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巨大ロボットになって巨大ロボットと戦うって聞いてたのに、美少女アンドロイドになって巨大ロボットと戦っているのはなんでだろう?

作者: 如月 和
掲載日:2026/01/30

 人々はまだ月ですら生活の場にできていないのに。スペースコロニーの建設すらもされていないのに。ぼくたちの街では、巨大ロボットが猛威を振るっている。それは、技術革新があったからでもない。人々の叡智が結集されたわけでもない。それは、外から持ち込まれたものだった。


 ぼくは身体の能力が戦闘用のものへと切り替わっている間に、自分の身に振り注いだ不思議な出来事を思い起こしていた。あの日、そう、あの日だった。ぼくは学校へ行く途中、背後から宇宙船に衝突されたのだ。


 その宇宙船は、ハンマーヘッドシャークのような形をしていたのを、うっすら憶えている。シュモクザメでもいい。ぼくとしてはハンマーヘッドシャークのほうが格好良くて好きなのだけど、シュモクザメと聞いたほうが頭に思い浮かべやすい人もいるだろう。しかし、ぼくはシュモクザメと聞いてもピンとこない。シュモクってなに? ハンマーヘッドの方が分かりやすいではないか。ハンマーのヘッドだ。これほど分かりやすいものはない。


 宇宙人がやたらとシュモクザメと連呼していたから、ぼくは薄れゆく意識のなかで、そんなふうに思っていた。


 もう一つ、憶えていたことがある。それは、彼らが巨大ロボットの話をしていたことだ。まぁ、巨大ロボットというのはぼくの主観の話であって、本来はもっと難しい言い方をしていた。そんな彼らが、僕に分かりやすいように、と、巨大ロボットと表現してくれたのだ。


「ヘイ、ユー! 巨大ロボットになって、悪の巨大ロボットと戦ってクレヨン!」


 という台詞も、ぼくの主観である。本来はこのような台詞は吐いていなかったのだが、その後の展開を鑑みると、そうとでも言っていないと腹が立つくらいだから。


 そうして、ぼくは宇宙船に運ばれた。そうして、改造しゅじゅちゅ――、もとい、改造手術を受けた。この言い間違いは、けして本気ではないことを予め明記しておきたい。何故なら……。


 こういうあざとさがあったほうが、今の見た目からして様になると思ったから。


 身体の調整も終わり、ぼくは自宅を出て走る。玄関から母さんがおやつは食べないのー? と叫んでいるが、既に事態は逼迫しているから返事をしている余裕はない。


 すれ違った人が叫んでいる。


「金が三万! ひゃっはー! 金が三万だーっ!」


 ぼくは舌打ちをした。この背景を簡潔に説明できるように努力しよう。要は、僕を助けた――、もとい轢き殺した宇宙人は、悪の宇宙人が捕獲を目論むような希少な生物だったのだ。そして、その捕獲を求めて悪の宇宙人が地球にやってきてしまったのだ。


 その宇宙人の名は、マスゴミス。


 マスゴミスはテレビ電波やネットワークに忍び込み、興味のそそられるような出来事や文言などを介して市井の人々に植え付けて洗脳し、言動を操ってしまうのだ。そうして、ぼくを轢き殺したサメ畜生――、もとい、キューティー生物デフォルメサメたん。通称おサメさんを誘き出そうとしているのだ。


 なんだろう、頭が痛くなってきた。そもそも、そのマスゴミスに対抗するための駒として、ぼくは巨大ロボットに改造され、マスゴミスが繰り出す巨大ロボットを駆逐する役目を負わされるはずだった。


 なのに――、なのにっ!


