第1話「幼馴染の村長と過疎対策」
【第1部 ダイジェスト】これまでの『実家の裏山ダンジョン』
ブラック企業での過労の日々に別れを告げ、実家の裏山にあるダンジョンで隠居生活を始めた元システムエンジニア・佐藤ケンジ(42)。
彼はチートスキル『最適化』を駆使し、凶暴なスライムを耕運機に、Sランクのドラゴンを「高級肥料」に変え、ダンジョンを**「全自動ホワイト農場」**へと改造することに成功する。
しかし、防犯用に設置した水晶が、まさかの**「全世界へのライブ配信」状態になっていることには気づいていない。
ネット上が「伝説の配信者現る!」「人類最強の農家」と熱狂し、億単位の投げ銭が飛び交う中、ケンジはそれらを全て「システムのエラーログ」**として処理し、今日も優雅にコーヒー牛乳を飲んでいるのだった。
――そして物語は、過疎の村を巻き込んだ「第2部」へと突入する。
プロジェクト『隠居ライフ』が安定稼働に入って数週間。
私の朝は、かつてのデスマーチが嘘のように優雅なものになっていた。
「ん、今日のコーヒー牛乳も美味い」
私はダンジョンの入り口、通称『管理ルーム』で、風呂上がりの一杯を楽しんでいた。
目の前には、広大なトマト畑が広がっている。
その上空を、キラキラと光る小さな羽虫……ではなく、このダンジョンのコアである妖精(通称:コアちゃん)が飛び回っている。
「あー! 主様、また勝手に私の魔素飲んでるー!」
「これはコーヒー牛乳だ。魔素じゃない」
「でもその中に入ってる砂糖、ダンジョン産のサトウキビから作ったやつでしょ! すごい魔力感じるもん!」
コアちゃんは私の肩に着地すると、私の持っている瓶を物欲しげに見つめてきた。
彼女は『広報担当』として雇用(?)して以来、すっかりこの生活に馴染んでいる。
手には常に私の古いタブレットを持ち、何やらニヤニヤしながら画面をスワイプしているのが日課だ。
どうやら、画面に流れるシステムログ(※コメント欄)を監視しているらしい。
彼女曰く「信者たちの祈りの言葉」らしいが、私にはただの文字列にしか見えない。
【Dチューブ:test_stream_001】
視聴者数:58,000人
:おはよー
:朝から優雅なおっさん
:今日も肌ツヤ良すぎて草
:妖精ちゃんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
:コアちゃん、そのタブレットで何見てるのw
:俺たちのスパチャが妖精のおやつ代になってる件
:平和だなぁ……ここがSランクダンジョンだなんて信じられん
:背景のトマト、夜中に発光してたけど大丈夫な品種か?
「さて、今日のタスクだが……」
私がスケジュールを確認しようとした時だった。
――ピンポーン。
入り口に設置した、呼び鈴(物理的な鐘)が鳴った。
アラートではない。正規の手順を踏んだ来客だ。
モニターを確認すると、そこにはジャージ姿の女性が一人、疲労困憊といった様子で立っていた。
「……ユミか?」
私は眉をひそめた。
彼女はここ、神羅村の村長であり、私の幼馴染でもある。
かつては活発な少女だったが、今は見る影もなくやつれている。
目の下には濃いクマ。髪はボサボサ。
まるで、納期三日前のプログラマーのような顔だ。
「開けるぞ、タロサ」
私がロックを解除すると、ユミはふらふらと入ってきて、私の目の前の椅子に倒れ込んだ。
「ケンちゃん……お水……」
「水よりこっちがいいだろう」
私は冷蔵庫から、試作品の『トマトジュース(魔力濃縮還元)』を取り出して渡した。
ユミはそれを一気に飲み干す。
キュッ、プハァッ!
