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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
3/3

第1話 過激派の殺し方教えます Act.1 炎の剣 3



     3



その日の夕方にはいつもより早く弁当は売り切れた。

「遼斗さ、だから今日は焼肉でも食べに行こうよ」

母にそう云われて、遼斗は二人で、赤い看板・ひらがな三文字の、昔からなんかいいことがあった時に入る焼肉屋に赴いた。

母親は美味そうにに生ビールを飲んだが、遼斗がアルコールを口にしなかった。

悪いことをしたくないのではなく、無礼講的ななれ合いをしたくないからで、悪いことをしている友人相手の時にも喫煙したことはなかった。

ロースやハラミでも一皿千円はせず、これらの肉でメシを喰うことを遼斗は愛した。

「やっぱ肉よ!魚ばかりだと、やっぱ肉よ!となる!」

発言者はバーバリの黒のポロシャツを着た、特に特徴のない男、30代に見える。

「女将、追加注文をよろしいかな」

身長190はあろう、座高も高く(ここは照井母子も座敷席)、遼斗が見たところ、竹刀だろうか、長い得物を白い布で包んで、テーブルの下に隠している。

そしてホルモンやイカを頼んでいる。

「わたしは生酒をください」

この男は正座をしている。他の二人と違い、たたずまいが違う。そしてイントネーションが少し違う。

もう一人、この男たちの息子の年齢に当たるような、少年の面影が残る若い男が、皆が食べ終わった皿をかいがいしく片付けている。

「西谷くん、食べているかい?」

バーバリを着た男が尋ねる。

「はい、でも、残った三人に悪くて」

「そんなことない。持ち回りだよ。西谷くん」

「じゃあ、骨付きカルビ追加で、大丹波(おおだわ)さん!」

その時に、この4人のチームに緊張が走った。

竹刀と生酒が西谷くんという若い男を冷ややかに眺めている。

「そんなー、気にするんなよ、二人とも!」

だが大丹波と呼ばれた男、目は笑っていない。

「みなさん、だって、おれには西谷って」とその西谷は涙目で話す。

「西谷くんはもう直ぐ出ていくから、ありかなと思っているのさ」と大丹波。

―また、観光客4人。そしていちばんの若輩が、イジメられている構図、か。

そう、遼斗は、くみ子と付き合うきっかけとなった中華屋の一件を思い出していた。

母は、気づいたが、もうその時には、遼斗は畳の上を膝で歩き、隣のテーブル席へ。

「失礼します。おれは照井遼斗といいます。あっちの母と市役所へ行く道で弁当屋を営んでいます」

正座して、一礼し、遼斗はそう告げた。

「なんで、そんなかことを言うんだい。照井くんは」と大丹波。

「あなたは見ず知らずのひとに名前を知られたくない。女将さんはこの店のひとだから、何かそれで災いは起こったら、この店に来ればいい。でもおれら家族は違う。だから名と所在地を言った」

