ギルドの日常④
「アイル君がこちらのパーティーに加入したのは、5年前ですね?」
「こんな底辺パーティーでも、所属してれば食い扶持だけは何とかなるからな」
そこでヴァイスは初めて笑う。
「本当は私達、5年前にパーティーを解散するつもりだったんだ。けど、あいつのせいですっかり時機を逃しちまったよ」
そうアベッサも自虐気味に肩をすくめた。
「つまり、貴方達は身寄りのない少年の家族代わりになり、彼も貴方達を信頼している。それなら何故、今になって追い出すような真似を?」
話の核心に近づいた問いに、ヴァイスは諦めたように小さく息を吐く。
「あんたな、さっきアイルのことを “なかなか将来有望” なんて言ったけど、それは大きな間違いだ」
「え?」
「あいつは “なかなか”なんてタマじゃねえ。将来、魔王を討つ可能性のある器だ」
はっきりと言い切られた言葉に、今度は職員の男が困惑の表情を浮かべる番だった。
「……魔王を? いや、さすがにそれは無理が」
「別に私達だって、アイルを贔屓して言ってる訳じゃない」
それに応えるアベッサの声にも確固たるものがある。
「これでも長年冒険者やってるんだ。才能のある奴とそうじゃない奴の見分けくらいはつくさ」
「アイル君は、その才能がある者だと?」
問いかけに、3人は神妙な面持ちでこくりと頷き
「そんな軽いもんじゃないわ」
「俺達だって、勇者や大魔導士と呼ばれる連中と会ったことだってある。確かに皆すげえ奴等だったよ」
「けど、アイルの天質はその比じゃない」
そう語るアベッサ、ヴァイス、ネルのいづれも冗談や妄想を言っているようには見えず、知らず職員は唾を飲み込んでいた。
「あいつは、元々剣も握ったことのないひ弱なガキで、争いも好まない性格だった。だから冒険者登録はしても、戦いとは無縁に過ごさせてた。けど半年前、俺のお古の剣をくれてやった時に気まぐれで剣技を教えたら」
「その、才を示したと?」
「これでも俺は師範クラスの免許は持っている。それが、たった数か月前に初めて剣を持った子供にあっさりと負けたよ」
「剣だけじゃない。試しに魔法も教えてみたら、魔術師の私が3年かけて習得した呪文を数日でマスターしてしまった」
次々に語られる事実は、とても信じがたいものであった。
「皆さんは、パーティーのランクは高くないですが、冒険者としては平均以上の実力を持った方々です。それをたった半年で凌駕してしまうというのは……」