表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

釣り好きの令嬢、なんか隣国の王子様を(物理的に)釣り上げてしまったら求婚されました。そして釣り上げた魚がヤバかった件について

作者: naturalsoft
掲載日:2026/07/18

挿絵(By みてみん)


ごきげんよう。

私、シオン・フィッシングは現在、究極の選択を迫られているのです。


私はお爺ちゃんの趣味で、幼い頃から釣りに連れて行ってもらい、大の釣り好きになった少し変わった令嬢なのです。

(自分で言うなよ)


一応、家の位は侯爵家となかなかの上級貴族なのですよ。エッヘン!


いや、そんなところの令嬢が釣りなんかするなとは言わないでね。それを言ったらこの小説が終わっ・・・コホンッ。


私の趣味は家族も了承済みなのでいいのです。あ、ちなみに私の年齢は花も恥じらう16歳です。


そして今回は久しぶりに『海釣り』に出かけております。

最近は技術力の発展が目覚ましく、魔石を動力源として小型船でも、帆船ではなくエンジンで移動するモータボートが主流なのです。


それでもこの小型のクルーザーには側仕えのメイド・リサが1人乗っています。こんなのでも侯爵令嬢なので☆


「お嬢様、そろそろポイントに着きます」

「ええ、わかったわ」


(シオン)このメイドさん、ショートカットのクールビューティ的な美人系のメイドさんなのです。ポイント高いよ!


(メイド)そして、この残念系のお嬢様がこの小説の主人公で、長い髪をポニーテールにしたスポーツ万能の何でもそつなくこなす天才肌の御令嬢が私の御主人様なのです。


と、2人がナレーションをしていると魚の獲れるポイントにたどり着いた。


「さぁ、釣るわよ!」

「はい。それで今回も勝負を致しますか?」


シオンは親指を立てて言った。


「モチロンよ♪」


2人は右と左に分かれて釣竿を構えた。

我が家の釣竿はミスリル合金でできており、よく『しなる』が、滅多なことで折れません。糸も特注品なので早々には切れることもありません。(危なかったらハサミで切れるけどね!)


この小型クルーザには釣竿を固定する台もあり、手を離しても大丈夫になっている。

二人はほぼ同時に釣り糸を投げた。


「ふっふっふっ、今回はお手製のルアーを持ってきたんだから♪負けないわよ!」

「そう言って、最近は私の方が勝ち越していますよお嬢様」

「今日は勝つわよ!なんか、今日は調子が良さそうな気がするのよ」


軽口を叩きつつ、釣りに集中した。

釣り糸を海に垂らして集中する。

釣りをしている時は指先に集中して、目の前の潮の流れを見るので無言になるのだ。

30分・・・・一時間経った頃、シオンの釣竿にアタリがあった。


「よし!ヒットしたわ!!!」

「ちっ、先を越されましたか」


リサはシオンの方を見ずに自分の釣竿に集中した。

しかし、珍しくシオンの方は手こずっているようだ。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「うん、暴れていないんだけど、すごく重くて・・・」


確かに左右に移動して暴れている様子はなかった。


「海底の岩にでも引っ掛けましたか?」

「それも考えたんだけど、上がって来る手応えはあるのよ・・ねっと!」


シオンは少しずつリールを巻いて思いっきり引き上げた。

すると───


「・・・・人魚っていたの?」


首の襟に針が引っ掛かり吊り上げたのは土佐衛門(水死体)でした。足からパックリと大型の魚が喰らい付いている状態です。


「な、なななっ、何を言っているんですか!土佐衛門ですよ!なんてモノを釣り上げているんですか!?」


!?


