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シルフォン  作者: 尾花となみ
外伝Ⅰ フォルテシア
18/29

01.エレクトラ

子供の頃の記憶。

断片的で場面転換が激しく、少し読み辛いかも知れません。

次話からは普通になると思います。

死ぬんだ。そう思った。

 他は何も浮かばなかった。

 ただ僕は死ぬ。

 恐怖なんてもうどこにもなかった。

 父だったはずの残骸。母だったはずの残骸。それを見ても、もう何も感じない。

 ただ僕もああなるんだ。そう思った。



 ◆ ◆ ◆



「大丈夫かい?」その人は僕にそう言った。

「もっと早く来れてれば……」父だったはずのもの。母だったはずのものを土に還しながらそう言って涙を流した。


「ありがとうございます」助けてくれて……。なぜか涙の出ない僕の代わりに泣いてくれて。

「施設に行くんでしょ?」そう僕が言ったらその人は悲しそうに笑った。


「施設に行くのは嫌かい?」別に。父も母もいなくなった今、当たり前のこと。

 だからって別にあのまま殺されてしまえばよかったなんて思わない。

 それなのにその人は僕を自分の家へ連れて行った。

 そして一緒に暮らそう。そう言ったんだ。



 ◆ ◆ ◆



「……何? これ?」

「いや、その……姉妹欲しいって言ってたじゃん?」


「私が欲しいのは頼りになるお姉さんって言ったんだけど?」

「そ、そうだっけ?」


 僕を睨みつける子供。あの人―名前をランバードと言った―は娘がいるって言ってた。

 この子が娘? どう見ても男の子にしか見えない。


「……気に入らないわね」

「え?」


「あんたよ! いくつ?」

「……十歳」


「……いつ産まれ?」

「カリスト・ヴィー月」


「そう! じゃぁ私の方がお姉さんね! ディーヌ・ルー月だから!」

「……八ヶ月しか変わらないじゃない」


「八ヶ月でも年上は年上! 敬いなさいよ!」

「……はい」なんか、変な娘。調子狂うなぁ……。


「そっかぁ。十歳だったんだぁ。エレと一緒だね。よかったね」

「もう、ランは黙ってて。とにかく気に入らない。だって、あんた男でしょ?」


「え? お、男の子だったの?」やっぱり。勘違いしてるかな? とは思ってた。

 大体間違えられる。

 うなずく僕を見てびっくりしてる。


「そっかー! 私てっきり女の子だと思ってた」そう言うランは女の人だよね?