睨みにとてもニアな視線を大丹波に送った遼斗。

「ハハハハハハハハハハハハ!」と大丹波、右手で両目を隠して、哄笑。

「スパイごっこをしていたのさ!オッサンが!だから、ゲームみたいなもんだ!すまないね、照井くん!」

この大丹波の台詞を聴いて、母がほっとしたのに気づいた。

「オレは大丹波竜也、こっちの背が高いノッポは(ウー)、正座しているのは小林だ」

その時、呉も小林も、少し怪訝な表情を一瞬したのを遼斗は見逃さなかった。

「母上も、こっち来ます?」と大丹波。

「はい!そうします!」

―いつもより弁当の数を減らして作っていた。

遼斗は母からこの席で、何かしら問われることを予想していた。

だから母でなく、遼斗が即答した。

母が同じテーブルに座り、小林から日本酒を分けてもらう。

4人は瀬戸内海をよく旅する観光客で、リーダー格の大丹波は周防大島の出身だと言った。

言うタイミングを逃したのか、母は遼斗に何も聞かなかった。

帰り道、酔った母親は直ぐに帰宅し、遼斗は遅刻しそうだからとバイト先の控室に行くと云って別れた。

―違うな、母さんに言わないのは、もっと簡単なことだ。おれはあの母を捨てたがっていたんだ。

今夜ようやく遼斗はそのことに気がついた。


「焼肉!いいなぁ」

勿論バイト先の控室でなく、くみ子の部屋にやってきた遼斗。

さすがに母を捨てたがっているなどくみ子には云えなかった。

くみ子には弁当とLINEで頼まれ・コンビニで購入したウェットティッシュや化粧水を渡した。

受け取る前のくみ子はPCで何かしていた。

そういえば、PCで何かしていることが多い。

だから、何をしているか尋ねると、ネトゲの経験値稼ぎ・レベル上げのアルバイトだそうだ。

募集した運営会社がごっそり持っていくので、1日に3,000円くらいしか稼げないが、月に6万円はみっちりやれば稼げると言っている。

実は最近、もう一つ、仕事の口をくみ子は探し当てていた。

スマホのアプリ、〈瀬戸内海のおしごとみ~つけた!〉で今いる地名や年齢、身長や家族構成を入れると仕事の一覧が出るものだ。

―夜中の魚の解体工場とかなら、知っているひといないのではないか。

くみ子はそんなことを思い、検索した。

ここまでは遼斗に話したこと。

その時にやはり危惧があった。

―仕事中に破水としたら!

だから、備考のところに「現在妊娠9ヶ月になった」と入力した。

すると20分くらいしたら、電話が鳴った。

そう、くみ子は電話番号を入力していた。

女性の優しい声で、その年齢で妊娠していたと気づいて、電話したが、大丈夫ですかと尋ねられた。

くみ子は遼斗以外に優しくされたことがなかったから、これまでに状況を話し、カレシの他の土地へ逃げる計画があることを説明した。

その女性の優しい声は言った。

『私たちの会社の別部門では出版社やニュースサイトを運営している。あなたのような限界家族や未成年の妊娠を取材して本にする企画が進んでいる。社会や世間に警鐘を鳴らす仕事、是非取材させてもらいたい』

そしてその優しい声は『金一封、10万円差し上げる』とまで言った。

但し『右翼から、わざと貧しい日本を演出していると脅迫を受けているので、あなたに迷惑かかるから、誰にも言ってはいけない』とも云われた。

だから遼斗にも云わないことにしていた。

松山あたりまで出るかと思っていたら、こっちまで来てくれるらしい、追って連絡する、と。

あの母親は今年度いっぱいの学費と今年いっぱいの家賃を払って行った。

だがそれは期限が設定されたに過ぎない。

あの時、もう限界だった。

貯金を切り崩して、生きてきた。

だから、SNSやマッチングアプリを使って俗にいうパパ活とか援助交際を試してみた。

その時は松山で出会った。

だが3回とも途中で相手の男を撒いて逃げた。

帰りのJR予讃線で茫然自失状態だった。

だが腹は空く。

だから、よく母親と一緒に食べた、あの店のやきめしを食べに行った。

その時にクラスメートの照井遼斗に出会った。

―私は遼ちゃんを利用している。一緒に地獄への片道切符、人生のドロップアウトの道連れにしてしまっている。カラダを掛けの元金にしたのだからネット売春が成功していたのと変わらない。一人で風俗嬢にでもなればよかったのに、この罪悪感、かなりキツいな。

今からでも、役所に事情を話し、ててなしごを孕んだから施設を紹介してくれと駆け込めば、自分だけで済む。

―その方がいいに違いない。

だが、そうするともう二度と遼斗には会えない。

その時に心臓を鷲掴みにされる程にくみ子の胸は痛んだ。

―よかった。これくらいにはちゃんと遼ちゃん、好きだ。

そんな葛藤がくみ子の中であったから、10万円の取材の件は黙っておいて、ゲットしたら驚かそうと

思っていたのだ。

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