ギルドの噂話①
「ほらよ、修正してきてやったぞ」
ヴァイス一行が再びギルドを訪れたのは、例のやりとから数日後のことだった。
「ああ、随分とかかりましたね」
前回と同じように三人の姿を認めた男性職員が事務所から窓口へと出てきて、提出された書類を受け取る。
「うんうん、まあ大丈夫でしょう」
彼の簡単なチェックにより、ようやくヴァイス達は手続きの煩雑から解放されたようであった。
「手間かけさせやがって」
アベッサがわざとらしい ため息をつきながら近場の椅子に腰かける。
「とは言いましても、皆さんはどうせ予定もないでしょう」
書類にギルド印を押しながら職員が言う。
「ほんと失礼な奴ね」
「まあ、別に何かある訳じゃねえが」
ネルとヴァイスが言った通り、これといった依頼もなく、この地をウロウロとしている彼等のパーティーにすべきことはない。
「今まではアイルがいたから、あんまり居場所を転々とはしなかったけど」
「久しぶりに、また世界を旅するのもいいかもね」
そんなアベッサとネルの会話を作業をしながら聞いていた職員だったが、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえば、イースクリッドには出場しなかったんですか?」
そう問われれば、ヴァイス達にもすぐに意味は分かった。
「もう武術大会の時期だったか」
ここからそれほど離れていない地域で年に一度開催される大会は、世界的にも有名な大きなイベントであった。
「あの大会、5回以上は出場できない規則があるのよ」
「ああ」
アベッサの答えに、職員は納得した。
かつてはヴァイス達も人の目に留まるようにと勇んで大会に出たこともあったが、特にこれといった成果もないまま出場制限を迎えてしまったのだ。
「何か面白い話題でもあったの?」
ネルに逆に尋ねられ、少しだけ身を乗り出した職員が声を潜めた。
「実は、大会に大魔導士ロロリアの弟子が出場してたらしいんですよ」
「ええっ!」
その瞬間、周囲の人間が全て振り返るような大声をアベッサが上げていた。
「ちょっと、これは公な情報じゃないんですからっ」
そう慌てて咎められても、興奮した顔は職員へと詰め寄る。
「本当に、あのロロリアがイースクリッドに来てるのっ? いま行けば会えるってこと!?」
そう尋ねる姿は、普段の不愛想な彼女とはまるで別人のようであった。
「お前、本当にロロリアのファンだな」
ヴァイスが呆れたように言う通り、その目はまるで少女のようにキラキラと輝いている。