エピローグ②
最後は小さくなってしまった声に、三人は互いの顔を見合わせた。
これが、普段のアイルからすれば信じられないほどの勇気を振り絞った行動であることを彼等は知っている。
「……あー、あの旅銀の件な、なんか勘違いだったみたいなんだ」
そして、少しの沈黙が流れた後に独り言のように呟いたのはヴァイスだった。
「え?」
「後から荷物の隙間から出てきてな。お前を疑って悪かったな」
目を逸らしながらだが告げられた言葉に、アイルの顔には生気が戻ってくる。
「じゃあ、俺の疑いは晴れたってこと?」
「まあ、そうなるな」
そんな会話を聞き、アベッサとネルが小さく目配せをする。ヴァイスがわざわざ そのセリフを口にしたということは。
「そういえば、今日の昼飯作り過ぎちゃったんだよね」
下手な演技ながら、アベッサが続く。
「え?」
「捨てるのもなんだし、食べたければ食べてもいいけど」
それを笑いを噛み殺しながら見ていたネルも腕を組みながら口を開いた。
「それにさ、やっぱり荷物持ちがいないと不便なんだよねえ。今更新しい子を雇うのも面倒だし」
三人の顔を見回すアイルの瞳に水滴が溜まってゆく。
「それって」
「まあ。また仲間にしてやってもいいってこと」
ぶっきらぼうな言葉の途中で、アイルは彼等の体へと飛びついていた。
「ちょっ、危ないでしょ」
「なに泣いてんのよ」
号泣するアイルと、嬉しさを隠しきれない3人。
そんなパーティー一行の様子を、少し離れた場所でロロリアは微笑みながら見つめていた。
「アイルの脱退申請は、まだ処理してないわよね?」
かろうじて残った窓口のカウンター寄りかかる職員にそう尋ねれば
「ええ、さっき貴女達が消し飛ばしてくれましたので」
顔と体に黒い煤をつけたボロボロの彼は皮肉そうに笑って答えた。
「……ロロリア様は、こうなることが分かっていたからアイルを正式な仲間にしなかったんですか?」
背後から近づいたセヴィアに問われ、大魔導士は頷く。
「アイルが持っていた武器は、安物だけど使い込まれて丁寧に手入れがされたものだった。男は、大切にしていた武器をどうでもいい人間には譲らないものよ」
「それだけで?」
「あと、ランクからすれば、決して裕福なパーティーではないはず。でもアイルの肌つやは良いし、服も成長にあわせて何度も手直しした跡があった。恐らく大切に育てられた子供なのだと感じたわ」