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シルフォン  作者: 尾花となみ
外伝Ⅰ フォルテシア
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07.フォルテシア 1

「この間の地響きは旧タイトゥー王国の跡地で起きたものだったらしいぜ」

「本当か? 最近の異生発生と何か関係があるのだろうか……」

「わかんね。ただ近頃なんか変な事ばっかり起きるよなー」


 軽食屋で優雅に茶を飲んでいると、そんな会話が耳に入ってきた。

 俺の後ろに二人の男が座っている。その二人の会話だ。


「なんか女王陛下の不況を買ったやつがいるって噂もあるぜ」

「ほー。あのお人のねー。可哀想に」


「それがよ! 逃げずに堂々とこの街に滞在してるらしいぜ」

「本当か!? なぜ捕まえない?」


「わかんね。なんで不況を買ったのかも知らね。ただあの伝説のハンターの連れって噂だぜ」

「ほー。あの……伝説の?」

「うんうん」

 そのまま二人はまた小声で噂話に花を咲かせている。

 俺はそれ以上続きを聞く気にはなれずその店を後にした。


 街人の噂話……恐るべし。

 確かに地響きはこの間の事件の時のものだ。

 逃げ出した俺達は間一髪、山となっていた跡地崩壊に巻き込まれずに済んだ。


 女王の不況を買った人物もいる。元専属ハンターの仲間で堂々と滞在している事も当たってる。

 ……俺の事だ。

 あの二人は噂話の当人が後ろにいるなんて思ってなかっただろうな。

 つい可笑しくなって吹き出した。


『人間は本当にくだらんな。貴様の精神も理解できぬ』俺の頭の中に不愉快な声が響いた。

「……黙れよ」


 脱出しあの剣を手に入れて俺はすぐに気づいたことがある。それは俺が不思議な力を手に入れたことだ。

 俺は自分の中に不思議な力が流れ込んでいるのを理解した。そして俺は魔法を使えるようになっていた。


 正確には魔法とは呼べないものかも知れない。エレやマ=リアンが扱うものとはまったく別物だ。

 マ=リアンが言うに魔法はリーヴァの力を借りるらしい。だが俺は借りていない。

 あえて例えるなら精霊石を使用しているかの様に感じられるそうだ。


 俺が思うに多分……いやきっとこの剣に埋め込まれている石が関係しているのだと思う。

 こいつは魔石と言っていたが本当かどうか分からない。まぁ、俺にはどうでもいいことだが。


 宿に戻るとシャインが待ち構えていた。例のハンター様だ……。

「やっと帰ってきたわねぇ。待ってたわ~。フォンー。話があるのぉ」シャインはそう言うと俺をシャインの部屋へと押しやる。


「なんだよ。この剣の事なら話す気はねーよ」

「……まぁ、そう言わずに聞いてよぉ」……相変わらず気持ち悪い。何時まで経っても慣れないもんだな。


「ちょっとぉー! 聞いてるの~?」

「はい」


「そうぅ? ならいいけどぉ……本当に、王国へ返却する気はないのぉ~?」

「ない」


「そう……。ならさっさとこの街を出ましょ~。報酬貰ってない! なんて剣を提出しない以上言えないしぃ。ここは居心地悪いんだものぉ」

「……そうだな。クレアッサに戻るか……」


「じゃあ~、みんなには私から話しておくわ~」シャインはそう言ってさっさと俺を部屋から追い出した。

 崩壊から逃れた後俺達はすぐに王国へ戻った。そして事のあらましを女王へ報告した。

 跡地が崩壊してしまったものの、大量発生していたはずの異生はまったくいなくなったので報酬を支払ってくれると約束してくれたのだが……。



 ◆ ◆ ◆



「保管されていたと言う剣をお見せ」そう女王が言ったので俺は多少抵抗を感じながら剣を見せた。

 女王はわざわざ玉座を降り俺の近くへ来て剣を眺めだした。


 話を聞いた後だったので実際に触るのに抵抗があったのだろう。差し出した俺の手の上にある剣をあまり近づきすぎずに見ている。

 だがその表情が急に変化した。驚愕で目を見開き、顔色がドンドン青ざめて行く。そして大声を張り上げる。


「バルト!」

「はっ」呼ばれた宰相はすぐに女王に近づく。

 女王が宰相に何か耳打ちしている。聞いている宰相の顔色も見る見るうちに青ざめて行った。


 差し出したこの手はいい加減下ろしてもいいのだろうか? そんなことを悩んでいると、宰相が盆を持って近づいてきた。

「ここに載せなさい。王国で見つかったもの。王国のものだ」男はそう言って盆を突き出す。


 俺は……渡さなかった。渡したくなかった。

 その時すでに不思議な力は俺の中に浸透していた。漲る力……。

 エレやレ=ロイド所じゃなく、シャイン相手でも引けを取らない。いや、勝てる力だとなぜか俺にはわかっていた。


 だから、渡さない……。

 これさえあれば、俺の事をバカに出来るやつはいない。

 これさえあれば、俺は誰よりも強い。

 これさえあれば、いい……。


 俺が、手に入れた。俺のものだ。絶対に他のやつには渡さない。

 俺が女王にそう言うと、女王は怒り狂い兵隊を俺に差し向けた。だがこんなやつら俺の相手じゃない。圧倒的に返り討ち、誰も止める事が出来ないまま俺は城を後にした。


 冷静になってやっぱりあれはまずかったかな……と思ったが、絶対に渡す気がない以上仕方がない。


 女王も城で兵隊をボコボコにしたのが効いたのかその後追っ手を差し向けては来ない。

 このまま街を出るのが確かに得策だろう。


 しかし女王や宰相の顔色があそこまで変化した理由を知りたかった気もするが、まぁ、俺には関係ないか。

 例えこの剣がよくないもので何か害を為すものであったとしても、関係ない……。

 俺にとっては素晴らしい、最高の剣だ。本当、最高さ。


『愚かなものだな』

 頭に不愉快な声が響いた気がしたが、やっぱり俺には関係ないさ。



次回16日更新。

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