第8話 おねーちゃんを捨ててもいい?
カタリナ達の乗るコルベット級戦闘艦は初のFTLジャンプを行った。
一瞬乗り物酔いしそうな揺らぎを感じたがすぐに通常に戻る。
船体の揺れが止まった時、彼女たちはすでに遠く離れた星系プニャードの星系境界に到着していた。
「これがFTLジャンプ?さっきので22光年の距離ワープしたの?」
カタリナが目を丸くして尋ねる。彼女は、ミネがまだ船の操縦にも慣れていないのに、このスケールの移動を軽々とこなす技術に興奮していた。
「うん、すごいよね。もう星系プニャードだよ。ミネ、情報ちょうだい。」
サクラモカが手早く指示を出す。船の名義は架空の商人一家に変更されているため、星系レーダーに接続が許可され、星系内の情報がリンクされる。セキュリティの関係上、海賊等に狙われやすい小型船団は表示されないが、国軍や領主の艦隊は警告も兼ねて現在位置も含めて表示される。
「目標確認。ドロメル・ファルサ子爵の私設艦隊、ドントレックス」
サクラモカがその点をタップすると、ホログラフで艦隊の陣容と情報が表示される。
「じゃあ、説明するね。この……」
「ちょっと待った!!」
カタリナが食い気味にサクラモカの言葉を遮った。その声は、珍しく真剣だった。
「私はとんでもないミスを犯していた!!!」
珍しく真面目そうにカタリナが呟く。
「ふぅ……どうせしょーもないことでしょ。私の説明止める必要ある?」
サクラモカは冷めた目でカタリナを見つめた。
「この船の名前、まだ決めてなかったわ!ヴァルキュリア・ルージュ号!どう?」
カタリナは胸を張って提案した。サクラモカは深くため息をつく。
「はぁ……やっぱりそんなことか。コルベットって艦型でいったら最弱よ?ちょっとカッコよすぎじゃない?」
「そういわれるとそうねぇ。じゃあどうしようかな?う~ん。」
カタリナが考え込むと、サクラモカは呆れたように作戦会議を再開した。
「もう!作戦会議進めちゃうからね。敵はコルベット5隻、対してこちらはネコパンチ号の一隻のみ。」
「ん?まてまて、妹よ。何それ?」
「面倒くさいから私が命名した。この船、ネコパンチ号。」
「はぁ……!?」
カタリナは絶句する。ミネも「ネコパンチ号ですか…」と小さく呟いた。
「はい、おねーちゃん黙って、ネコパンチ号1隻ではさすがに5隻倒すのは難しい。
それに私達にとって拿捕船は戦力増加や資金増加につながるので、傷つけたくないわ。」
「ごめん、普段のこと謝るから、ネコパンチ号だけはやめようよ……」
カタリナの悲痛な叫びも、サクラモカは無視した。
「はい、無視無視。艦隊戦というのは、大体2倍の戦力に対抗する場合は勝率は2割を切ると言われてるの。それくらい物量には代えがたいのよ。ましては今度は5倍の敵。」
「じゃあ、やめましょう。5%に突っ込むのは頭悪いギャンブラーくらいです。」
ミネが冷静に返すが、それに対してサクラモカが不敵に笑う。
「凡人には5%でも、私だと勝率100%も夢じゃない……あーもう!おねーちゃん、さっきから後ろでブツブツ言い続けるのはやめて!わかったから、ヴァルキュリア・ルージュ号だっけ?はいはい!いいよ、それで。」
カタリナが嬉しそうに黙った。作戦会議を再開するサクラモカに、クルーたちがゴクリと息を飲む。
「じゃあ、再開するよ。勝算はあるのよ。なぜならね、このネコパンチ号には3つの勝因があるの。」
「おい、妹!ネコパンチじゃないってば!!」
「ネコパンチ号に3つの勝因?」
「おい!ミネまで~!!」
「一つ目。このネコパンチ号は、図らずも名パイロットに恵まれたの。ミネ、あんたよ。どこで覚えたのか知らないけど、さっきの星系で予行演習して分かったけど、あの動き、普通はできない。」
ミネは微かに頬を染めた。
「恐縮です。ネコパンチ号は意外と素直で、言うことをよく聞いてくれます。」
「もういいよ、ネコパンチ号で……。」
カタリナは諦めてミネの横に拗ねながら座った。
「二つ目、これもミネのおかげだけど、この船、シールドも追加装甲も通常の1.5倍くらい強化してあるわ。しかも、ミネ、あんた、プラズマスラスターに換装したでしょ?よくもまぁあの予算で。」
「はい、当然です。いいものをお安く、それがモットーですから。」
プラズマスラスター……電気式スラスターで推進剤を必要とせず、亜光速航行を行うためのスラスターの中では最高級品。通常コルベット級は推進剤を燃焼させて推進力を生み出す化学スラスターが一般的である。
ドントレックス艦隊にこの速度についてこれるものはいないだろう。そして操縦するのはミネである。
ミネはデータパッドをいじりながら、自慢げに答えた。
「そして三つ目、この船にはおねーちゃんがいる。」
拗ねていたカタリナの目が光る。
「ふふ……秘密兵器の登場?」
「5倍の敵を打ち破るには、敵旗艦の制圧しかないの。ネコパンチ号の強烈なスピードと防御、そしてミネの操縦スキルで、敵旗艦に肉薄して、おねーちゃんが入った人間ミサイルを敵旗艦に撃ちつける。」
「えーやだぁ。爆発して死ぬじゃん。」
カタリナが怯える。
「火薬入れるわけないでしょう。先端が突き刺さったら、レーザーブレードで先端を突き破って中に進入するの。衝突時にはすごい衝撃があると思うから気を付けてね、おねーちゃんだったらトラックに轢かれても死なないだろうから心配してないけど。」
「妹よ、何か勘違いしているようだけど、おねーちゃんはトラックに轢かれたら普通に死ぬぞ?」
サクラモカは心配そうなカタリナの顔を無視して話を続けた。
「とにかくシンプルでしょ。おねーちゃんを敵旗艦に打ち捨てたら、私達は適当に反撃しながら逃げ回るの。そしておねーちゃんが旗艦を制圧した時点で降伏勧告、これで終わりよ!」
後ろで聞いていたクルー達が心配そうにカタリナを見た。
「うん、わかった。やる。それでいいよ。準備して。」
三人が冗談の作戦会議をしているように思えたが、その後、普通に準備を開始する。
「初陣…大丈夫でしょうか?」
クルーの一人が不安そうに呟いた。
サクラモカも結構ブットンデるんですよね、本当は。
アジトでお父ちゃんも病弱ハーレムしてるし。
きっと頭のネジ緩い親子なんです。そりゃ没落するわ。
お母ちゃんは……捨てられたってことにすると不憫なので病死です。
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