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未完の大器


 「おい、どうなってるんだ」

「あんな冒険者知ってたか?」


その日、伝統あるイースクリッド地方の武道大会はとある話題で持ち切りとなっていた。


「初出場で、決勝まで勝ち上がるなんて」

「しかも、まだ子供じゃねえか」


衆目しゅうもくを集めているのは、今まさに闘技場の中央で剣を構えるアイルであった。


 「注目されるとは思ってたけど、ここまでなんて」


観客席に座るセヴィアは、なか感嘆かんたん、半ば呆れという表情で噂話の尽きない周囲を見回す。

彼女自身は、準々決勝で優勝候補と当たり、惜しくも敗退していた。


「正直、私もビックリしてるわ」


その隣で、頬に手を当てたロロリアが同じようにため息をついている。

更にその横では、サーラとソーラが屋台で買った食べ物を手にアイルを応援していた。


「あの年にしちゃ、まあまあ やるじゃねえか」

「もしかして、将来 大魔導士とかなっちまったりしてな」

「さすがにそれは言い過ぎだろ」


今もそんな会話をしながら観客の男達が後ろを通り過ぎて行った。


「セヴィアは、アイルのことをどう思う?」


ふいにロロリアに尋ねられ、ちょっと口をとがらせたセヴィアだったが


「強い……、というか逸材だと思います。少なくとも あの人達が言ってたみたいな、その辺にいる天才少年程度のレベルではないかと」


思っていることをそう素直に答えた。


「あら、それは分かるのね」

「そりゃそうですよ。ロロリア様には失礼だけど、もしかしたら本当に大魔導士にもなれるかも」


少し悔しそうにそう呟く弟子の顔をロロリアはじっと見つめる。


「けれど、それだけじゃ不正解ね」

「え?」


顔を上げたセヴィアが見たのは、困ったようでどこか楽し気な目をした師匠の姿。


「彼は、これからもっともっと強くなる」

「はい。まだ冒険者の修行を始めて半年と言っていたので、これから更に」

「そうじゃなくてね」


いつもは はっきり物事を言うロロリアが選ぶ言葉に迷い、やがて


「アイルの場合は、修行を始めた時期とか、経験値とか、そういうのは正直あまり関係ないと思うの」


さとすようにセヴィルへと話し始めた。


「大魔導士は、所詮しょせん 才能と努力でなれるもの。でも、世の中にはそんなものはすっ飛ばして、天から選ばれた者だけがける職業がある」

「それって」


その時セヴィルの頭には、自分が数日前に無意識に呟いてしまった言葉が浮かび上がった。


「そう。彼は、間違いなく勇者のうつわよ」

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