とある追放②
「大体さ、あんた一体いつまでここにいるつもりなの?」
仲間の顔を見回し泣き出しそうなアイルに、脚を組んで座ったアベッサが冷たく言い放った。
「え?」
「5年前、確かに私達はあんたを助けてやった。けど、それは行き場のない可哀想なガキを気まぐれで拾っただけ。もう自分の食い扶持くらい自分で稼げるでしょ?」
続けられる言葉に、アイルの顔色は青褪めてゆく。
「それって」
「そろそろ、うちのパーティーから出て行ってくれないかな。ってこと」
かったるそうに言い放ったネルの決定的な一言は、少年を絶望に突き落とすには十分であった。
「そんな。だって、俺」
「そもそも、私達はあんたをパーティーの一員としてなんて認めてなかったから」
アイルの声を阻み、ネルが小さく怒鳴る。
「ここに置いてやってたのも、惨めなあんたへの同情。それをいつの間にか仲間面して居座っちゃって」
「何か勘違いしてんじゃない?」
腕を組むアベッサにも睨みつけられ、アイルの瞳にはいつしか涙が溢れていた。
「……お、俺、皆がそう思ってたなんて気づかなくて。ほんと図々しくて、ごめんなさい」
「だったら、さっさと」
「でも!」
アベッサの言葉を遮った声が部屋中に響く。
「でも、それなら。仲間じゃなくていい。荷物持ちとか召使いでもいい。俺を、このパーティーに置いてくださいっ」
勢いよく下げられた頭に、ヴァイス、ネル、アベッサの三人は顔を見合わせた。
「はあ? なんで、このパーティーにこだわんだよ」
アベッサの蔑んだような問いに、ゆっくりアイルは顔を上げる。
「だって、俺を拾ってここまで育ててくれたのは皆だから。この5年、俺なりにパーティーの役にたてるように努力してきたつもりだった。これからは、もっと頑張ります。だから……」
「ああ、うざってぇなあ!」
一生懸命に紡がれる言葉を、ヴァイスの乱暴な声が切り捨てる。
「お前の気持ちなんて知らねぇよっ。そもそも、問題はお前がパーティーの金を盗んだことだろ。そんな奴とは、もう旅なんて続けていけねえんだよ」
「だから、それは」
「黙れっ!」
一喝され体を震わすアイルの前に歩み寄ったヴァイスは、その顔を覗き込む。
「ここまで言っても分からねえのかなあ?」
自分より相当高い身長から凄まれても、アイルは両手を握りしめ耐えていた。
「それなら、仕方ねえ」
ため息をついたヴァイスが、右手の人差し指を体の前へと勢いよく差し出す。
「アイル、お前をこのパーティーから追放する!」
こうして、一人の少年がとあるパーティーから追放されたのだった。