「あわわわわわっっっっっ!!!!!どうしよう!どうすればいいの!?」

「こ、ここは落ち着いて、深呼吸をっ!」

「ヒッヒッフー!ヒッヒッフー!」

「なんか違いますよ!」

「だってわかんないんだもん!?」


二人はパニックになって言い合っていたが、涙目でどうしようとなった。


「ここはリリース(海に放流)してはどうでしょうか?」

「えっ、捨てていいの?呪われない?」



『リリース』か『釣り上げる』か、まさに究極の選択だ。



しかし、人命救助?(死んでるのに?)の観点から船に引き上げることになった。


「流石に土左衛門に喰らいついていた魚を食べる気にはならないわね」


足に喰らいついていた魚をポイっと海にリリースして、取りあえず港に戻ることにした。

港にはシオンの従者が待っているからだ。リサがクルーザーを運転して陸に戻ろうとした時、土左衛門が僅かに動いた。


「う、動いた!?まさか生きているの?」


シオンは恐る恐る胸を圧迫して蘇生を試みることにした。


「これはノーカン。これはノーカン」


お爺ちゃんに人工呼吸のやり方も学んでいたので、胸の圧迫と人工呼吸を繰り返すと、土左衛門はゴホッと海水を吐き出した。


「や、やったわ!息を吹き返した!?」


シオンは大きな声で呼びかけた。


「大丈夫!?私の声が聞こえる!?」


土佐衛門さんは僅かに目を開けて何かを呟くとまた気を失った。


「流石はお嬢様、聖女しか使えないリザレクションを使えるとは♪」

「いや、ただの蘇生術だからっ!」


こうして大急ぎで陸に戻ると従者に、カクカクシカジカと話して屋敷に連れ帰って、面倒を見ることになるのでした。


そしてバタバタした翌日。

──応接室にて──


「シオンよ、よくやった。海では助け合いが基本だ。海難救助に貴賎はない。よく助けたな」


お爺ちゃんに褒められました。


「私は少し不満ですわ。シオンちゃんがせっかく釣れた魚を逃してしまうなんて」


お母様は大の魚好きです。あ、食べる方のね。あの後聞いた話だと、土左衛門に喰いついていた魚は珍しい魚だったようで、食べたかったと叱られました。

死体に喰らいついていた魚を食べるんだ・・・(死んでないけど)


「メイドの話だと身体を温かくしていたところ、一晩で顔色もだいぶよくなったそうだ。すぐに目を覚ますだろう」

「それはよかったです」

「問題は身元だな。服装から貴族だとは思うのだが・・・まさかな」


お父さんとお爺ちゃんが可能性の話を首を振って打ち消した。

それから私は時間が空けば寝ている土左衛門さんのお世話を手伝った。私は釣り上げた魚には自分で餌を与えるタイプなのだ。


そして二日目でその人は目を覚ました。


「ここは・・・?」

「ここはフィッシング侯爵家の屋敷ですわ。貴方は城下町の港の海で沈んでいるのを私に釣り上げられたのです」

「釣り上げ?いや、助けて頂きありがとうございます」


お腹が鳴ったので温かいスープを持っていって飲ませた。


「本当にありがとうございます」

「それで、お名前は言えますか?」

「あ、私はアランと申します。ここがフィッシング領なんですよね? 私は海上国家オアシスの者なのです」


ふむふむ、アランさんね。

海上国家とは、うちの国が南にあるとすれば北にある大きな島国ね。北の大陸と南の大陸のちょうど中間にあって、船で1日の距離にあるわ。北と南の大陸の中継所として貿易で栄えている国よ。


「まだ身体が冷えて体力が低下しています。今はゆっくり休んでください」

「・・・本当にありが・・とう」


アランさんはすぐにまた眠りについた。

私はアランさんのことを家族に伝えた。


「海上国家のアラン殿か・・・なら、やはり・・」


お父さんはお爺ちゃんに視線を送った。


「面倒なことにならなければ良いがな」


二人は意味深に頷き、しばらく様子を見ることで納得した。そしてアランさんが回復して動けるようになった時、お父さんとお爺ちゃんを交えて長く話をした結果、急遽、国に帰ることになった。


