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瀬戸内マリンドラゴン  作者: 井田雷左
序部 マリンドラゴン現る
1/3

第1話 過激派の殺し方教えます Act.1 炎の剣 1

瀬戸内マリンドラゴンは、序部・本部・終部の三部構成で語られていく。

それぞれの部は3話によって構成される。

1話完結を目指すが、1部3話で、それぞれ作品世界ブロックを表す。

「シャーロック」等の海外ドラマのような編成のイメージ。

1話がだいたい90分ほどのTVドラマのスペシャル版くらいで、劇場版にする時に部立て150分で新編集する長さ。



     1



山々に囲まれ、大海が広がる、空はのしかかるようにうねり、雲がそのうねりに付き合う。

見つけた平地にへばりつくように建物が並び、空気は穏やかに人々を包む。

高台にある高等学校は、ひとかげはない。

今が八月だから、夏休み中だからだろう。

いや、違う。そもそも時刻は早朝、4時。

だから未だ、さすがに朝練の体育会系の生徒もいない。

夜ですらなく、早朝も早朝、一人の男の子が歩いていた。

照井遼斗、17歳、高校二年生。

現在、2025年。

自分の通っている高校に遼斗が訪れてみたかったのは、センチメンタルな心持ちになったからなのかもしれない。

―照井くんは、私のことはもう好きではなくて、くみ子のことが好きなんでしょう。

発言者は若菜、そしてそのくみ子の部屋からの帰り道に遼斗は高校校舎のあるこの坂道を登って来たのだ。

―もう、限界だ。母さんに話すしかない。

遼斗は何度もそう思ったが、その機会は何度もあったのに、言い出し辛く、いや、話したくもない。

遼斗の母・郁子は、町の中心部で弁当屋を開いている。

勿論借家での営業で、美味しさと郁子の人柄で、母子2人暮らしていけるだけの稼ぎは得ていた。

老夫婦が営んでいたその店にバイトで入ったのは未だ遼斗が園児の時だった。

他にも宅急便の仕分けに港湾事務所の事務所とバイトを掛け持ちしていたが老夫婦が揃って岡山にある施設に入居する折に、店を譲り受け、弁当屋一本に絞った。

遼斗が小学校四年の時のことだった。

遼斗は母の実家である秩父で育ったが、父親がいない子を産んだ娘に遼斗からすると祖父母にあたる夫婦は娘に辛く当たった。

だから、幼稚園に通わえる年齢に遼斗がなると、この愛媛県・八幡浜に母子2人、逃げるように越して来た。

―長い佐多半島が守って・隠してくれるような気がしたんだよ。

遼斗が何故、この土地を選んだかを母・郁子に問うた時の返事だった。

この佐多半島の防御壁論は後に遼斗は別の人物からも聴くことになる。

その人物こそ、この物語の主人公である。

ともかく、母がそのように生きてきたので、更に苦労をかけたくない、が言いたくない理由ではあった。

母は深夜三時に店に出勤し、米を炊き、おかずを作り始める。

7時から開店するので、外食店が少ないこの町では重宝されていた。

―自分の小遣いくらいは自分で稼ぎたいんだ。

そう云って遼斗は公共事業の湾岸工事でアルバイトを始めた。

未成年だから重機は扱えないが、力仕事がメイン・夜間作業が多いため、コンビニの店員よりは稼げる。

夏休みの間、稼いでおこうと思っていた。

今朝、5時からの作業、その前にくみ子の部屋に寄って、郁子の店の弁当の余りを彼女に渡した。

―いつも本当に美味しいよ、郁子さんのお弁当。遼ちゃんのお母さん、会ってみたい。

遼斗はそのくみ子の台詞に笑顔だけで返した、つまり肯定も否定もしていない。

5時からフルタイムで働き、14時に上がり、そのまま母の弁当屋の夜営業の下ごしらえに付き合い、18時にくみ子のための弁当を持って店を出て、睡眠を採り、0時頃に彼女の部屋に着く。

