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シルフォン  作者: 尾花となみ
外伝Ⅰ フォルテシア
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04.レ=ロイド

「おい! お前邪魔!」またかよ……。

 俺が座っている所へわざわざ来て、わざわざ俺をどかせようとする。


 毎日こんな調子でぐったりだ。

 口論になるとまったく勝てないので、最近は素直に別のところへ座る。


 だが、意味がない……。

 俺が移動すると隣に座っていたマ=リアンもついて来てまた隣に座るから、やっぱり金魚のフンもついて来て……。


「おい! お前邪魔!」となるわけだ……。

 そんな俺たち三人の行ったり来たりをかなりうざそうにエレが鋭い目で見ている。


「フォンー。ここに座ったらぁ?」最後には必ずシャインが助け舟を出してくれ、どうにか落ち着くのだが……。

 長椅子に俺を真ん中にしてエレとシャインと座る。そうすればマ=リアンは俺の隣に座れないから金魚のフンも文句を言わない。

 だが右にエレ……、左にシャイン……。正直うろうろしている方が全然気が楽だ。


「レ=ロイド! いい加減にしてよ。ウザイ」エレがかなりきつく言うが金魚のフンは無視。

「マ=リアンもよぉー」シャインが諭すが彼女も同じく聞こえないふりをしている。

 本当、よく似てるよ……。まったく!


 マ=リアンの護衛を務めていた男、名前をレ=ロイドと言うのだが驚いた事にマ=リアンの双子の兄だった。

 自分の知らないうちに可愛い妹に悪い虫が付いたとでも思って俺の事を敵視しているみたいだ。

 まったく、とんでもない迷惑でマジ疲れる。


 神殿の巫女の護衛を一人で任されるほどだから腕前はかなりのもので、エレとタイプの似ているハンターだ。

 もちろん法も使える。


 法は遺伝ではないと言うが二人の家系はかなり優秀らしく、神殿に仕える人が何人もいるらしい。

 まぁ、俺にはまったくもって関係ないことだけど……。


「今日も集まる意味ないでしょ」エレはそう言い切ると、さっさと席を立ち部屋を出て行く。

 そんなに俺の隣が嫌かね? と思いつつも俺も素早く立たなくてわっ!


「俺もちょっと出て来るよ」そう言ってマ=リアンが隣に座るより早く立ち上がり、部屋を後にした。

 正直、あの空間が辛い。息が詰まる……。


 俺にだってプライドはある。

 金魚のフン――向こうだって俺の事お前! だから、俺だって名前を呼んでやるつもりはない! ――に虚仮にされ腹が立たない訳じゃない。


 でもあいつの気持ちも分かる気がする。

 妹が好きになった相手が自分と同じハンターで……。その相手が自分と同じ、もしくは自分以上に強ければあいつもここまで露骨に態度には出さなかったと思う。


 だけど俺はまるっきり法が使えなくて、ハンターと呼べないような中途半端な男。

 なんの役にも立たない男……。

 自分で考えてて吐き気がしてくるけど、事実だから仕方がない。


 正直、潮時なのかもしれない……。

 飛び出した後はずっと二人きりで、エレを一人にさせたくなかった。

 でも今はいつの間には人数が増えてて、例え俺がいなくなったとしてもエレは一人にはならない。

 だったらこんな使い物にならない俺なんてエレには必要ないのかもしれない……。


 本当は止めて欲しかった。

 要らなくなんてない! そう言い切って欲しかったけど……。



 ◆ ◆ ◆



「エレ!」

「いい加減にしてよ、レ=ロイド。何度同じこと言われても、私の意見は変わらないわ」

 別に盗み聞きするつもりはなかった。

 ただ通りかかったらエレの部屋のドアが少し開いてて二人の姿が見えてしまったから、立ち止まっただけ。


「……わかんないね。何でそこまで逃げてる? お前らしくないよな」

「うるさいわね」

「いい加減分かってんだろ、本当は。エレからはっきり言ってやれよ!」

「うるさい! あんたにフォンの事をとやかく言われる覚えはないわ!」エレは一際大声で叫ぶと勢い良くドアを開けた。


 当然俺は目の前にいる。

 エレと目が合った。俺が逸らすより先に逸らされた。

 耐えられない……。

 俺はその場から全速力で逃げ出していた。


 俺の事を話していたのは確かで……。あまり良い内容じゃなさそうだったのも確かで……。

 何を話していたのか全然分からなかったけど、へこむ要素は大有りだ。


 そんなマイナス思考で訳の分からない事を考え町を徘徊していると、公園でばったり金魚のフンに会ってしまった。

 俺よりもあいつの方が気まずそうにしている。


 いつもの俺様態度は何処へやら、そわそわしている。

 …………迷子だな。


 極度の方向音痴はマ=リアンだけでなくこいつもだ。

 双子ってのはそんなところまで似るのかね?


 仕方なく一緒に宿まで歩いていると、珍しく金魚のフンのほうから話しかけてきた。

「いつもはマ=リアンがくっついてるから……。本当は二人で話したいと思ってたんだ」

「…………」マジですか。


「あんた見てるとこう……もどかしいんだよ」もどかしい?

「って言うか、イライラする。俺は別にあんたの事認めてないわけじゃないぜ?」

「…………」

「ただ法が使えないってだけで、どうしてそこまで卑屈になってんだよ」

「別に卑屈になってるつもりはない」


「うそつけ! その態度がムカつくんだよ。もっと堂々としてれば良いだろ。俺にあそこまで言われて言い返しもしない。マリアに対してもそうさ。確かにあいつは巫女に選ばれる程の力を持っている。だからってあそこまで露骨に線を引く事ないだろ?」

 そんなつもりはなかったけど、確かになんで俺が好きなのか分からなくて逃げてはいた。


「エレに対しても……。あんた達ずっと一緒に育ってきたんだろ? なんでそこまで遠慮してんだよ。お互い言いたいことも言わないで腹に溜め込んで」

「…………」

「お前ら見てるとムカつく。特にあんた。法が使えないってだけですげぇ自分を卑下してよー。別に法だけが全てじゃないだろ。今のままでお前は十分役に立ってると思うぜ。じゃなきゃマリアだってここまで惚れ込んだりしないだろ!」そう言い放つと金魚のフンはさっさと宿へ入って行く。


 ……今のは何だ? 誉められたのか? 貶されたのか……。

 励まされた? それとも馬鹿にされただけなんだろうか……。


 いまいち釈然とせず頭を悩ませながら俺も宿の自室へ戻ろうとしている所、まだ言い足りなかったのか待ち伏せされまた話しかけられた。

「俺とマリアはあんたらとうまくやって行きたいと思ってんだぜ! ついでに……」そしてわざわざまた俺の近くへ戻ってきて小声で付け加える。

「エレだってあんたとうまくやって行きたいと思ってると思うけどな。つまり、あんた次第じゃねぇの? 男ならもっと強気ではっきりしゃきっとしろよな、フォン!」最後は鼻息荒く言い切るとさっさと踵を返す。


 ……やっぱり、俺は励まされてたみたいだな。

 走り去ったあいつの後姿を見ながら、口元が緩んでしまった。

 あいつ、俺の事初めて名前で呼びやがった。

 会話としては成り立っていなかった気がするけど、ちょっと気分が軽くなった気がした。


 法が使えないことへの劣等感は消えてくれなかったが、あの双子ともうまくやって行けそうな気がした。

 レ=ロイドと二人で話して、本当の所で俺達は五人になったんだ。



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