「本当にありがとうございました。今の私では満足にお礼もできません。国に戻ったら必ずシオン令嬢にお礼を致しますのでしばらくお待ちいただけますか?」


「そんな気にしなくて良いのに。でも、断ったら失礼よね?無理のない範囲でお願いしますね」

「あははっ、大丈夫です。海の男はしぶといので」


海上国家という島国出身のため、日焼けして少し色黒なアランさんは美丈夫という出で立ちで、何度も御礼を言って、フィッシング侯爵家の保有する交易船に乗って国へと帰っていった。


それから3ヶ月の月日が流れた──


「よし!ヒットしたわ♪」


シオンはいつもの通り趣味の釣りをして家に帰ると家族が待っていた。


「帰ってきたか。アラン殿から手紙が来てな、御礼がしたいので海上国家まで遊びに来て欲しいと書いてあってな。丁度、商談の話もあったし、一緒に行かないか?」


「あ、いくいく!久しく行っていなかったし」


前に行ったのは一年前ぐらいかな?

海上国家オアシスはバカンスで人気で毎年行っているのです。

船で丸一日の距離で比較的近いこともあり、たまに遊びに行ったりもしています。


こうして久々の海上国家に遊びに行く事になりました。

お母さんはニコニコしていたけど、お父さん達は少し表情が硬かったけど気のせいでしょう。

そして──


「ついたどーーーーー!!!!!!」


陸に上がるとバンザイして大声で叫びました。

そう叫びたいお年頃なんです。


「お嬢様、はしたないです」

「良いのよ。久しぶりでテンションが上がっているんだから」

「そのハイテンションも3ターンしか続きませんけどね」


ホワイッ?

なんのこと???


「フィッシング侯爵家の皆様ですね。アラン様に言われてお迎えに参りました」


丁寧に挨拶した方は、海上国家ならではの馬車を用意して迎えにきてくれた。

なんと、馬の代わりに大きな亀に馬車を引かせるのよ!馬よりは遅いけど、人が歩くよりは早く、シオン達は目的地へと向かった。


「アランさんって、やっぱり貴族の方だったのかな?服装が上質なものだったし」

「・・・いや、貴族ではなくてな。まぁ、着けば分かるよ」


はて???


メイドのリサと似たようなことを言われて首を傾げながら目的地に到着すると───


「あれ?ここって・・・・」


島の1番高い場所にある建物に到着しました。

そして入口には、兵士が左右に整列しており、馬車から降りるとシャッキーン!と、剣を掲げて出迎えてくれました。


「フィッシング侯爵家のご家族の皆様がご到着なさいました!!!!!」


ぴぇっ!?

小心者の私は驚いて後ずさってしまいましたよ。


「やぁ、シオン令嬢!待っていたよ。驚かせてしまったようで申し訳ない。これは我が国での最上位の出迎え方なんだ」


アレンさんは金の刺繍がしてある赤いジャケットに黒いズボンを着こなしている王子様のような格好で出迎えてくれた。


「アレンさん、なんか王子様のような格好ですね。カッコいいですよ」


メイドのリサがシオンを残念そうな目で見て深いため息をついた。

おい!主人に対して失礼なメイドだな!


「あっはははは!シオン令嬢のご両親には秘密にしておいてもらったんだ。私は海上国家オアシスの第一王子にして王太子のアラン・オアシスです」


!?


「えっ!?えっ!?」


シオンは震える指先をアランに向けながら、壊れたブリキの玩具の様にお父さんとリサの方を向いた。


「ごめんね!」

「ドンマイ☆」


なんとも軽い家族であった。


『こいつら~~不敬罪で首チョンパになったら呪ってやるんだから!』


ワナワナと震えながら誓うシオンだった。

お城の中に案内されると、豪華な部屋に通された。


「おおっ!フィッシング侯爵家の皆様、いつも貿易の件でお世話になっております!」


そこにはアランのご両親で、国王様と王妃様がいらっしゃいました。


「……お初にお目に掛かります。フィッシング侯爵家の長女シオン・フィッシングがご挨拶申し上げます」


綺麗にカーテシーをして頭を上げた。

これでもシオンは侯爵令嬢。さらには自国の王妃教育も受けており、マナーは完璧なのだ。

(性格が残念なだけでね)


