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第2話「ポーション大根と観光パニック」

【実家の裏山ダンジョン:登場人物紹介】


■佐藤ケンジ(42)

役職:代表取締役(農場主)

元ブラック企業の社畜SE。実家の裏山ダンジョンを「全自動農場」に改造して隠居中。

世界中でバズっている配信のスパチャを「システムのエラーログ」だと勘違いして全ミュートしている。最近の悩みは「野菜ができすぎて在庫処分に困ること」。


■タロサ

役職:警備部長 兼 重機

元中ボス。ケンジに改造され、背中に「安全第一」とペイントされたゴーレム。

農作業からSランクドラゴンの「害獣駆除」までこなす、弊社の物理的支柱。ホワイトな待遇(整備と魔素給)に深い恩義を感じている。


■コアちゃん

役職:広報 兼 システム管理者

ダンジョンコアの妖精。ケンジの作った野菜やコーヒー牛乳(の砂糖)に餌付けされ、従業員となった。

唯一「コメント欄」が見えており、ネットの反応を楽しんでいる。最近はレジ打ちも覚えた。


■ユミ

役職:業務提携パートナー(村長)

過疎化が進む「神羅村」の村長で、ケンジの幼馴染。

過労で死にかけていたが、ケンジの「ポーション・トマトジュース」で蘇生。村の消滅を防ぐため、ダンジョン野菜の販売(道の駅)を提案する。


■ブラック上司(元部長)

役職:敵対勢力クレーマー

かつてケンジを過労死寸前まで追い込んだ元凶。

ダンジョンの莫大な利益を嗅ぎつけ、「技術の所有権」を主張して乗り込んでくる。


挿絵(By みてみん)


 『道の駅・アンダーグラウンド』のオープン初日。


 私は、朝もぎたての大根を段ボールに詰めながら、少しだけ憂鬱な気分だった。


「なあユミ。本当に客なんて来るのか?」


 私が尋ねると、特設テントの中でレジの準備をしていたユミが、顔面蒼白で首を振った。


「わ、わからない……。村の広報誌には載せたけど、この村、住民が百人くらいしかいないし……」

「だよな。マーケティング(市場調査)が甘すぎる」


 私は溜め息をついた。

 所詮は、村内での余剰在庫の譲渡会みたいなものだ。

 今日中にこの大根100本が捌けなければ、タロサの燃料バイオエタノールにするしかない。

 時刻は午前9時。

 閑古鳥が鳴く中、最初の客がやってきた。

 近所に住むトメさん(82歳)だ。腰が90度に曲がり、手押し車がないと歩けない村の最長老クラスである。


「おや、ケンちゃん。お店始めたのかい?」

「ああ、トメさん。大根どうだ? 一本50円でいいぞ」

「安いねぇ。じゃあ一本もらおうかね」


 トメさんは震える手で小銭を出し、その場で大根の葉をちぎって、ポリポリと齧った。

 新鮮な野菜は甘い。お茶請け代わりだろう。


「んん、瑞々しくて美味いねぇ……ん?」


 トメさんの動きが止まった。

 次の瞬間。


 バキボキッ!!


 凄まじい骨の音が鳴り響いた。

 私とユミがギョッとして見守る中、トメさんの曲がっていた背骨が、油を差したジャッキのようにグググッと垂直に伸びていくではないか。


「あ、あれ? 腰が……痛くない?」

「お? よかったなトメさん。やっぱり新鮮な野菜はカルシウムの吸収率が違うな」


 私が感心していると、トメさんは手押し車を放り投げ、その場で屈伸運動を始めた。

 そして――


「ひゃっほおおおい! 体が軽いよぉぉぉ!」


 ダッッッ!!


 トメさんは目にも止まらぬ猛ダッシュで、村の坂道を駆け上がっていった。

 その速度、推定時速30キロ。ウサイン・ボルトも裸足で逃げ出すレベルだ。


「……え?」


 ユミが口をポカンと開けている。

 私は腕組みをして頷いた。


「うむ。やはり有機栽培は健康にいい。顧客満足度(CS)は高そうだ」

「ケンちゃん! あれ健康とかそういうレベルじゃないよ!? 若返ってるよ!?」


 ◇


 この光景は、もちろんダンジョンの定点カメラ(ライブ配信)によって世界中に放映されていた。

【Dチューブ:test_stream_001】

視聴者数:82,000人


:ファッ!?

:ババアが音速で走っていったぞwww

:クララが立ったレベルじゃねえwww

:あの大根、鑑定スキル持ちが見たら「万能薬エリクサー」判定出てたぞ

:一本50円!? 市場価格5000万円だろそれ!

:場所特定した! 神羅村だ!

:今から行く! 親の介護用にどうしても欲しい!

:俺はハゲを治すために行く!

