秘められた力③
「一体なにっ?」
次の瞬間、素早く小箱を杖に変化させたセヴィアが、アイルを守るようにその体の前に立つ。
「ロロリアが弟子を取ったという噂は、本当だったようだな」
壊れた壁の隙間から ぬらりとした音とともに現れたのは、ヘドロ色をした魔物だった。
背丈はアイルやセヴィアの倍ほど。何かが溶けかけたような気味の悪い形態をしている。
「何なの、あんた」
杖を構えたセヴィアの声が強張る。
「あの大魔導士ロロリアも耄碌したもんだな。自ら弱点を作り出すとは」
くぐもった声に、水色の瞳は怒りに染まった。
「私はロロリア様の弱点なんかじゃない!」
「そう思っているのはお前だけだ。ロロリアには到底勝てない魔物でも、今のお前らなら赤子の手を捻るようなもの」
「ふざけるなっ」
そんなセヴィアと魔物の応酬を眺めていたアイルは、ハッと顔を上げて背後を振り返った。
「だから、お前ら雑魚がロロリアから離れる隙を狙ってたんだよ」
ほぼ同時に見つめた方向の壁は吹き飛び、弾かれたように振り向いたセヴィアの顔に「しまった」という後悔が浮かぶ。
壁の向こう側から、人型をした魔物が5体ほど小屋へと侵入して来た。
「こんな大勢で……」
セヴィアが歯噛みして呟いたように、前後を敵に囲まれてはどこにも逃げ場がない。どうにもならない挟み撃ちの状況となってしまったのだ。
こうなってしまえば、全ての攻撃を防ぎきる方法はない。
自分を犠牲に、せめてアイルだけは守ろうとセヴィアが体を晒し出すが、その下をかいくぐるように既にアイルは床へと身を屈めていた。
その先にあるのは、爆風で数歩先に飛ばされてきた剣。
セヴィアが安物と言った、彼の持ち物である古びた鞘へと必死で手を伸ばした。
「アイル!」
「この小娘以下のガキが、何の悪あがきだ」
セヴィアと魔物の声が重なる先で、床へ一回転しながらアイルは剣を掴み取る。
「バカが。この女より弱いお前などに……」
だが、魔物の罵声を遮るように、つぎの瞬間 小屋の中は眩い光に包まれていた。