「何故ぼくは美少女アンドロイドになっているのか!」

「だって、可愛くしてみたくなったんだもん」


 頭に直接響いてくる通信が、余計にぼくの頭痛を加速させた。まぁ、つまり、そういうわけでぼくは美少女アンドロイドとして、巨大ロボットと戦うわけとなったのだ。それをすんなり理解した母さんと父さんが恐ろしく思えたのだけど。


 ※


 マスゴミスは、既におサメさんの居所を大まかにだけど掴んでいるようで、巨大ロボットを送り出すのは、決まって僕の住む街、静岡県にある雪の滅多に降らない温暖で住心地の良い街――、夢鯉手市(むりでし)に限られている。


 夢の中で見た鯉を必死で手で掴もうとする話で有名な武将が築いたこの平和な街では、とてつもなく大事件なのでである。が、元来のんびり屋が多いこの街では、巨大ロボットの出現はヌートリアが出没したくらいのリアクションで迎え入れられていた。


 アスファルトを抉りながら閑静な住宅街を抜け、商業施設が多く建ち並ぶ国道へ出る。


「俺の店を壊してくれっ! ロボットに壊されたら保証が出るんだ!」


 こういう性格の人が割と多い。


「はい、下がってー。危ないからねぇ」

根茶(ねちゃ)さん!」


 交通規制や整理をしていた警察官に声をかける。制服ではなくスーツ姿をしており、なかなか偉そうな雰囲気を出している人物であるが、階級はけして教えてくれない根茶瓶太(ねちゃびんた)刑事だ。


「おぉ、ルゥちゃん。来てくれたか」

流羽(るう)です。上がります。下がりません」

「いい心掛けだ。ヒーローは下がっちゃいかんからな」

「いや、名前の話です」


 なんだかカレーの素みたいで嫌なのだ。毒を吐くと辛口なの? って言われるし、褒めると甘口だぁ、なんて言われるし。この人みたいに、いっそ振り切った名前が良かった。


 そんな与太話を繰り広げていると、ぼくの横にホログラム映像が現れる。ぬいぐるみのように丸っこくデフォルメされたサメ。彼がおサメさんだ。


「ルゥちゃん。君には昨晩、寝ている間に幾つかの新武装を搭載しておいたよ」

「……ついに、ようやく、殴る蹴る以外の戦闘方法を手に入れたのか!」


 巨大ロボットとの肉弾戦は、シュールに思えて少し恥ずかしかったのだ。ジャンプして頭を蹴る。足を蹴って転ばせようものなら、金に目がくらんだどこぞの店主が歓喜の声を上げて、国からあんまり派手にやるなと怒られるから。


 そんな姿をマスコミが取材していたりするもんだから、ぼくは恥ずかしくなって、あり余るパワーを見せつけるかのように、某都会にある大きな電波塔に向かって小石を投げるのである。電波塔は着実に、日々その高さを更新している。


「その名も、おっぱいメガトンミサイル!」


 根茶が僕の胸元をじっと見つめる。学校から帰宅したばかりであったため、セーラー服だ。


「柔らかそうなのに」

「警察がセクハラすんなよ」


 この武装は封印しよう。


「もう一つは、……ロケットパンツ!」

「パンチではなくっ!?」


 パンツがロケットでどんな意味があるというのか。


「ドロップキックをした後に起動することで、パイルバンカーの如くパンツが突き刺さる。つま先は死ぬ」

「それは自傷行為だろっ!?」


 この武装は使い所がなさそうだ。


「ふはははっ! なんだなんだ。楽しそうではないか!」


 そんな与太話を繰り広げていたら、問題の巨大ロボットはすぐ目の前までに迫っていた。スピーカーが何処かに仕込まれているのだろう。その声はとても煩い。その癖、人型のその右脚はホバークラフトのように道路を走っており、足音はしない。左脚は街並みを粉砕しているため、なかなか悲惨な状況に陥っている。


「違う! そうじゃない! 右側なんだ、俺の店は右側なんだよぅ。ローンがチャラにできると思ったのに……」


 こっちも悲惨だ。


「マスゴミス。今度はどんなロボットを創り上げた!」


 根茶が雰囲気を出そうと奮闘している。


「フッフッフッ。見て分かるだろう? この黄金に輝くボディを。これを人が目にすれば、金に目が眩んで意識が散漫になってしまうのだ! どうだ。いかにヒーローのルゥだとしても、この力の前には抗えまい!」

