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シルフォン  作者: 尾花となみ
本編Ⅰ 砂漠の皇女
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05.闇の少女

「さて、どこをどうやって探すかね」

『……なぜ、このまま去ろうとは思わない?』


「……別に。ただ関わった以上、しかも約束しちまった以上付き合ってるだけサ。やっぱ、あのままにしとくのは可愛そうだろ。あいにくこの島は閉ざされているから俺が何しようと問題にならないし。それこそ力使ってこの島に残って神様扱いで暮らすのも悪くないかもなぁ」

『…………』


「俺みたいな容姿の人間はいないらしいからみんな信じるべ。彼女もなんかひたすら俺の髪の色にびびってたもんな~」早口でそう一気にまくし立てると、自分の髪をつまんで見る。だが面白くもなささそうにすぐ離す。

そして自然にため息がもれた。

『心、囚われたか……』疑問でなく確信を持った声で頭に響く。

「冗談! じょ冗談言うなよ。おまえ形はそんなんで呆れたこと言うよな」慌てて否定すると頭を横に振る。


『決して冗談などではないがな。まぁ、それもたまにはよかろう』と声は半分以上あきらめたような音程で話してくる。

「何がいいんだよ! 一人で勝手に納得すんな!」青年は手を剣に伸ばしたまま怒鳴る。端から見るとかなり奇怪だが、ここはただひたすら金の砂が流れる大地。誰からも視線を浴びることはない。


「で、まぁ、その話しは置いといて……。探すったってこんな場所でみつかんのかよ」愚痴をこぼしながらとりあえず見える範囲で一番高い砂の山に登った。

 一応周りを見渡してみる。後ろには赤い集団が群をなしている。


「しかし本当に真っ赤っかだな。天幕から旗とか服やら人の頭まで………。あの集団の中にいるシェピアは似合ってる。それどころか周りの連中を近づけないほど鮮やかに栄えていた………」

『だが、あの少女のいる場所ではない、そう判断したのだろう』


「……ああ、違和感がある。鮮やかで、似合っているのにどこか違うんだ……」

『血というのはいやに厄介で、因果なものだ』


「……何を知ってんだか……」

『…………』青年の探りを単純に無視する。


「俺にはわかんないけど……。ま、シェピアに約束しちまった以上、責任持たないとな」あきらかに何かを知っている剣をこちらも無視し、言葉を続ける。

『……理由付けするのも大変なものだな』意外な皮肉が飛んでくる。


 だが青年は聞き流すことにした。いくらここで否定してもそう思わせることは無理だろう。

 とりあえずこの場は流して、本来の仕事を優先させよう。それが何よりあの少女の願いであるのだから。


「とりあえず、昨日いた場所に行ってみるとするか。かなり時間経ってるし、いるかわかんないけど……」

『得策だな』賛成の意を見せる。剣も少女への想いを深く追求することはしなかった。


 不毛な会話となることが目に見えていた為か、それともただ興味を失ったのか。

 感情のない声はからは想像することが出来なかったが、彼は彼なりに宿主のことを心配はしている。


 長き時を過ごしても人の心を失うことのできない青年……。自分のようにいっそ作り物となってしまえばいいのに。

 そうすれば不可解な感情に流されることも、支配されることもない。不憫に思う……。不憫? 作り物の自分が人に対して不憫と思うなど馬鹿げている。


 感情は一切必要ない。宿主に対する思いも。自分の身に対する思いも……。ただ流れに身を任せ、時が過ぎていくのを待つだけ。それだけだ。

 何が起ころうと自分には必要はない。いままでも、そしてこれからも……。剣はそう思っていた……。


 青年は見渡しながら、とりあえず感覚と記憶を頼りに昨夜身を潜めた岩陰へと進み始めた。

 少女の温もりを噛みしめながら。



 ◆ ◆ ◆



 深呼吸をしてみる。大きく息を吸って、また大きく息を吐く。何度も繰り返し。シェピアは動けないでいた。

 黒い天幕正面からは少し離れ、天幕内の人からは死角の位置に陣取る。


 再び何度目かの深呼吸……もとい、ため息をつく。

 青年に頑張ると大見得切ったものの、やはり心には多少の迷いが見える。果たしてこの様な場所で聞いていいことなのか?


