからだ。
「絶対、上原君って彼方さんに気があるわよね?」
「はたから見れば誰でも分かるのに、本人だけが気付いてない典型的パターン。私にとってはおにぃの鈍感力に助けられてるところもあるよ。ああみえて、おにぃも上原さんの事を気に言ってるのが問題だ」
ふたりが恋人になるなんて絶対に認めない。
おにぃは私のものだもん。
「いやいや、それは普通の事じゃない。彼方さんも女の子なんだし、恋くらいするでしょ。貴音も負けずに彼氏を作れば? あれだけモテるのに誰とも付き合った事がないのは変よ?」
「ふんっ。いいの。おにぃ以外に興味がない。私が好きなのはおにぃだけ」
「もったいないなぁ。青春、無駄にしてない?」
「してないよ。私の青春はおにぃと共にあるんだからね」
そう私は友達に宣言する。
遠くの方でおにぃが「勝手な事を言わないで」と嘆いてた。
放課後はおにぃはどこかの部活に遊びに行ってる事が多い。
今日は何部にいるのか知らないけど、いつも楽しんでるみたい。
運動するのが小さな頃から好きで、何でも得意なおにぃは皆に人気がある。
私は私で放課後はいつものように人の少ない中庭にいる。
「貴音さん、好きです。付き合ってください」
「ごめんなさい。私はおにぃが好きだから、無理です」
と、いつものやり取りを繰り返すのもほぼ日課だ。
これだけ堂々とおにぃが好きだと公言してるのに、告白してくる男の子は数知れず。
どうにも冗談と思われてることが多い。
だけど、私は最初から断る真似はしない主義だ。
どんな相手であれ、私を好きになってくれた事は嬉しい。
それにわざわざ告白するって勇気も必要だもん。
片思いをしてる気持ちは分かるから、その気持ちは無駄にしてあげたくない。
もちろん、男の子の気持ちを受け入れることはないけども。
百の男に好かれるより、ひとりのおにぃに私は好かれたいな。
私は告白を断り終えると寒い中庭から校舎に戻る。
冬なのに、野外で告白を受けるのは寒い。
「はぁ、告白されるのも大変。おにぃが私の告白を受けてくれればそれで終わるのに~」
ハッピーエンドをどうして迎えさせてくれないかな。
そろそろ、襲っちゃおうかな、とか考えてみたり。
「おにぃでも探して一緒に帰ろうかな」
どこかの部活にいそうだし、探してみよう。
友達から連絡をもらったのはそんな時だった。
着信音が鳴った携帯電話。
私は出てみると友達からの連絡だった。
「どうしたの?」
『今、さっきバスケ部の子が騒いでたんだけど、彼方さん、倒れたみたいよ』
「え? おにぃが!?」
おにぃが倒れた……?
思わぬことに私は血の気が引く思いをする。
「ど、どういうこと!? おにぃが倒れたって?」
『落ち着いて、貴音。練習中にバスケ部の子とぶつかって、怪我をしたみたい。今さっき、目の前で上原君が保健室につれていくって背負っていったのを見たわ。彼方さん、怪我をして辛そうだった』
また、上原さんか……いつも私の邪魔をする相手だけど、今日は感謝しておく。
何よりもおにぃの事が心配だもん。
『大した怪我じゃなければいいわね』
「分かった。情報くれてありがと。すぐに保健室に行ってみる」
私は携帯電話をしまうと、慌てて廊下を走りだす。
おにぃが怪我をしたって言う事実だけでも、私は気が気でない。
大丈夫だよね、おにぃ――?