「これは綺麗な挨拶ですね。ただここは身内だけの集まりです。そう固くならずに楽にしてください。そして私の息子を助けて頂き本当にありがとうございました」


「ああ、本当にありがとう。王位を望む、血縁のある者が暗殺者を雇った様でな。船から突き落とされたのだ。しかし息子が戻ってきた事でボロを出してな。敵対者はすでに排除は完了しているから心配しないで欲しい」


王妃様と国王様が深く頭を下げてきたので慌てて取り繕いましたよ。


「いえ、本当に偶然だったのです!私の釣竿の針がアランさんに引っ掛かって釣り上げたと言いますか・・・」

「うふふふ、まさか釣竿で人を一本釣りしてしまうなど、海竜様のお導きに違いありませんわ♪」


海上国家ということもあり、海に住む『海竜』様を信仰しているのだ。


「それに、身分もわからぬ者だったのに、献身的に看病もしてくれた様で感謝に絶えません」

「わ、私は手の空いた時間に手伝っただけで、メインはメイドがしてくれたので、私は別に・・・」


ううぅ、もう勘弁して下さい!

いくらシオンが侯爵令嬢だとしても他国の王様と王妃様と気軽に会話などできなかった。

そこにアランがシオンの前に出て片膝を付いた。


「シオン・フィッシング侯爵令嬢、私は命を救って頂き、そして看病までしてくれた貴女に惚れました。母も言った様に、身分のわからぬ怪しい土左衛門だった私に親切にして頂いた貴女の心に惚れたのです。ぜひ私と結婚して頂けないでしょうか?」


!???


今日1番のドッキリきたーーーーー!!!!!!!!


シオンは真っ赤になりながら周りを見渡すと、メイドのリサやお母様が親指を立てていました。

コイツら知ってやがりましたね!!!!!

この裏切り者がーーーーーー!!!!!!!!!


すでに外堀を埋められている私には頷くしか道は残されていなかった。


「シオンよ。釣りと一緒だぞ?獲物を捕まえるには、獲物を追い込み、逃げられなくしてからトドメを刺すのじゃ」


いや、お爺ちゃんよ?

これはそんな話ではなくない?ねぇ、なくないかい?ねぇ?


「シオン令嬢、いや、シオン。まだお互いのことをよく知らないだろう?まずは婚約して私のことを知って欲しい。私は絶対に君を悲しませることはしないと誓う!」


「えっと・・・はい」


シオンは真っ赤になって頷くしかできないのでした。


「しかし、そちらの国の王子はバカなのだな。こんなに清らかな女性と婚約破棄するとは」

「やっぱり知っていたのですね」

「いや、気を悪くしないで欲しい。どうしても、うちの相手となると調べなければならなくてな。しかし、シオン嬢を私は貴女を義娘となることが大変嬉しく思う。性格もそうだが、何より『釣り好き』というのが我が国と合っている」


うん?

海上国家とはいえ、漁をする時は船などで網を使うよね?

釣り好きとはいったい・・・?


「うちの国では年に一度、『大釣り大会』が行われるんだよ。漁業のために網で大量の魚を取るけど、釣竿一本で大物を釣る醍醐味と、海の神【海竜】様に感謝を捧げる意味も込めてね。だからうちの結婚にも大物を釣り上げて相手に送る習慣もあるんだよ」

「なにそれ!楽しそう♪」


シオンは自国の王子と婚約していたが婚約破棄された経験があった。

王子が別の女性を好きになったとのことで、内々に多額の違約金をもらったが、シオンが病弱のため子供が作れないなどと、シオンに過失があったかのように喧伝され、シオンは領地に引きこもってしまったのだ。


・・・・まぁ、それは建前で、好きな趣味の釣り三昧を楽しんでいるのだが、今は深く聞かないでおこう。


「今夜、夜会が王宮で開かれる。そこでお披露目と行こうか」

「えっ、いきなりですか!?」

「早い方がいいだろう。また船で来てもらうのも悪いしな」


いきなり求婚されたばかりなんですが?