 果たして、父ではなくまた風の民でもない別人の口から語られていい真実なのか。また彼が語ることが本当に真実とは限らない。

 それも見極め、一言一言を用心深く自分は受け止めることが出来るか……。考え出したらきりがなく、いまだシェピアは体を動かすことは出来なかった。


「ここにリィーダがいればなぁ。気持ちの整理も自然と出来るんだけど……」と、他人(他獣)の所為にもしてみる。


 先ほど、青年が触れた箇所を指でなぞる。いまだ熱を持っている気がした。

 思い出さなくても胸が高鳴り、体が熱を帯びてくる。


「いやだな。今はそんなことより……」気持ちを本題に持っていこうと試みるも、儚く失敗。

「……本当の名前も知らないあの人の事を……好き? 冗談でしょ」言葉にしてみてすぐに自分で否定する。そんなことはありえない。


 ただ見た目がいいだけで、性格はかなり性質が悪そう。そりゃ確かに不思議な力も持ち合わせていて、剣の腕もかなりなものだ。

 確かに時々すごく優しい目をして、でもたまにすごく冷たそうな目もして……。いつもは口の端を軽く持ち上げて皮肉っぽく笑うのに、たまに少し寂しそうに優しく笑う。

 でも何も知らない。しばらく一緒に過ごしたものの、人間そんな単純なものではない。

 

「……それなのに……」シェピアは動けないでいた。違う難問を抱えたたずむ。

 そうしてしばらくの時を数え辺りが暗くなり始めた頃、少女の耳に聞こえのいい高い声が響いてきた。

 消え行くようなそれでいてしっかりとした儚い女性の声が、多少のリズムを刻み、静かな周辺に木霊している。


「歌、声……?」少女は怪訝そうに耳を潜める。聞いたことのない音感でありながら、心地よい歌声は黒い天幕を挟んだ奥から聞こえる。

 シェピアは引きずられる様に天幕の奥へと回り込む。


 砂山の上には、赤い装束に身をまとった少女が座っていた。

 彼女は淡々と、それでいてどこか感情深げに歌を紡ぎだしていた。


 シェピアは彼女の存在を見つめるとそのまま沈黙し待つ。だがその必要なく彼女はシェピアに気づき、後ろを振り向いた。

 闇。だった。少女を彩るは闇。それ以外の言葉は出て来やしない。赤い装束に身を包もうとも、少女が司るのは闇。


 透き通るような真っ白な肌。頭に羽織っていた装束を取れば、艶やかに光る真っ直ぐな黒髪がもれてきた。

 見つめてくる瞳も漆黒。白い光をたずさえた黒い両目がシェピアを凝視している。瞳を離すことさえ出来ずに、二人は動けなかった。


「あ、あの! ご、ごめんなさい。邪魔する気はなかったの。ただあまりにすてきな歌声だったもので……」沈黙を破ったのはシェピアだった。だが言葉に何も反応を示さない彼女に向かって、再び早口で語りかける。