「……!!」
次の瞬間、彼女の目からクマが消え、肌に赤みが戻り、背筋がシャキッと伸びた。
まるで、バッテリー切れのスマホを急速充電器に繋いだかのようだ。
「な、なにこれ!? すっごい元気出た! 徹夜続きの偏頭痛も消えた!」
「自家製のトマトジュースだ。滋養強壮にいい」
正確には『ポーション・トマト』の絞り汁だ。
HPとMPを全回復させ、さらに状態異常『疲労』を解除する効果がある。
市販の栄養ドリンク100本分の効果と言えば分かりやすいか。
「それで、村長様が何の用だ? また回覧板か?」
「ううん……違うの」
ユミは真剣な表情になり、改めて私に向き直った。
「ケンちゃん、助けて。このままだと、神羅村が……消滅しちゃうの」
「消滅?」
私はコーヒー牛乳を置いた。
話を聞くと、こういうことらしい。
この村は元々過疎化が進んでいたが、最近になって若者の流出が加速。
税収は激減し、このままでは隣町に吸収合併されることが決定してしまったという。
「合併されるとね、この裏山も開発区域に入っちゃうの。大手ゼネコンが入ってきて、リゾート開発するとか言ってて……」
「……なんだと?」
私は目を細めた。
リゾート開発。
それはつまり、私の静寂が脅かされるということだ。
重機が入り、作業員が入り、私の愛するダンジョン農場が「公有地」として接収されるリスクがある。
それは困る。非常に困る。
ここは私の「聖域(サーバー室)」だ。部外者のアクセス権限など認められない。
「つまり、村が存続できるだけの『黒字』を出せば、合併は回避できるんだな?」
「う、うん。でも、特産品もないし、観光客なんて来ないし……」
ユミが弱々しく首を振る。
私は腕を組み、エンジニアとしての思考を回転させた。
問題定義:村の財政破綻による、私の住環境の悪化。
解決策:村のV字回復による、自治権の維持。
リソース:目の前にある「大量の在庫」。
「……ユミ。お前、特産品がないと言ったな」
「え? うん」
「ここにあるじゃないか」
私は背後の畑を指差した。
そこには、朝露を浴びて輝くトマト、大根、キャベツが山のように積み上げられている。
成長速度が早すぎて、私とタロサの消費量だけでは到底処理しきれず、余剰在庫になりかけていた野菜たちだ。
「これを売る」
「えっ、ケンちゃんの家の野菜?」
「ただの野菜じゃない。完全有機農法、高栄養価、さらに疲労回復効果付きだ」
私は立ち上がった。
どうせ捨てるつもりだった在庫だ。
これを村の復興に役立てれば、在庫処分もできて、私の平穏も守れる。
まさにWin-Win。
「場所は、このダンジョンの入り口前。私の私有地を使う」
「ええっ!? でも、お店なんて……」
「タロサ、出番だ。工期は3時間。突貫工事でいくぞ」
『御意。安全第一』
待機していたタロサが、「ガション!」と立ち上がった。
その巨体に、ユミが「ひいっ!」と悲鳴を上げる。
「な、ななな、何そのロボット!?」
「ああ、新型の農機具だ。気にするな」
「農機具!? どう見ても殺戮兵器……いや、重機!?」
【Dチューブ:test_stream_001】
:ファッ!?
:村長(幼馴染)、登場www
:やつれすぎワロタ……って、ジュース飲んだ瞬間覚醒して草
:あのジュース、絶対ヤバい成分入ってるだろwww
:ポーションですねわかります
:おっさん、ついに野菜を売る気か!?
:「特産品がない」「あるじゃないか」の流れ、かっこよすぎw
:在庫処分(救世主)
:待って、場所どこ? 入り口前?
:特定班、急げ! 伝説の野菜が買えるぞ!
:タロサを農機具と言い張る度胸
:これ、日本の農業革命起きるぞ……
工事は順調に進んだ。
タロサのパイルバンカーと怪力があれば、整地など造作もない。
ダンジョンから切り出した木材と石材を組み合わせ、あっという間に立派な『直売所』の骨組みが出来上がった。
私は看板に墨で文字を書き入れ、入り口に掲げた。
『ダンジョン産直 道の駅・アンダーグラウンド』
「よし。開店だ」
私は満足げに頷いた。
隣では、ユミが完成した建物を呆然と見上げている。
「ケンちゃん……あなた、本当に何者なの……?」
「ただの元SEだ」
「SEって、土木工事もできるの……?」
「仕様書さえあればな」
こうして、過疎の村の命運を賭けた、私の「在庫処分セール」が幕を開けた。
まさかこの直売所が、後に「現代の不老不死伝説」の発信地となり、国中から客が押し寄せるパンデミック(大混雑)を引き起こすとは、この時の私はまだ計算に入れていなかった。
(つづく)
【次回予告】第2話「ポーション大根と観光パニック」
ついにオープンした『道の駅・アンダーグラウンド』!
ケンジにとっては「余った野菜の処分」だったが、並べられた商品は常軌を逸していた。
「この大根、食べた瞬間に古傷が治ったぞ!?」
「お婆ちゃんの腰が曲がってたのに、全力疾走してる!」
噂はネットを通じて瞬く間に拡散!
過疎の村に、高級外車や観光バスが押し寄せる異常事態に発展する。
そんな中、ケンジは冷静に「在庫管理システム」の構築に没頭していた。
「あ、コアちゃん。レジ打ち頼むわ」
「えー! 私、妖精なんだけど!?」
妖精がレジを打ち、ゴーレムが駐車整理をする、世界一カオスな道の駅。
しかし、その繁盛を面白く思わない「黒い影」が、都心のオフィスビルで動き出そうとしていた……。
次回、第2話「ポーション大根と観光パニック」
――その大根、医者いらずにつき。




