01.プロローグ
ここはある島である。この島の中で名前は特にない。
ある一時を境に、つながっていた陸地に別れをいい今の形となった。
その島は辺り一面緑だった。一体何処から何処までが一本の木なのかわからない程大きな木々が聳え立っている。
そんな緑が何万本、何十万本とわからないほど伸びて森を造っている。
様々な種類が立ち並び、性質の関係上一緒に育つはずのない木々まで我関せずと言ったようにそれぞれの長さに、太陽という生命の源を目指している。
そして、その緑の中に美しい町が存在していた。人々の唯一の集落場所で活気に溢れ、綺麗に整えられた美しい町が。
その町の中心部にある高台から周りを眺める一人の男がいた。
年齢は五十代後半。簡潔に布を巻いたような格好で肌の露出を防ぎ、また温冷とんだ効率的な服装をしている。
だが、装飾品はバラエティーにあふれていてありとあらゆる宝石を身に着けている。
一目で裕福な家のものだとわかる。そう、この男はこの島を統治していた。
この島を、この町を愛し、大切に思っていた。それが、いつから捩れてしまったのだろう。いつしか気持ちは傾いてゆき、崩壊へと進んでいった。
この世界には、島、大陸もしくは王家ごとに守護神がいる。それは俗に言う神様というもので、この世界ではリーヴァと呼ばれ、人々が実際に感じることが出来る存在である。
この島の守護神は真実の女神だった。正義を重んじ、正しきことを美しきことと信じる女神だった。
そしてその女神と実際に語ることの出来る男は女神の不況を買い、報いを受けることとなった。
この美しき島は一瞬の刻に死の島となってしまった。生き物が逃げていってしまうような死の島。
美しかった島を死の島に追いやったものは砂だった。島全てが砂しかなかった。
何処をどう探しても、何処をどう歩き回っても、何処をどう掘っても、砂しかなかった。
一体どうやったのか、そんな事を疑問に感じる思考さえ全ての者達は停止してしまった。
元々力の強かった太陽はより一層激しさを増し、砂はそれによって熱され気候は瞬く間に変化した。
多少の水はすぐに干からび、軽い砂は風が吹くたびコロコロと表情を変える。そんな砂に木々は根を張ることも出来ず、また、生きていくために必要不可欠な水の恵みもなく、町が衰退していくのは目に見えていた。
他のものにとっては状況を理解するすべもなく、ただ呆然と成り行きを見守るしか出来なかった。
美しい島、美しい町。全てを男は一瞬の刻に奪われてしまった。
男は嘆いた。嘆く以外のことが出来なかった。今まで築いて来た豊かな緑と、文化が一瞬の内に消滅してしまったのだから。
王ともあろうものが民全てを見捨てて逃げたこともあった。だが、何処へ行っても砂しかなく、男は孤独と虚無感にさいなまれ、狂っていく。
そして責任という言葉に耐え切れなくなった男は、死という安息の行為に逃げ込み、この世を去った。
命を絶った男の子孫らは自らを漂島民と名乗り、自然と真実を重んじ死の島を漂流していた。
始まりは5人の子供のうち4人が別々の集団に分かれ、島のいたる所を調査し、漂い、罪を償う方法を見つけるためだった。
だが、時の流れと共に目的は失われ、各々は漂う理由をなくし、拠点を置くようになっていた。
一人残った子供は、美しく繁栄した町の廃墟を拠点とし、漂うことはなく、それでも同じように時を重ねていった。
そうして数え切れない時を過ごしたこの島には、彼の子孫たちが強くしぶとく生き続けていた。