第1話:私とおにぃの放課後デート
【海東貴音】
放課後、私とおにぃは約束通りに映画を一緒に見に映画館へと向かっていた。
「やった。おにぃが約束を守ってくれた」
「あのねぇ、ボクはそんなに言うほどに貴音との約束を破ってないよ」
「えー。だって、誘っても、お買いものに付き合ってくれないし」
「それもタイミングが悪かっただけ。その後に穴埋めもしてるじゃない」
おにぃの約束の優先順位についての文句はある。
「この間も、私との約束やぶって上原さんとお出かけしたでしょ。私に隠れてこそこそとデートするなんて許せないっ」
「上原君とはただ、同級生のバスケ部の試合の応援に行っただけでデートじゃないってば。帰りにちょっとカフェにはよったけども、全然デートって雰囲気じゃなかったからね」
「普通に見ればそれがデートじゃない? はぁ……鈍感おにぃ」
「……?」
おにぃの鈍感さはかなりのものだ。
本人は自分を女らしくない、と思いこんでるせいで向けられている好意に気付いてない。
実際の所、男の子にだって隠れファンはいる。
彼女の男友達の上原さんなんて思いっきり、おにぃに気があるじゃん。
おにぃも彼には心を許してるのできっかけひとつでどうにかなりそう。
男の恋人なんて絶対にダメ、持ち前の鈍感さで想いに気付かない事を切に願いたい。
でも、私の想いもスルーするからなぁ。
「おにぃと放課後デート~っ」
「違います。大体、姉妹で放課後デートって意味が分からない」
「私がそう思ってるだけだからいいもん。放課後デートは楽しいねっ」
「ちょっと、貴音。くっつかない」
おにぃの腕に抱きついてみる。
外の肌寒さを忘れるくらいに暖かい温もりが伝わる。
「……もう、ホントに貴音ってば甘えたがりだよね」
「甘えたがりだよ、おにぃ専門だけど」
「動きづらいから離れて。もうすぐ映画館なのに邪魔」
「ひどいっ。私の愛を邪魔扱いするなんて」
私の絡めた腕を強引にふりほどいてしまう。
「せめて手をつなぐだけにしておいて」
「それじゃ密着できないよ~」
おにぃは私への態度がけっこう雑だ。
それもまたよし。
彼女はツンデレさんだから仕方ないんだよ。
いつかは私に可愛いデレを見せてくれるはず、それまでの我慢だもの。
私たちは映画館につくと、チケットを購入して席を探す。
「さぁて、後ろの席を選んだけど、どこだろう?」
「そっち側じゃないかな。でも、貴音は後ろの席でよかったの?」
「おにぃは身長が高いからねぇ。その辺も配慮もばっちりだよ」
「はぁ。貴音ってシスコンじゃなかったら、いろいろと気配りできるし、いい女の子なのに。ホントに残念な子だよね」
……それ、褒めてくれてるのかな?
映画館の中は平日と言う事もあり、人はまばらだ。
しかも、ハードボイルドなガンアクションなハリウッド映画のために、女の子連れは極めて少ない。
ていうか、私たちだけだし。
「恋愛映画にしなくてもホントによかった? ボクに合わせなくても」
「おにぃが見たいのなら、それがいいの。私はおにぃに合わせたい。なぜって? それはね、私がおにぃを心の底から愛してるからよっ! アイラブおにぃ!LOVEなのよ」
「はぁ……映画館では静かにしましょう」
うぅ、おにぃにあっさりスルーされた。
「でも、ボクに合わせてくれてありがと。今度は貴音の見たい映画に付き合うよ」
「おにぃ。うん、期待してる」
次は小説が実写化された、お嬢様学校の百合系モノを一緒に見よう。
でも、ずるいなぁ、おにぃってば。
次の約束とか、さりげない事だけど、私は嬉しいのです。
やがて、映画が始まると、すぐに激しいガンアクション。
ハリウッド物って何でも爆発させて迫力が出れば面白いって思ってるのかな。
おにぃには悪いけど、私は興味がないな。
あっ、主人公の友達が裏切って銃を撃った。
まったく、こんな展開の何が楽しいんだろうね……?
「え、アンディが裏切るなんて……そんな、ひどい」
なんか、隣のお姉さんがショックを受けて驚いてる。
おにぃ……。
内容はともかく、真剣に映画を見てる横顔が素敵っ。
私は映画を見るよりもおにぃの反応を見て楽しむことにした。
映画が終わるまでの間、おにぃはドキドキハラハラして楽しんでいたようだ。
私も私でおにぃばかり見ていて、色んな表情を楽しめました。
映画の内容は最後は主人公の友達が主人公をかばって死んでしまう展開。
終始ど派手な戦闘シーンばかりで、私には面白みゼロの作品でした。
「アンディが裏切ったのはグレイを守るためだったんだぁ。男の友情、すごい」
あの展開の何が面白かったか意味不明だけど、感動してる姉がひとり。
ちょっぴり涙目のおにぃ。
や、やばい、めっちゃ可愛い。
私は胸がときめきドキドキしてしまう。
おにぃのレアな表情、ゲット。
思わず、携帯で写真をとってしまいたいくらいに。
おにぃってば普段は男の子っぽいくせに、時々、女の子の表情を見せる。
そのギャップに私や上原さんはノックダウンさせられちゃうんだよね。
「ほら、おにぃ。ハンカチ貸してあげる」
「ありがと、貴音」
私からハンカチを受け取ると、おにぃそっと瞳をぬぐう。
少しの涙が可愛くて、可愛くて……おにぃをどうにかしてしまいそう。
このまま襲いかかりたくなる気持ちをグッとこらえる。
映画の余韻をぶち壊すほど、空気が読めない妹じゃない。
「おにぃ、映画は楽しかった?」
「うん。最高によかったよ。貴音はどうだった?」
「私は……それなりによかったかな」
主におにぃの顔ばかり見てたけど、十分に楽しめました。
「そっか。またDVDが出たら借りてみようかな」
映画がよほど気に入ったらしい、御満悦の彼女。
おにぃの事は好きだけど、趣味にはついていけないよ、うぅ……。
「おにぃってホントに男らしいよねぇ」
「……言わないで、自覚してる」
「あははっ。でも、いいじゃない。おにぃのそう言う自分に素直な所が好き」
自分の容姿や性格も含めて、無理に女の子っぽく振舞わない所とか。
おにぃは自分を偽らない、素直な所が一番の魅力だったりする。
「はいはい。そうだ、帰りにスーパーで食材を買ってきてってお母さんに頼まれてるんだ。貴音もついてくる?」
「ついていくに決まってるじゃない。おにぃと一緒にお買いもの。……って、置いていかないで~」
私は置いて行かされそうになり、慌てて彼女のあとを追いかけていく。
大好きなおにぃとの放課後デート。
今日もまたひとつ、おにぃとの大事な思い出ができました。