チラッと両親を見ると、また親指を立てられました。


おっふ・・・私に味方はいないのか(泣)

シオンはその時、何かを悟った様な感じがした。


しかし、アラン王子と夜会の時間まで話してみると釣りの話で盛り上がり、あっという間に好感度が上がったのでした。


『流石は残念系ヒロインです。チョロインとお呼びしましょうか?』


メイドのリサだけはやれやれと言った感じでしたが、口元が嬉しそうにしていたのは秘密です。


そして夜会の時間になりました。


「皆のもの!今日は重大な発表がある!我が息子アランの婚約者が決まったのだ!」


ザワザワ

ザワザワ


「知っての通り、息子は船から転落し、一時は行方不明となった。生存は絶望的かと思われたが、こちらにいる御令嬢。シオン・フィッシング侯爵令嬢が、海で釣りをしていたところ、我が息子を釣り上げたのだ!これぞ運命の出会いであり、海竜様のお導きに他ならない!それにフィッシング侯爵家といれば、昔から我が国と貿易相手として最大手であり、友好的な付き合いのある高位貴族だ。家柄も申し分ない。皆、祝福して欲しい」


いやー!

やめて!

一国の王子を釣り上げたなんて言わないで!!!!?


シオンはアラン王子にエスコートされて入場した。

顔は完璧な笑顔になっているが、内心は恥ずかしくって泣き叫んでいた。


「おめでとうございます。アラン様。祝福を致しますわ。ただ……他国の令嬢といえど『儀式』をして頂きませんと皆様が納得されませんわよ?」


口では祝福と言いながらマウントを取りにきている令嬢をみて尋ねた。


「儀式とはなんでしょうか?」


「あら?そんな事も知らないのですか?我が国では婚約相手に海で釣りをしてその日一番の獲物を相手に渡す習慣があるのですわ。そしてその日にまったく釣れなかった場合は相応しくないと言うことで、婚約を見直す事になるのです」


アランはソッとシオンの前に出て遮った。


「不敬だぞ!それに聞いていなかったのか?シオンは釣りを嗜むことができる令嬢だ。すでに私を釣り上げると言う実績があるだろう!」


ひっ!と令嬢は縮こまった。


「アラン様、待って下さい。儀式は儀式でしょう?早速、明日の朝からやってみましょう♪」


「えっ?」


まさかシオンの口から、やってみると言う言葉が出るとは思ってもみなく、驚きの声が上がった。

まぁ、シオンにすれば、釣りのできる口実になったので結果オーライである。


アランはシオンの釣の腕を聞いていたので笑いながら承諾した。

夜会での挨拶回りを終わらせて次の日になりました。快晴の釣り日和です!


「それでは、今から日没までの間に釣をして、一番の大物をアラン様に捧げてもらいます!」


「了解です!」


「場所は海上国家の島である西側が三日月の形をしており、魚が集まり易い場所になっている。沖合い1キロ圏内で釣りをしてもらいます!」


これは出すのが小型のクルーザーであり、余り遠いと波が大きく危険だからとのこと。つまり三日月の形をした内側でやれと言うことである。


シオンはメイドのリサに運転してもらい、幾つかのポイントを回った。

そして午前中だけで10匹以上の魚を釣り上げていた。


「うははははっ!まさに入れ喰い状態!笑いが止まりませんなぁ~」


すでに儀式はクリアーしている。

リサは目的を忘れて釣りに没頭している主人をみて深いため息を吐くのだった。


そして、そろそろ夕日で赤く染まる頃に『ソレ』は掛かった。


「むっ!リサ、大物が掛かったわ!」

「大丈夫ですか!?」


釣り竿をクルーザーにしっかり固定してシオンは緩急つけながら相手と勝負した。


ザザザッッッ!!!!


「お嬢様!これは危険です!クルーザーごと引っ張られています!このままでは横転する危険が!?」


「こんな大物初めてだわ!リサ、釣り竿を代わって!」

「どうするのですか!?」

「クルーザーを釣り竿の代わりにするのよ!」


「はぁぁぁ!?」


驚くリサと代わるとエンジンを入れてクルーザーを動かした。敵の方が力が強いなら、まずは弱らせるのよ!