「本当にごめんなさい。私がここにいるのが嫌ならすぐ別の所に行くから……」無言でいまだ凝視する彼女に対しいたたまれなくなり、シェピアは立ち去ろうとする。

「別に、邪魔じゃないわ。ただ驚いただけ。本当に綺麗だから……」そう抑制のない声で一言。先程の歌声と同一とは思えない感情のない声。


 多少疑問を感じながらもシェピアは自分が拒絶されていないことに気づき、近づくことにした。

 少女の方はシェピアの行動に驚くでもなく、嫌がるでもなく、ましてや喜ぶわけでもなかった。


「あの、私シェピアと言います。あなたは……?」

「知ってるわ」不可解な返事が返ってくる。一瞬怪訝に思うが、自分の事を知っていると言うことなのだろう。


「私の名はクラウディア」テンポ遅れて次の言葉が返ってくる。そしてまたシェピアを凝視する。

「えっと……。炎の部族の方……ですよね?」視線に戸惑うものの会話を続けようとしてみる。


「……本当に、何も知らないのね……」

「…………」声に殺気染みた色を感じ、動揺を隠せないままシェピアはクラウディアと視線を合わす。

 その顔は無表情に彩られているが、奥底には凍えるような冷たさを潜めていた。


「知らないまま流されればいいのに……その方が幸せよ」クラウディアの方から瞳をそらし、吐息のような言葉を吐く。

 何も言えず、シェピアはただその場に佇んでいた。


 彼女が自分の知らない何かを知っているのは確かだ。だがここまで無言の圧力で責められることはしていないはずだ。

 不愉快な思いがあるものの、深く追求することは出来なかった。追求すればきっと話しを聞かなくてはいけない。


 聞けば自分は後悔するだろうか。それとも真実を知ることができたと安堵するだろうか。それとも無知を恥じて怒りを覚えるだろうか。それとも呆れて笑うだろうか。

 考え出したらきりがない。色々な可能性に心乱されて本質が見えてこなかった。



 ◆ ◆ ◆



「てっきり聞くのが怖くなって逃げ出したのかと思っていたが、まさかこんな所にいるとは……」苦笑混じりに別方向から声が聞こえてきた。

「……マヴラァス候……」その人が黒い天幕から丁度出てきた。シェピアは一言そう言うと所在なくあたりに視線を泳がす。


「彼はどうした?」

「……友人を、探しに行ってもらっています」正直に言うのはどうか迷いもしたが、今この状況でどう取り繕ってもすぐばれてしまいそうだ。


「……風の元へ?」もしそうならどうなるか……気迫の迫る声で聞く。

「いえ……、ここに連れてこられる時に離れてしまったので」気迫に押されたわけでなく淡々とシェピアは答える。


「……民の話しによると君たち二人の他はいなかったと言っていたがな」怪訝そうに探りを入れてくる。だが少女は首を振った。

「人ではありません。キツネ猫と言うのでしょうか……詳しくは知りませんが」


「自然のペット、と言うわけですかね?」愛玩動物の部分に力を入れ、青年は聞いてきた。

「……友人です」俯いて、マヴラァスの顔を見れぬまま答える。


「どちらにしよ、あなたは変わったものがお好きらしい。あの、青年にしても……」

「候の、おっしゃりたい事は分かります。ですが彼のことは私も……知らないのです」意を決して言葉を続ける。こんな素直に話してもマヴラァスが信じてくれるとは思えないが、騙すよりはいいだろう。


「はははははは、これはなかなか面白いことをおっしゃる。あんな仲睦まじく一緒にて知らないとは。笑わせてくださる」

「…………」案の定、少しも信じてはくれなかった。


「あの、青年の類い希な容姿……。ただ者ではない。始めてみましたよ。金の髪、と言うのをね。あんなすばらしい色は今まで生きてきて、否、父とて誰とて見たことはない。そう、断言できる」そう感慨深く青年は言うと、どこか遠くを見るように視線を馳せ、付け加える。

