秘められた力④
目の前で溢れ出す閃光を、セヴィアはその場に座り込んだまま呆然と眺めた。
「な、なんだ、このガキはっ」
魔物達が慌てふためく視線の先にいるのは、鞘から刀身を抜き放ったアイル。
安物のはずの剣は、まるで伝説の勇者の剣のように白い輝きを世界へと放っていた。
「こんな奴のことは聞いてないぞ」
その魔法力のオーラに、ヘドロの魔物が戸惑いながら右手を掲げる。
「さっさと潰してしまえ!」
その命と共に、五体の魔物が一斉にアイルへと襲いかかった。
「アイルっ」
セヴィアの叫びと魔物の一体の胴が真っ二つに切断されたのは、ほぼ同時だった。
「……え」
見開かれる水色の瞳の前で、体を翻したアイルは高速で仕掛けられる攻撃を剣の刃と束で器用に弾く。
その剣技には一切の無駄がなく、まるで数十年も経験を積んだ剣豪のような立ち振る舞いであった。
続けて、二体目を袈裟斬りにし、返す剣で三体目も下からの斬撃でなぎ倒す。
「すごい」
その場にしゃがみ込んだセヴィアは、自分から少し離れた場所で戦うアイルを夢でも見るように見つめた。
その技が見事なことは間違いないが、それだけではない。
彼が果物でも切るように硬い装甲の魔物を斬り刻めるのは、その剣に付与された魔法の力があるからに他ならない。
本来、どんな天才でも剣と魔法はどちらか片方しか極められないとされている。
それぞれの真髄を得るには、その道のりは果てしなく遠く、人間の寿命は短すぎる。
剣と魔法をあわせて戦う魔法剣士は冒険者の中で最も人気の高いジョブではあるが、結局はどちらも中途半端になり成果を出せないパターンがほとんどであった。
しかし、いま目の前で白い魔法光を剣に纏い戦うアイルの姿は、セヴィアが見てきたどんな魔法剣士とも違う。
まるで、新しい戦い方を発明したような、彼だけが違う次元で戦っているような……。
「……勇者」
知らず、セヴィアの唇からはそんな単語が零れた。
しかし、その呟きがアイルに集中していたヘドロの注意を引いてしまった。