「いや、まったく効いてない」

「あれぇ?」


 金に興味はないからかなぁ。おサメさんが大量の慰謝料をくれたのだし、金銭の類には困ってないし。


「ふっ。たがその男はどうかな! 無残に意識が散漫になった男に気を取られ、我に打ち砕かれるがいい!」

「いや、俺も効いてない」

「あれぇ?」


 意外にも、この人は正義を重んじる人だから、金には興味を持たないのだろう。


「残念だったな。俺の意識を散漫にしたいのなら、ボン・キュッ・ボン! の貝殻ビキニ美女を連れてくるんだな!」

「くっ、その様な絶滅危惧種を指定するとはっ」


 ぼくは今、男の正義を見た。


「ふっ、宇宙人にこのセンスは解るまい」

「くっ、なかなかやるな。だが、だが! 我はこの星にやってきたことにより、ある種の真理を得たのだ。それは、……それは! ルゥたん萌え! おサメさんのことなんて微塵も考えなくなるほど、君のことを愛している! とてつもなく推している! 君を鳥籠の中へ入れたい!」


 こいつはサメを鳥籠へ入れるつもりだったのだろうか。水槽に入れてやれよ。


「そんな君を誘き寄せるために、力を見せつけて屈服させるために、我はロボットを創るのだ!」

「お前について行ったら、どんな生活が送れるんだ?」

「毎日サウナを五十セット」


 拷問だよそれは。アンドロイドだから関係ないかもしれないけれど。


「他には?」

「牛の丸焼きのクリーム煮茶漬け」


 なんか気持ち悪い。牛の丸焼きのクリーム煮をお茶漬けにしたのか、お茶のクリーム煮をご飯にかけたお茶漬け風なのか。まぁ、どちらにせよ一切食べる気は湧かないな。あと、牛の丸焼きはサイズが巨大ロボット用過ぎる。


「可愛い下着も用意する」


 シンプルに気持ち悪い。


「あいつはそうやって、推しを増やしては同担を死に追いやっていく鬼畜なんだ。僕らの仲間もいっぱいやられてしまった。もう、推しを推すことすら出来ないんだ!」

「あ、死ってそういう死ね」

「だから、僕が作り上げた推しをあいつも推そうとしているんだ」


 押し付けがましくて嫌になる。


「あぁ、思いの丈は、充分に叫んだ。もう、後は実力を示すだけだ。くらえ、必殺の踏みつけをっ!」

「頼むルゥさん! 右側に移動してくれ! 俺の店を!」

「右でいいの?」


 必死な彼の頼み通りに、ぼくは右側に飛ぶ。そして、踏みつけを躱した。


「……逆だったーっ!? ロボットの右側は俺たちから見たら左だったーっ!?」


 頭を抱えて右往左往する人は、放っておいて戦闘に集中しよう。その場から大きく跳び上がり、ぼくは巨大ロボットの頭部を捉えた。


「また頭を蹴り飛ばす気だな! 甘い、甘すぎる! 既に頭部は弱点ではない!」

「だったらっ!」


 蹴り飛ばすのが駄目なら、押し潰すのみっ!


「必殺の、かかと落としっ!」

「いやーん、真っ二つ!」


 斧で竹を割るように、巨大ロボットを頭頂部から割いていく。無情にも、二つに割れた巨体は、左側。僕から見て右側へと倒れていった。右側に暮らす人々は、国経由で送られるおサメさんからの見舞金で裕福となるだろう。無念、左側の人たち。次の戦闘に期待してほしい。壊れた街も、おサメさんパワーで数日後には元通りだから。


 ※


 こんなふうに、ぼくは悪の宇宙人であるマスゴミスと戦う日々を送っている。そうして、テレビ番組を見ている度にこう思うのだ。


「へぇ、伊勢海老がだんだん、北の方でも獲れるようになってきてるんだ」


 明日には、伊勢海老のように真っ赤なロボットが街を襲うのだろうか。それを心待ちにしている街の人々。なんとも不思議な街に生まれ、なんとも不思議な存在になってしまったものだと、そうしみじみ思いながら床につく。


 そうして、またおかしな武装が追加される。


「今度の武装は、サラバブラスター! 飛んでいったブラジャーが星になる」


 ほんと、意味分かんない。

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