「やっぱりね。ラン。この子帰してきなさい」エレと言う娘はそう言って僕を指差した。


「うん……あ、いや。仕事中に会ってね……」

「!……そう……」一瞬目を見開き、すぐにうつむいた。


「まぁ、いいわ。男手あった方が何かと便利かも知れないし。で?」

「え?」


「名前よ」

「フォン……フォルテシアです」


「そう、私はエレクトラよ。一応よろしく」

「はい」握手した。

 そんな僕たちを嬉しそうにランバードは見ていた。

 そして、僕たちの三人暮らしは始まった。



 ◆ ◆ ◆



 この世界には人間とは違った生物がいる。魔物とか化け物とか言われるようなそれは異種生物と言う名前がついていて、人々を苦しめている。

 ランはその異生を倒すことを仕事としてるって言ってた。この国の王様に雇われているらしい。


 エレはそんなランと同じようになりたいと色々な訓練を受けていた。

 そんな二人と一緒に暮らすうちに僕もそう思うようになって、気がついたらランから訓練を受けるようになっていた。


「二人は今年で何歳だ?」

「十四歳になります」


「そうか、で?」

「エレは、心・技・体・法。すべてそろっております」


「……フォンは?」

「残念ながら、法がついて来ませぬ」


「なぜだ? あれ程リーヴァの加護が強いものはそうそういない。逸材だと言っていたではないか?」

「今でも、リーヴァの加護は類を見ません……ですが……」


「もうよい。今からでも施設へ送れ。金の無駄だ」

「もうしばらく! もうしばらく時間を下さい」


「……後一年だ」

「いえ、後二年……お願いします」



 ◆ ◆ ◆



 わかってた。

 ランが下心を持って僕を引き取ってくれたこと。でも嬉しかったんだ。


 たとえ偽りの家族だったとしても嬉しかった。

 がんばってランの期待に答えればエレと同じように本当の家族になれるって思ってた。


 でも違ったんだ。

 リーヴァ(神様)の加護が強くても、魔法を扱えない僕は異生を退治するハンターとして役に立たない。

 だから施設に送られるんだ。



 ◆ ◆ ◆



「バカじゃないの? 本当、あんたってバカ」

「どうしてさ。本当のことでしょ?」


「力なんて関係ない。私はただランの役に立ちたいから側にいるだけ」

「……エレは……力があるからそんな事言うんだ。僕は側にいても役に立たないもん」


「本当にバカ。そんな事考えるひまがあるんだったらもっと努力しなさいよ。何も私に勝てないじゃない」

 それは全部魔法で補ってるからじゃん。

 努力してるよ。でも魔法がなければそれも全部限度があるんだ。


「とにかく。お偉方にはランが対応してくれるわよ。だからあんたは余計なこと考えないで訓練してなさい」



 ◆ ◆ ◆



「確かに最初はハンターとして育てようと思って連れて来たよ。でもね、一緒に暮らしていたらそんな事忘れた。エレと同じようにね」

 うん。そうだよね。


 僕のために泣いてくれたランだもん。あれはうそじゃないもんね? 今までの生活にうそはないよね?

 やっぱりエレの言う通り僕バカだったね。


 僕頑張るよ。ランの役に立ちたい。

 魔法が使えなくても、他のことがもっと出来ればいいんだもん。

 このまま三人で一緒に暮らすためならどんなつらいことだって頑張ってみせる。



 ◆ ◆ ◆



「私もランと血がつながってないのよ。フォンと同じ。異生に襲われているところを助けてくれた」

「ああ」


「……知ってたの?」

「……ランが、教えてくれた。あの、十四のとき」

「そっか」


「丁度二年前だな」

「そうね。本当なら今日あんたは施設に送られる」


「……エレはどうなるんだ?」

「別の、所に送られて、また、訓練を受ける……」


「……俺は行くよ?」

「……もちろん。私も行くわ」


「…………」

「…………」


「旅立ちに十六歳は早い?」

「そんな事ないわよ。ランは十六歳だったって言ってた。ただ今の私とは比べようもないほどの天才だったらしいけど……」

「そっか」


「まぁ、あんたじゃより一層無理ね」

「だから一緒に来てくれるんだろ?」


「そうね。とりあえずこの国は出ましょう。で、ランとは違ってフリーがいいわ」

「ああ。そうだな。下手に縛られるのはごめんだ」


「ええ。こんなひよっ子二人、フリーでやっていけるとは思えないけど……」

「とりあえずはランが残してくれた金がある」

「うん」


「行くか? あいつらが来る前に」

「……うん」


「……ラン。今までありがとう。お疲れ様……ゆっくり眠ってください……」

「ラン? 勝手に出て行くけど許してね。私たちが簡単に死なないよう応援してね」


 十六歳の時ランが死んだ。

 異生に殺された。


 魔法の使えない俺は庇ってくれるランがいなくなり、国の保護を受けられなくなった。

 優秀だったエレはそれでも一人立ちできる実力がなかったから、別の人の下で訓練を受けることになった。


 でも……二人とも本意ではなかった。

 俺はどうしてもハンターになりたかった。ランを殺されたことによってより一層その気持ちは強くなった。

 エレはランとは違う人の所で過ごす気はなかった。


 だから俺たちは国に背き、裏切り、二人だけで出て行く。

 其の行方がたとえ茨の道だったとしても関係ない。

 其の行方がたとえ死に繋がるとしても関係ない。


 俺たちは旅立つ。憎い異生を倒すために。自分たちと同じような人を生み出さないために。

 其の行方がたとえ間違っていたとしても関係ない。


 エレと一緒ならどこまでも進んで行ける。エレクトラと一緒なら……。

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