15.エピローグ
デュオは、高台に来ていた。昔の王が命を絶った場所だ。
そこには一人の女性がうずくまっていた。
デュオにはその女性の姿がしっかりと見えていたが、体が少し透けている。
「あんたがアルテル・デー?」怖がる様子もなくデュオは乱暴に聞く。
「……私が、見えるのですか? ……ああ、あなた。ヴィーのシルフォン……」話しかけられ女性はデュオの方を見る。
「…………」デュオは無言で女性を凝視している。
その碧い瞳には憎しみも憐れみも浮かんでいない。ただ愛と真実の女神を見つめている。
「私は、何か間違っていたのでしょうか? あの人は……死んでしまった。あの子は……」
「全部、ずっと見てたんだろ?」デュオは消えそうな声で話す女神の言葉を乱暴に塞ぐ。
憎しみはなかった。だが遣る瀬無い気持ちで一杯だった。
「……守りたかったのです。自分から全部捨てて、逃げ出してしまったのに、それでも守りたかった……。私の子供……」遠くを見つめ女神はうわ言の様に呟いた。
「こいつの力であんたの力の効力が消えて輪廻が崩れた。もう呪われた皇子は産まれて来ない。だから皇女に干渉するのもやめろ」神にこの様な言葉は正気とは思えなかったが、デュオは気にしなかった。
機嫌を損ねてしまうかも知れないなどと言う事は考えもしなかった。
神は人と違う、だが同じように苦しんでいるこの女神に言わなければいけない。
「あの人とはもう会えない……。あの子にも、もう二度と……」
「……死ぬってのはそう言う事だろ。あんたがいくら繰り返しても、あんたが好きなった男も子供も戻ってこないんだよ。……どんなに力があっても、死んだ人間は生き返らない……」
「そう……そうですね……。分かっていたはずなのに……」そう言って女神は涙を零した。愛した男が死んで、子供が死んで、初めて流した涙かもしれなかった。
女神の顔が苦痛で歪む。だがこれでやっと女神の中で止まっていた時間が動き出したのかも知れない。
「……ここはもう、あんたの居場所じゃないだろ?」
「……そう、ですね。私は父の、ヴェヴァ・リーの所へ戻ります。捌きを受けるでしょう。でも……あの人とあの子がいないのなら、それもかまいません……」女神は涙に濡れた顔を上げデュオを見つめた。その瞳は覚悟に満ちている。
「……俺は……生きる。例えまた一人だったとしても、生きていく。そしていつかは……」押し黙ったデュオを見つめながら女神は立ち上がった。
「私の口からシルフォンの事に触れることは許されません。でも……一つだけ。カリスト・ヴィーを探しなさい」
「カリスト・ヴィー!? 冥界の……」
「はい。冥界の王カリスト・ヴィー。彼が全てを知っています」
「そうか。ありがとう……」
「はい。……私は行きます。私の呪縛が取れればこの島にも緑が戻ると思います。そうなれば島の人々は強く生きて行けますよね?」
「……人間はいつだって強いさ。俺も……」
「……ありがとうございました。あなたが来てくれて……」
「やめてくれ。そんな言葉今の俺は聞きたくない」
「ごめんなさい……」
「……いいから、行ってくれ」
「……はい。あなた達の旅に加護がありますように……さようなら……」そう言って女神はデュオと剣を見て微笑んだ。
そしてフッと姿が消える。高台にはデュオだけが残された。
『……私は神に創られたのか……』
「……さぁな。でも、目的が出来た」
『私も、協力する』
「当たり前だろ! 自分のことだ。知りたいんだろ?」
『知りたい。この様な気持ち……不可解だ。だが、知りたい……』
「俺もさ。俺も知りたい。そして普通の人間に戻りたい……」
そう言ってデュオは高台から島を見つめた。
すると外壁が崩れている場所がある。
デュオが途中まで崩していた崖が、シルフォンの衝撃で完全に崩れたようだ。
連れて行きたかった少女はもう何処にもいないけど、女神の結界がなくなった今、島の人間は外へ出られる。
無駄じゃなかった。シェピアの為ひたすら頑張った事が報われる。
無駄じゃなかった。この島に来てあった事、した事、全て無駄じゃなかった。
デュオの瞳が光る。
無駄じゃなかった。出逢った事も、好きになった事も。無駄じゃなかったんだ。
デュオは涙を乱暴に拭うと駆け出した。晴れ渡る空を背に、煌く砂を踏み締め、デュオは開かれた島を後にした。
――完――
砂漠の皇女完結しました。ありがとうございました。
シリーズとしては続きます。
感想お待ちしています……が、優しくお願いします。打たれ弱いのでw
後日人物紹介裏設定(ネタバレ&補足)を載せます。