「光の、神の輝き……」


「そんなに綺麗なお人」一人傍観を決め込んでいた夜の少女だったが、青年の言葉に興味を覚えたようだ。

「クラウディア」マヴラァスは闇のような少女が目に留まると、我に返ったように赤い外套をひるがし少女に近づいた。


「夜が来る。そのような薄着ではまた風邪をひいてしまう」ことさら優しく声をかけ、彼女を包み込むように促す。

「お兄さま。話しがしたいわ」簡潔に問う。


「わかった」そして兄と呼ばれたマヴラァスも簡潔に答える。

 その答えに満足したのか少女は初めて感情を表に出し、微笑んだ。だがそれも微笑んだのか、顔を歪ませたのか、分からない程度に。


 そして、シェピアには目もくれず、言葉もなく黒い天幕へと消えていった。

 その姿を惜しみなくたっぷりと見送った後、マヴラァスはシェピアへと視線を移動させた。


「姿を見た以上、話しを聞かなくてはならなくなった。自分で蒔いた種だ」

「……彼女が、妹?」


「そう、呪われた妹。姿を見ただろう? とても炎の皇女とは思えない……。闇を着込んだ娘。そして風の皇女とは思えない炎のような娘」

 シェピアは突然理解した。ああ、そうか、これは私達の話なのだ。炎の皇女、風の皇女。そしてたぶん他の部族の皇女達。


 他の集落にも皇女がいるのかも知れない、そしてどんな姿形をしているのかは知らない。でも、きっと皆その部族とはかけ離れた容姿を纏っているのだろう。

 そして、たぶん、それは父様が言っていた他部族同士の結婚と、契約と、そして古くからの仕来りに関係があると言うことが、少なからずもおぼろげに見えてきていた…。



 ◆ ◆ ◆


 外にいて疲れてしまったから、と言う理由で闇をまとった少女はそこにはいなかった。自分の天幕であるあの黒いのの中で休んでいるのだろう。

 まだ帰ってきていない青年も除き、だから結局話しをするのに当てがわられた天幕にはシェピアとマヴラァスの二人しかいなかった。


 皇族の話し故、と言うことで他の誰も立ち寄らせず遠くに見張りを立てるほか、何人たりともこの天幕には近づけなかった。

 夜は長いのだから、と言う理由ではないだろうが、青年はすぐに本題には入らず何かと少女の身の回りの話しを聞きたがった。


 少女も話しても別に害はないだろうと思い、自分たちの事風の民の事を話した。

 青年も特に構えるでもなく炎の民のことを話してくれた。


「ここにいるのはほんの一握りの民だけだ。見れば分かると思うが、男と少しの若い女しかいない」

「ええ、不思議に思ったの。子供もいないし……」


「ああ、本拠地は別にある。父が目的を果たすため遠征に出たに過ぎない。もっとも、その父が変死して今は行き場もなく右往左往しているがな」

「……目的、とは?」


「賢いそなたのことだ、もう分かっているだろう。今更隠しても仕方のないこと……風の民への襲撃だ」確かに分かっていたとは言え、こうもはっきり言葉にされると息を呑む。

「私にはどうもそれが得策とは思えなくてね。丁度思案しているときに君たちが来た、というわけなんだが……」


「なぜ? なぜですか?」遠慮がちに聞く。いくら族長の独断とは言え一度はその命に従った身だ、素直に答えてくれるとは思えなかったが聞かずにはいられなかった。

 マヴラァスは多少何か考えたようだが、すぐに首を横に振る。


「確かに、今更考えても仕方のないこと。私は実行に移し守った。そしてこれからも守る……」

「…………」


「なぜ風の民を襲撃しようとの愚作を思いついたか、それを話すには先に君たちの事を話さないといけないと思う」

 君たち、とは私とあの妹さんの事だろうか……。シェピアは考えを馳せると無言で青年の言葉を待つ。


「心の整理はついたようだな」意志の強い黒い瞳が再び忠告をする。

 だがそれに臆することなく少女は無言で頷いて見せた。


 風が吹いた。まるでこれからの話しに恐怖を膨らませるかのように天幕に激しく風が体当たりをしてくる。

 天幕が音を立て揺れる。そして一際強く風が吹き、天幕の入り口がめくれあがる。するとそこには音もなく一人の人影。


「ちょいと、失礼」およそこの場面には似つかわしくない明るい声が割り込んできた。

「お待たせ、シェピア」そう金の髪をなびかせた青年は少し悲しそうに言うと、天幕に入ってきた。


「……ごめんね。探したんだけど……どうしてもわからなかった」いきなりの登場に呆気にとられていた二人だったが、その言葉にシェピアは顔を歪める。

「本当にごめん。本当はもっと探してあげたかったんだけど、さすがに暗くなってきたから……」デュオはそう言いながらシャピアの前まで来ると、視線を合わせたまま目の前に座る。


「…………」シェピアは瞳を潤ませながらも必死に首を横に振る。

「……本当にごめん」デュオは少し掠れた声でそう言うとシェピアをそっと抱きしめた。


 シェピアは無言でずっと首を振りながらデュオにしがみ付いた。そしてそのまま青年の胸に顔をうずめる。

 そのシェピアの行動を受けて、デュオはより一層少女を抱く手に力を込めた。


 シェピアはデュオにしがみ付いたまま青年の胸に頬を寄せると、ずいぶんとざらざらしている事に気がついた。身体を離して改めてデュオを見るとあちこち悲惨な事になっていた。

 長い髪は乱れ、あちらこちらに砂がこびり付いている。服装もずいぶんと肌蹴て綺麗な鎖骨が覗かせていた。


 天幕の中にいても感じる暴風だ。遮るものが何もなく外にいたのだから当然だろう。

 シャピアはその色気満開のデュオから慌てて離れると、なぜか自分の髪を整える。


「ご、ごめんなさい。それからいっぱい探してくれてありがとう」真っ赤な顔をしながらシェピアは控えめにそう言うと、いまだ目の前に座っている青年を上目遣いで見る。

「いいって。俺の方こそ力になれなくてごめんな」と少し目を細めて言うと、自分の身体を見て苦笑する。そしてそのまま少し身なりを整えるとシェピアに向かってニヤッと笑った。