この生活ルーティンが7月から始まり、もうひと月経つ。

以前町内唯一のスーパーでアルバイトしてためた貯金と湾岸工事の給金、今月末には合計で40万円になるハズだ。

くみ子は学校では親しい友人が一人もいないが、成績もよく、女子としては高い170の背丈とクールな印象で、他の生徒から一目を置かれていた。

遼斗とは挨拶かわすくらいの仲だった。

一気に距離が縮まったのは、去年の夏のことだ。

町内に唯一の札幌ラーメンの店で、くみ子がやきめしを食べていると後から遼斗が入ってきて、彼もやきめしを頼んだ。

―そう、ここはやきめし一択よね。

後にくみ子が遼斗が語ったその店でのファーストインプレッション。

更にその後、観光客めいた三十路くらいの男4人が入ってきて、ツーブロックの剃り込みを入れた男が「瓶ビール3本」と女性店主に顔を見ずに告げた。

そしてそんざいな言い方で、総菜を次々の頼み、唯一眼鏡をかけているメンバーの女性関係の話となり、「いつヤるんだ」とか「ヤッちゃえばいいんだよ、女なんて」と卑猥な話を続け、眼鏡はヘラヘラと聴いているだけ。

店には昼どき、遼斗とくみ子、そして入園前の子どもを連れた家族がふた組。

―お父さんが注意して返り討ちにあったら、家族守れないから、じゃあ、おれかなって。

これは後にくみ子に話した遼斗の理由。

「そのひと、楽しんでないし、周囲も不愉快ですよ」

遼斗はいちばんうるさいツーブロックに諭すように話す。

「ぼうや、かっこいいね」

その瞬間、右手の甲で遼斗の左頬を打つ。

この際、遼斗はズボンのポケットに両手とも収めていた。

今度は、ツーブロックが拳を握って、正拳突き直前でその拳を止める。

遼斗の両手は以前、ズボンのポケット内。

連中の一人が、お冷のコップの水をかけだす。

ツーブロックが遼斗の腹に蹴りを入れる。

倒れても、遼斗は両手を出さない。

「おい、もうやめよう、ヤバいよ」

ツーブロックと水かけと眼鏡、残った一人が、財布から1万円を取り出し、テーブルに置く。

遼斗を今だ睨むツーブロックだが、他の三人に引きずられるように店を出た。

女店主と家族連れの両親たちは遼斗を絶賛したが、彼はこのようなノリに偽善を感じた。

「照井くんはクラスメートだから私が送ります」

くみ子はそう云った。

「母親に見られたら心配する」と遼斗が云ったので、くみ子は自分の部屋に誘った。

「照井くんのうちって?」

「そう、母子家庭。父親の顔も知らないんだ」

「あ、うちもそう」

賃貸の1K、女性だけの住まいに遼斗は初めて入った。

内出血した箇所に絆創膏を貼ってもらい、倒れた時にひねった足に湿布をあてがってもらった。

「親御さん、帰ってきたら、説明厄介だから、帰るわ」

遼斗がそう云うと、くみ子はみるみる泣き始めた。

「お母さん、年はじめに出てった。男のひとが理由だと思う。親戚も知らないし、どうしよう」

この時には遼斗は、クラスメートの若菜といい関係だった。

友達以上恋人未満の両想い。

男たちから暴行されたケガは思ったより痛かったので、この時に遼斗とくみ子はそういう関係にはなっていない。

だが、天涯孤独になったけど、クールを装う同い年の似た境遇の女の子に遼斗は強烈に惹かれた。

―強い男だと思った。それは体力・腕力だけでなく、精神的に強いってね。

くみ子が後に語る遼斗の好きなところ。

おそらくくみ子としては、庇護してもらえる人物が欲しかったし、そして自分が庇護しないといけない存在が欲しかったに違いない。

だから、4月に妊娠が発覚しても堕胎を拒んだ。

腹が目立ってきたので、居留守を使って、夏休みまで逃げ切った。

来月に臨月を迎えるくみ子を連れて別の土地で出産させる。

―その後、どうするんだ?

遼斗は、その後の未来の過酷さを思って吐き気すら催した。

―母に助けと求めるべきだろうが、悲しむだろう。

誰もいない、自動車も走らない港への国道を歩きながら、もう何遍も自答したことを繰り返す。

〈それ〉を最初に認識したのは、音からだった。

『リラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラ!』

―港からだ!

遼斗は港へ駆け出す。

工事現場の左の岸壁でなく、右側にある港から何か吹き出している。

距離、遼斗のいる道路から、400メートル!

―あ、あれは炎だ!

『リラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラ!』

炎の剣が大気を切り裂く度に上がるのがこの音だ。

『リラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラリラ!』

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