ギルドの日常③
それまで調子よく喋り続けていた職員の声は、突然のヴァイスの怒声によってかき消された。
「は?」
「ヴァイスっ」
それに驚いたのは職員だけでなくネルとアベッサも同様のようで、二人の仲間に咎められ、ヴァイスはハッとしたように口を噤む。
「いや、何でもねえ」
そう繕ってみたが、長年ギルドの窓口に立ち続けている職員の目は鋭かった。
「アイル君の脱退理由は、仲間同士の性格の不一致とありますが。……本当にそうですか?」
ジロリと問われ、三人の間には気まずい空気が流れる。
「そうだって言ってるだろ」
ヴァイスが答えるが、明らかに先ほどまでの強気は失われていた。
「脱退の理由に虚偽がある場合は、手続きを行えません」
「だから……」
「申請は、ギルドの職員が妥当と判断しないと受け付けられないのですよ」
厳しい口調で言い渡され、三人は目を見合わせていたが
「アイルは、私達が色々理由をつけて出て行かせたの」
ネルが最初に観念したように白状した。
「つまり、嘘をでっち上げて追放したということですか?」
「パーティー内で仲間を追い出すなんて、よくある話だろ」
職員の追求に、ヴァイスが低い声で言い返す。
「それは確かにそうです。そして、ギルドの職員はその人間関係まで立ち入る権利はない」
「だったら」
「しかし、それでは先程の貴方の言葉と整合性が取れませんね」
と指摘されたのは、ヴァイスの言った『そんなこと、俺達が一番よく分かってんだよっ!』というセリフのことだ。
「だから、それは……」
「こちらも暇ではありませんので、速やかに正式な説明をお願いします」
そう言われてしまい、しばらく考え込んだヴァイスはやがて深いため息を漏らした。
「あいつは、9歳の時に家族全員を流行り病で亡くしたんだ」
そして、ぽつりぽつりとそんなことを喋り出した。
「あいつ、というのはアイル君のことですね?」
唐突に始まった昔話に怪訝な顔をしながらも、職員は耳を傾ける。
「ああ。村にたった一人残されたアイルを見つけたのは、本当に偶然だった。捨てられた犬猫に餌でもやるような、ただの同情の気持ちからだった」
「最初は、首都の孤児院に連れて行くだけのつもりだったの」
ヴァイスの後を継いだのはアベッサ。
「けど、あいつ馬鹿みたいに私達に懐いてきてさ。一ヶ月一緒に旅をして孤児院に着く頃には、なんか離れられなくなってた」
そうネルが懐かしそうに言ったところで、職員はそれまでメモを取っていたペンを置いた。