:転売ヤーがアップを始めました


 ネットの拡散力は恐ろしい。

 トメさんの爆走からわずか一時間後。

 静寂に包まれていたはずの神羅村に、地鳴りのような音が響き始めた。


 ズズズズズ……。


「なんだ? またモンスターか?」


 私が顔を上げると、村へと続く一本道が、車で埋め尽くされていた。

 軽トラ、高級セダン、スポーツカー、観光バス。

 ナンバープレートは品川、なにわ、果ては海外の外交官ナンバーまである。


「な、な、なにごとおおおおお!?」


 ユミが悲鳴を上げた。

 車から降りてきた人々が、血走った目で直売所に殺到する。


「大根くれえええええ!」

「言い値で買うぞ! 100万だ! 100万でどうだ!」

「スライムゼリーはあるか! 妻の機嫌を直すにはあれが必要なんだ!」

「トマト! トマトを打ってくれ、徹夜明けなんだ!」


 あっという間に直売所の前はカオスと化した。

 レジの前に立つユミは、あまりの剣幕に腰を抜かしている。


「け、ケンちゃん! 無理! 私ひとりじゃ無理だよぉ!」

「……チッ。想定外のトラフィックだな」


 私は舌打ちをした。

 どうやら私の野菜は、思っていた以上に「味が良い」らしい。

 しかし、客を待たせるのはサービスの低下に繋がる。

 私は即座に増員スケーリングを決定した。


「総員配置につけ! タロサ、お前は駐車場整理だ! 物理的に整列させろ!」

『御意。安全第一』


 タロサが出動する。

 狭い村の道で立ち往生しているベンツを、タロサはひょいと持ち上げると、テトリスのように隙間なく並べていく。

 

「ひいいい! ロボットが車運んでる!」

「すげえ! 傷ひとつ付けてないぞ!」


 客たちがどよめくが、お構いなしだ。


「コアちゃん! お前はレジだ! タブレットの計算機能を使え!」

「えー! 私、ダンジョンコアなんだけど!? なんでレジ打ち!?」

「バイト代として、売上の1%を砂糖(高級品)に変えて支給する」

「やる! 任せて主様!」


 現金な妖精だ。

 コアちゃんは空を飛びながら、客の列を整理し始めた。


「はいはい、並んでー! 割り込みしたらダンジョンの落とし穴に落とすからねー!」

「妖精!? 本物の妖精がいるぞ!」

「かわいい!」

「写真撮っていいですか!」


 コアちゃんは愛想を振りまきながら、超高速でPOSレジアプリを操作していく。

 私は裏の倉庫ダンジョンと直売所を往復し、スライムたちが収穫した野菜を次々と補充する。

 生産スライム、物流(私)、販売コアちゃん警備タロサ

 完璧なサプライチェーン・マネジメントだ。


 ◇


 夕方。

 用意していた野菜2000株は、完売した。

 村の道には、満足げに野菜を抱えた人々と、奇跡を目撃して興奮する観光客で溢れかえっている。


「……信じられない」


 ユミが、手元の売上表を見て震えていた。


「今日の売上……3、3000万円……?」

「ん? そんなもんか」


 私は首を傾げた。

 適正価格(一本50円~100円)で売ったはずだが、どうやら客たちが勝手に「お釣りはいらねぇ!」と万札を置いていったり、「奉納金」として置いていったりしたらしい。


「これなら、村の赤字なんて一週間で解消できるよ……! ケンちゃん、ありがとう……!」


「礼には及ばん。在庫が捌けてスッキリした」

 私は空になったコンテナを見て満足した。

 これでまた、明日から新しい野菜を作れる。

 だが、私は知らなかった。

 この騒動が、単なる「村おこし」では済まないレベルまで波及していることを。


 ◇


 東京都内、某高層ビルの一室。

 

 夜景を見下ろす男が一人、ニュース映像を凝視していた。

 画面には、神羅村の直売所で行列を作る人々と、宙を舞う妖精、そして車を持ち上げる「安全第一」のゴーレムが映し出されている。

 男の名は、黒井くろい

 かつて私が勤めていたシステム開発会社の部長であり、私に月300時間の残業を強要し、退職金も払わずに追い出した張本人だ。


「……見覚えがあるな、あのロボットの挙動制御アルゴリズム


 黒井は眼鏡の位置を直し、獰猛な笑みを浮かべた。


「佐藤ケンジ……。在職中に失踪したと思ったら、こんな田舎で莫大な利益を出しているとはな」


 彼はデスクの電話を手に取った。


「法務部だ。明日、神羅村へ行く。……ああ、あのダンジョン農場の技術は、全て我が社の『業務時間内』に考案されたものだ。つまり、知的財産権は我々にある」


 黒井は、画面の中の私を指差して呟いた。


「搾り取ってやるぞ、佐藤。お前の技術も、利益も、そのダンジョンも……全て会社の『資産』だ」


(つづく)


【次回予告】第2章第3話「ブラック上司の襲来と権利主張」


村おこしは大成功!

しかし、その噂を聞きつけた**「最悪の客」**が、黒塗りのハイヤーで村に乗り込んでくる。


「久しぶりだな、佐藤くん。元気そうで何よりだ」


現れたのは、かつてケンジを壊れるまで使い潰した元上司・黒井部長。

彼は分厚い契約書を突きつけ、非常識な理屈を並べ立てる。


「そのゴーレムのAI、在職中に作ったものだね? なら所有権は会社にある。即刻引き渡しなさい」

「あと、過去の損害賠償として売上の9割を要求する」


呆れるケンジ。震える村長ユミ。

だが、その暴言を聞いた瞬間、ダンジョンの空気(温度)が氷点下まで下がる。


『……我が主(CEO)ニ、ナニヲ言ッテイル?』


普段は温厚なタロサの目が、赤く危険な光を放つ!

さらに、事務処理担当のゴースト社員が、六法全書を片手に実体化して……?


「労働基準法第〇条違反。ならびに強要罪の適用案件ですね」


次回、第3話「ブラック上司の襲来と権利主張」


――弊社、福利厚生(用心棒)が手厚いので。


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