ジグザグにクルーザーを動かして相手を翻弄する。力が強くなればエンジンを弱めて、クルーザーごと引っ張られる。そして相手が疲れて引く力が弱くなればエンジンを全開にして陸地に戻るように引っ張った。


シオンの様子がおかしいと、待っていた見届け人達は急いで船を出そうとした。真っ先に動いたのはアランだった。


「シオーン!大丈夫かー!!!」


大声で叫ぶアランにシオンは言った。


「アラン様!戻って下さい!今、超大物を釣っているんです!」

「はっ?何だって!?」


「かなりの大物っぽくてクルーザー自体を釣り竿代わりにして引っ張っているんです!危ないので皆さんに戻るようお伝え下さい!」


「わ、わかった。ただ少し離れた場所で待機しているから、危ないと思ったら糸を切るんだよ!」


「了解ですわ!」


アランは引き返すと他の者にも説明した。


「クルーザーごと引っ張られるとは、大マグロかイルカの様なものが迷い込んで来たのでしょうか?」

「本当に大丈夫ですか?サメなどなら危険ですが・・・」


周囲からは止めさせた方が良いのでは?と心配する声が上がるが、シオンはクルーザーを巧みに扱い、掛かった獲物を必死に釣ろうと頑張っていた。


1時間ほど格闘をしていると、シオンはかなり港に近い場所まで戻ってきていた。


「リサ!交代よ!私が釣り上げるわ!」

「はい!」


素早く交代するとシオンはリールを巻きながら釣り竿を思いっきり引き上げた。


「おっ!おっ!きたーーーーー!!!!!!!」


すると海面が盛り上がり、なんと大きな白い竜の頭が出てきたではないか!

激しい波に耐えながらシオンはその大きさに呆然としてしまった。


どっぼーーーーーん!!!!!!


「う、嘘だろ?」

「か、海竜様だ・・・」

「この近海の守護竜様を釣り上げた!?」


港は大騒ぎになった。

当然である。

シオンもこのまま襲われて死ぬだろうと覚悟した。


『まさかここまで暴れても切れぬ糸があるとは。ワシを釣り上げたそこの娘よ。襲わぬから針を抜いてくれ。痛くてかなわん』


喋ると言うより脳内に直接語り掛けてくるような言葉に、シオンはリサに視線を送るとゆっくりとクルーザーを海竜の傍に寄せた。海竜は一度海面に沈むと口を開いた。

シオンは食べられないように慎重に針を抜いた。


『ふぅ~まだ痛いがマシになったわい』


「か、海竜様、この度は申し訳ありませんでした!」


シオンはクルーザーの上で土下座した。

だって海竜様が釣れてるなんてわかんないもん!


ガタガタと震えながらシオンは泣きべそをかいて謝った。

そこにアランが船で近づいてきた。


「海竜さまーーー!!!!私はこの島の王子です!なにとぞ、我が愛する女性をお助けください!シオンを助けて頂けるなら私はどうなっても構いません!」


「なに言っているのよ!私が釣ったのだから私が責任を取るから!一国の王子と貴族令嬢では立場が違うでしょ!」


「そっちこそなにを言っているんだ!今回の儀式は我が国の習わしだ。他国のシオンには関係ないものだった!責任は私がとる!」


ぎゃー!ぎゃー!と二人はお互いにかばい合いながら言い争った。


『あー、もしもし、別に怒っておらぬので安心せよ。大海原では弱肉強食だ。このくらい問題ない』


二人の言い合いに海竜様が仲裁してくれた。


「なんと、寛大なご配慮ありがとうございます!」


アランは再度頭を下げた。


「それより海竜様はなんでこの入江にいたんですか?小さなルアーを咥えなくても、海には多くの魚がいるでしょうに?」


シオンはずうずうしくも尋ねた。

この子は相手が友好的だとわかるとふてぶてしくなるのだ。


『うん?かつての約束を守っているだけだ』

「約束とはなんでしょうか?教えて頂けますか?」


『昔、この島の者と約束したのだ。我が海の生物を食べ過ぎると困るというので年に一度、陸の食べ物をたくさん捧げるという話だった。しかしいつの日にかそれがなくなってな。それでも、陸の食べ物が忘れられなくて、たまに来るのだ』



!!!!???