 デュオの身体を見て恥ずかしくなったのが絶対にバレてる。そう思うとシェピアはより一層顔を茹で蛸みたいに真っ赤にして慌ててデュオから視線を逸らした。

 その行動が余計にデュオの嗜虐心を刺激しているなど気づいてもいない少女は唇をかんで俯いている。


 デュオとしてはもうちょっとシェピアで遊びたいと思ったが、さすがにマヴラァスの視線があるのでやめた。こんなに可愛いシェピアをマヴラァスに見せるのはとっても嫌だ。

 二人っきりの時に是非ともゆっくりと楽しみたい。今は真っ赤なシェピアを刺激しないようにそっと大人しく隣へと移動した。


「んで、話しは終わったの?」そして何事もなかった様にデュオはシェピアに聞いた。 少女は弾かれた様に顔を上げたが、すぐにまた俯く。

 二人を微笑ましく傍観していたマヴラァスも顔を引き締めた。


「……まだ、な訳ね」二人の表情を見るまでもなく汲み取り、立ち上がったデュオの服を両手でしっかりとシェピアは捕まえた。

「おいおい、シェピアちゃ~ん?」両手でしっかりと服を握りしめたまま頭垂れるシェピアの頭を軽くこづく。


「マヴラァス候。彼も、彼も一緒に聞く訳にはいけませんか?」少し自信なさげに彼の服をつかんだシェピアは聞く。

 マヴラァスは端正な眉を少し歪め、また考えた。


「……あまり外聞のいい話しではないのでな、外部の人間に聞かせるのはどうかと思うが……。何せ、君の待遇も分かっていない」そう言うと、探るように視線をとばす。

 そんなマヴラァスに対して青年はただ肩をすくめて見せた。


「第一、皇女の知り合いと見て咎めてはいなかったが、一番の不振人物と見て間違いあるまい。風でも、炎でもない。……否それどころか、そなたのようなものはこの狭い島のこと、すぐに噂になろう」つかんだ格好のままのシェピアと捕まれた格好のままのデュオは、二人してマヴラァスの次の言葉を待つ。

「……外部の人間……考えられなくはないが」少女から青年と出会ったあらましはある程度聞いたとは言え、再びこうして見ると明らかに自分たちとは違う。


 少女もそれは分かっていた。出会った時からの違和感。最初の頃は特に感じていた。容姿だけではない。青年の服装にしても、装備品にしても、自分たちとは明らかに違う文化……。

 でも、その違和感はシェピアにとってはもうどうでもいい事になってしまっていたが、マヴラァスに至ってはそこまで青年の本質を見てはいない。


 二人に睨まれ多少居心地が悪くなったのか、青年は身をよじり少女の手から逃れる。

「あっ」不満そうに声を漏らす少女。そんなシェピアの頭を再びポンポンとこづく。


「ま、俺の事はとにかくさ。どう言っても本人が覚えてないんだから」と当事者は飄々と逃げる。

 いまだ不満そうにシェピアは青年を上目使いで睨むと、今度は両手で右手をつかむ。そして力一杯引っ張った。


「うわっと……」急に全体重を乗せられさすがにデュオもよろめいた。するとシェピアはすかさず今度は背中におぶさるように乗っかった。

「おーい……」半分あきらめ顔でシェピアを咎めるが、当の本人は知らん顔。


「本当に全くの部外者だからいいとは思いません?」そんな情けない格好をしていながらマヴラァスにも強気に食ってかかる。先程の弱々しさは何処へ行ったのやら。

「まぁ、いいだろう……」少女の態度に苦笑しながらマヴラァスも認めた。


「一人ぐらい知っている人間が増えたとして、代わりはないのだからな」

 青年も部外者を決め込んでいたが、いい加減あきらめシェピアの手(体?)から解放され、横に倣った。


 マヴラァスは対照的に立つと水瓶から何か酌むと二人へとそれぞれ手渡した。

「酒でも飲まないと話せないさ」そういって自分は一気に飲み干した。


『深みに嵌るなよ…』そう青年の頭に剣の忠告が響いた気がした。



デュオくん記憶喪失のはずなのに、地が出てきちゃってます。

そしていつの間にか言葉遣いも変わってます。僕が俺に。

シェピアさんも頑張って大人のフリしてるのに、デュオの前だとどうもおこちゃまが出ちゃうみたいです。

次回は金曜日更新します。

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