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シルフォン  作者: 尾花となみ
外伝Ⅰ フォルテシア
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02.シャイン

「あんた達~、なにやってんのぉ?」

「……見ての通り野宿です……」


「それはわかるけどさぁ。ここ、わたしの家の前なのよねぇ」

「家!? ですか……」どう見ても廃墟だ。

 だが人が住んでいるというならうなずける。中に入ろうと思ったが頑丈な鍵がかかっていて入れなかったから。


「わたしはシャインよぉ」そう言ってその……大男――の割には高い声で変な口調で話す男――は鍵を開け俺達を中へ招待してくれた。

 外見からの想像とは離れ中はきちんと整理されていた。

 それなりに家具もそろっていて何やら怪しげな小物が色々な所に飾られている。


「俺はフォンです。こっちはエレ」名乗られたらこちらも倣わないわけに行かない。

 家にも入れてくれたわけだし、一応の礼儀だ。

 だがエレは気に入らないのか、明後日の方向を向いている。


「床でもよかったら泊まって行っても良いわよぉ。あんた達駆け落ちかなんかぁ?」

「違います!!」慌てて否定したが……エレを見るとやっぱり目が怖い。怒ってるな。


「……よく私が女だってわかったわね」

「そりゃー、わかるわよぉ! だって同性を見る目は厳しいものぉ」

「同性!?」つい俺は口に出す。さすがのエレも絶句している。


「まぁ! 失礼しちゃうわねぇ、わかるでしょぉ」

「すいません……」って何で俺謝ってんだ?

 どう見ても男だろ。

 俺より全然背も高いし、体型だって俺の二倍は横に広い。

 でも太っているわけじゃなくて無駄なく鍛えられている。

 やっぱり俺は貧弱だな……。


「いいけどぉ。わたし体は男だけど心は乙女なの。だから傷つきやすいから気をつけてぇ」

 ……やっぱり男じゃないか……。


 しかしこの声にしゃべり方。いい加減気持ち悪くなってくる。

 エレを探すと既に床に転がっている。

 逃げたな。俺一人で相手をしろってことだろうな。


「でもぉ、かけおちじゃないならぁ、なんでこんな町から離れたところにいたのぉ? この辺りは色々でるわよぉ。お子ちゃま二人じゃ危ないわよぉ」

「大丈夫です! ……戦うのが仕事ですから」内心ムカつきながらも、努めて冷静に言う。

 こんな事で怒ったら余計子供と思われちまう。

「あら? 怒ったぁ? ごめんなさいね」ってばれていたか……。


「でもぉ、ハンターなのぉ? わからなかったわぁ。同業者って匂いでわかるんだけどぉ。わたしもまだまだねぇ。ごめんなさい」

 素直に謝られ、少し面食らう。

 しかも同業者? なら余計だ。俺達二人で旅をしていて一体どれだけからかわれ、馬鹿にされてきたか……。


「フリーの方ですか? お一人?」同業者と聞けば断然興味が湧いてくる。

 エレも同じみたいでいつの間にか起き上がっている。

「そーよぉ! 誰もわたしと組んでくれないのぉ。それに、国に使えるのは嫌いなのぉ」

 まぁ、この声・口調と四六時中一緒にいるのは無理かもな。


「……あんた、強いの?」エレ、その質問は失礼だろ。

 だがシャインは気分を悪くした様子もなく答えた。

「そぉーねぇ、そこそこ出来るとは思うわぁ。わたし一人で三体ぐらいなら余裕よぉ」


「三体!!」つい声に出た。

 俺は一体も倒せないし、エレはどうにか一体倒せる程度。

 エレを見ると……やっぱり、眼が怖い。

 怒ってる……と言うよりショック受けてんな。


「やだぁ、睨まないでよぉ。本当なんだからぁ。今回もねぇ、五体倒してきたのー。家に帰るのは一ヶ月ぶり、ほらぁ」そう言って魔石を出した。

 確かに、五つある。


 異性を倒すとその核となっている宝石が現れる。それは魔石と呼ばれていて異性一体に必ず一つあるのだが、異性一体ずつそれぞれ異なっている。

 色・形・大きさそれぞれ違うが法則があって、色が白→黄→緑→青→赤→黒の順で魔力が強い。

 大きさが小さいほど体の面で強く、形がより球型の方がバランスの取れた強さを持っていると言われている。


 男が取り出した魔石は形も綺麗で黄色・緑の2種類ある。つまり魔力もほどほどに強く、バランスが取れていてそれなりに強い異生と言うわけか。

 と言うか緑のこんな綺麗な魔石は初めて見た。


「あんた達はぁ? って、まぁ、倒していたら野宿なんかしてないかぁ」

 何も言い返せない。


 国に仕えるハンターは国に雇われ異性を倒す。その働きによって報酬は決められ、色々な特典も受けられるが契約に縛られる。

 国に仕えないハンターをフリーと呼ぶが、そのフリーのハンターが倒した報酬は神殿から支払われる。


 異性を倒した証明となる魔石を持ち込めばそれを神殿が買い取ってくれるのだ。それはかなりの額で取引されるのだが、魔石の種類によってその差は激しい。


 フリーのハンターは国に守られないリスクもあるが一人で稼ぐメリットも大きい。だが稼げないハンターは守って貰う所がないのだ。

 

 あんな綺麗な魔石を持つ異生と戦って、勝てる実力は俺達にはない。だからこその野宿だ。

 何も考えず表に飛び出して出遭った異生を倒してこれるほどの腕はない。それが現実。


 だから異生と戦う経験もつめず、ずっと成長していない。

 正直大分後悔し出していた。あの時エレと二人飛び出した事を。

 俺達の実力ではまだ早かったんだ。

 例え嫌だったとしても、エレはあのまま訓練を続けるべきだった。

 それなのに、俺のために……。


「決めたわぁー! わたし、あなた達と一緒に行動するわぁ」

「はぁ?」

「嫌だって言っても、もう決めちゃったからぁ。しばらくよろしくねぇ」

「はぁぁぁ?!」


 そんなんで急に俺達は二人じゃなくて三人になったんだ。

 シャインのその言葉に驚いたけど、エレが何も言わなかったから俺はちょっとホッとしたんだ。


 二人で飛び出した事にエレも後悔しているんじゃないか……そう思うと怖くて、聞けなくて。

 なんだかエレとうまく話せなくなって来ていて。

 そのうちエレが何を考えているのか全然分からなくなって来て、二人でいるのが怖かったんだ。

 エレと一緒なら何処へでも行ける、そう思っていたのにエレと一緒にいるのが怖かった。


 シャインが俺達を鍛えてくれるつもりで仲間になったことなんて全然知らなかったけど、その時はただホッとしたんだ。

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