シオンはバッとアランの方を見た。



「ま、まさか年に一度の大釣り大会のことか?長い年月が過ぎて、海竜様に陸の食べ物を捧げる行事が、感謝を捧げる祭りに変わった・・・?」


ブツブツと思考しているアランにシオンは言った。


「海竜様!申し訳ありません!すぐに陸の食べ物を捧げます!少しお待ちください!!!!」


シオンはクルーザーを港に戻した。


「皆さん!海竜様の声は聞こえていましたね!陸の食べ物・・・牛や豚の丸焼きを用意して!それと果物なども!急いで!!!!お金は後からフィッシング侯爵家が払うから!」


「「「はいっ!!!!!」」」


港は大騒ぎになった。

街の露店で焼かれていた牛や豚の丸焼きが大急ぎで運ばれた。


「少し多いわね。私とアランのクルーザー2つで運ぶから急いで乗せて!」

「了解しました!」


そして海竜様の前で海に投げ入れました。


「海竜様!これでいいかわかりませんがお納め下さい!」


海竜は投げ入れられた豚の丸焼き数頭分を丸呑みにした。


『おおっ!!!!これだ!幾星霜ぶりのこの美味な味だ!』


丸呑みにした海竜様はクネクネと歓喜に震えていた。

(なんか可愛いかも)


「牛の方はどうでしょうか。骨がありますのでご注意を」


流石に牛は一頭分しか用意できなかったが豚の2倍の大きさだ。

海竜様はまた丸呑みにしてゆっくりと口を動かした。


『うむ、こっちの骨の丈夫な生き物も美味である。時々、来ては探したものだ』


「海竜様、果物はいけますかね?」


シオンは取り敢えずリンゴやバナナなどまとめて投げ入れた。


『変わった色をしているな。海では見かけないものだ。どれ・・うむ!味わった事のない味だ。これも美味ぞ!』


海竜様は喜びの声を上げた。


「海竜様、我々人間はすぐに死んでしまう生き物です。かつての約束を忘れてしまい大変申し訳ありませんでした!もしよろしければ、新しい約束を結び直して頂けるでしょうか?」


『どうするのだ?』


「また毎年、この日この場所で陸の食べ物を捧げます!海竜様におかれまして、毎年ここに来て頂ければ幸いと存じ上げます」


『ほう?これからは毎年食べられるということか。よかろう。最近は手を抜いていたが、近海の魔物を駆除してやる。ただで食べ物を貰うわけにはいかぬのでな』


「あ、ありがとうございます!」


海竜様が近海の魔物を排除してくれていたから北の大陸と南の大陸が比較的安全に航海できてたんだね。

人々は改めて海竜様に感謝の祈りを捧げるのだった。


『そう言えば、そこの男からは昔、我が約束をした者と似た気配を感じる。我が『加護』が付いているようだな』


「加護ですか?」


『うむ、水中でも多少呼吸ができるようになり、泳ぎが上手くなるものだな』


!?


だから一日中、海の中にいたのに生きていたのね!

なら海竜様が加護を授けたのはアランの御先祖様って事になるわね。それは海竜信仰が国教になるわ。


『我を釣り上げた娘よ。名前を聞こうか?』

「はい、この度、この国の王子に嫁ぎますシオン・オアシスと申します」


『ふむ、この島の主人だったか。ならば我を釣り上げた褒美を授けよう』


海竜様は自分の身体を軽く噛みつくとシオンのクルーザーに咥えた物を置いた。


「これは?」


『我の鱗だ。人間はこういった物を加工して装飾品を作るのだろう?我の鱗は硬く軽く、魔法抵抗も強い。何かの役に立つだろう。それと我が加護も授ける』


海竜様の鱗は人の大きさもあり、それが5枚ほどあった。


『そう言えば、我が口に懸かった釣り針があっただろう?我が血を含んだ針を釣りに使えば、我が魔力の特性で、自動で水中を動いて近くの魚に引っ掛かるだろう。活用するがよい』


「あ、ありがとうございます」

(いやーそれはいらないかな?釣りの醍醐味が失われちゃう。まぁ、素人さんに渡して釣りの楽しさを知ってもらうには使えるかな?)


シオンは失礼な事を考えていた。

海竜はそういうと、また来年と言って海に帰って行った。


それからは海上国家オアシスは、島中で大騒ぎになった。

そしてかつて行われていたはずの行事を見直すことになった。お城にあった古い文献に海竜様に『生贄』を捧げる儀式があったと記載されていて、だんだん廃れていったのだが、それは間違いであった。


捧げるのは人間ではなく陸で育った動植物である。

シオンは海竜様を釣り上げ、再度契約を結び直した『神の釣り人』として長く歴史に名を刻むことになった。


今回のことで誰もシオンを認めないという者は皆無であった。それより、なんとかこの国の王妃となって欲しいという全国民からお願いされるほどであった。


「シオン!本当に君は我が国の、そして私の海の女神様だよ!」

「私も自分の身を顧みず助けようとしてくれたアランがいてくれて良かった!」


2人は海竜の目の前にお互いをかばい合う想いを、港にいた全ての人々に見られていた。


そして周りの目も気にせず口付けを交わすのだった。そして近年稀にみる盛大な結婚式を挙げるのだった。


「最初は戸惑ったけど貴方と結ばれて良かったわ♪」

「それは私もだ。シオン、愛しているよ」


そして、言わずともわかるように、毎年、海の守護竜である海竜様を見ようと大勢の人々がこの日に集まることになる。北の大陸から、南の大陸から王族も訪れるようになる。少し後の話になるが、海竜様を接待する『海竜の巫女』という役職を作り、シオンが初代を務めて、王女が生まれると海竜様に陸の食べ物を与える仕事をしたとか。


同じ日に『大釣り大会』も開催され、その年一番の大物を釣り上げた者には『神の釣竿』を一日使える権利が与えられたという。



ちなみに、別の女性を好きになってシオンをふった自国の王子は、『逃した魚が大き過ぎた』と、多くの貴族からそっぽを向かれ、弟に国王の座を奪われて、辺境の小さな領地に左遷されたそうです。




【END】




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

【あとがき】

最後までお読み頂きありがとうございます。


連載中の小説の息抜きに書かせて頂きました。

少し変わりダネでしたが、気付くと1万文字オーバーの大作になっていて、連載中の小説が書けなくなっていましたorz


まぁ、そろそろ完結しそうなので、次回作もお楽しみに!



投稿している小説が多いので、コミカライズ化作品、人気、ランキング上位の小説紹介。

【作品PR】


【コミカライズ化】

『婚約破棄されました。私の親友が!必ず阻止します!・・私が原因なのでorz』

挿絵(By みてみん)


ちなみに、イラストは自作です!ドヤッ♪

【代表作】

挿絵(By みてみん)




【なろうで日別1位作品】

挿絵(By みてみん)



【ランキング上位】

挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)




挿絵(By みてみん)





『【連載版】ヒロインは元皇后様!?~あら?生まれ変わりましたわ?~』



【短編で人気】

『復讐は合わせ鏡のように─『私』を殺してでも絶対に許しませんわ!』


『私は復讐の為に唄い続ける』


『聖女は寿命を削って王子を救ったのに、もう用なしと追い出されて幸せを掴む!』


『偉そうな幼女はオムレツが好き!妾はラブコメに飢えておる!はっ?何を言っているんだお前は?(真顔』


『がんばれ!レベルアップちゃん!神の声が擬人化したらこうなった件について──』




他にも色々と投稿しているので読んで頂けると嬉しいです。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