第44話 酔っ払いダイブするぞ!
ハッチが開き、強烈な風が吹き込んでくる。
カタリナがモカに向けてニヤリと笑った。
モカが面倒くさそうに笑い返す。
すぐに真面目な顔に戻って叫んだ。
「みんな!今よ、飛んで!」
サクラモカの号令が響いた瞬間、
ハッチの縁に立っていた十五人が、一斉に空へ飛び出した。
重力が身体を引きずり落とす。
「ひゃっほーい!!」
誰よりも早く、誰よりも楽しそうに声を上げたのはカタリナだった。
両腕を広げ、まるで遊園地のアトラクションにでも乗っているかのようだ。
一方、モカは落下姿勢を崩さず、冷静に周囲を確認している。
「いい?
着地したら即行動!
敵のコルベットを奪取、
タレットで牽制して降伏を促すの!」
「了解!!」
全員の返事は揃っていた。
――ように思えたが。
「副団長~~!!」
一拍遅れて、間の抜けた声が上空に響いた。
「ちゃんと私のバッカニア号も
あとで回収してくーださーいよ~~!
うぃっく」
酔いの回った声に、モカのこめかみがぴくりと動く。
「はいはい、分かった分かった。
気が向いたらね」
「ん?」
モカが目を見開いて、ジーナを睨んだ。
ジーナの落下姿勢が、空中で不自然に揺れた。
モカが一旦地面に視線を戻してから
再び勢いよくジーナを見た。
「……んんーー???」
不安げにモカを見下ろす。
「どーしましたー?
副だーんちょー?
うぃっく」
嫌な予感しかしない。
「……ジーナ。
あんた、パラシュートは?」
「えー?
ありますよー?
ほれほれ……」
胸元を探り、腰を探り、背中に手を回す。
「ん?
ありゃあ?」
一瞬の沈黙。
「……これ、私の服の紐だぁ」
モカの脳内で、警報が鳴り響いた。
「……パラシュート忘れてきたぁ~!」
「おい!!」
空中でモカの叫びが炸裂する。
「ま、いっか!」
速攻でジーナが開き直った。
「よくねーって!!
おねーちゃん!
あの馬鹿を助けてあげて!!」
「しゃーねーな!!」
即座に動いたのはカタリナだった。
「全くジーナはぁ!!」
……一拍。
「……でもまあ、
面白いから許す!」
「おい!
そこで甘やかすな!!」
モカの怒号を背に、カタリナは身体を細める。
空気抵抗を減らし、落下速度を一気に上げた。
風切り音が耳を裂く。
次の瞬間。
がしっ。
「捕まえた」
ジーナを抱き締める。
「わー!
さっすが団長っス!!」
「褒めてる場合じゃないからな?」
カタリナは、ジーナの体に左手と両足を回して絡めとった状態で、
余裕の表情をしつつ、パラシュートを引いた。
衝撃と共に、白い傘が開く。
周囲でも次々とパラシュートが花開く。
だが――二人乗りだ。
カタリナ達だけは不安定に揺れていた。
「おい、ジーナ。
面倒くさいから、あまり動くなよ」
「へぇい」
次の瞬間。
「……げっぷ」
「――っ!?」
鼻を突く、強烈なアルコール臭。
「くっさ!!」
右手で鼻をつまむ。
「おえぇぇぇ!!」
「団長、暴れちゃダメっスよ~」
「無理!!
くせぇんだよ!!」
カタリナが身をよじる。
パラシュートが揺れ、風に流される。
高度計が、予定ルートからズレていく。
上空からそれを見ていたモカが、歯を食いしばった。
「おねーちゃん!!」
……数秒の沈黙。
「……もういい!!」
モカは覚悟を決めた。
「みんな!!
あんなの放っておいて、三隻盗むよ!!」
「えっ!?」
「いいんですか!?」
「いい!!」
モカは即答した。
「あの二人は何したって死なない!!
放っとく!!」
その瞬間。
ドォォン――――!!!
無人となったバッカニア号が、
敵アジトへと自由落下で突っ込んだ。
建物をなぎ倒し、爆音と共に黒煙が吹き上がる。
「な、何だ!?」
「敵襲だ!!」
混乱の叫びが響く。
その隙を逃さず、隊員たちは次々と着地する。
それと同時にパラシュートを切り離した。
「奪うよ!
散開!!」
三隻のコルベットに隊員たちが次々と乗り込んだ。
そして間髪入れず慌てて浮上する。
炎上するアジトから海賊たちが飛び出し、
レーザーガンを乱射するが、
コルベットは構わず上昇し、
逆にタレットで威嚇射撃を浴びせた。
海賊たちは、レーザーを避けようとして、
踊るようにジタバタしながら、
後方へ引き下がっていった。
――そして。
戦場のど真ん中。
どさっ。
「……ういっぷ」
「げぷっ」
カタリナとジーナが、
敵陣の中心に落下した。
二人は転がるように起き上がり、パラシュートを外す。
顔を上げた瞬間――
ずらり。
銃口を向ける、敵海賊たち。
完全な包囲。
一瞬の沈黙。
「……あ~」
ジーナが、酔いでふらつきながら手を上げた。
「団長のせいで、
捕まっちゃいましたよぉ」
「お前のせいだろ!!」
カタリナの怒鳴り声が、
銃声よりも大きく戦場に響いた。
「何だ……こいつら?」
「良いから人質にしてコルベットを取り返すぞ!」
カタリナが不思議そうにつぶやいた。
「人質?私らが??」
やっほー!カタリナだよ!
空からのダイブ、最高にエキサイティングだったわね!
やっぱり人生、たまには空も飛ばなきゃダメだわ。
アドレナリンがドバドバ出ちゃった!
でもさ……ちょっと聞いてよ。ジーナのやつ!!
パラシュート忘れるってどういうこと!?
酔っ払ってるにも程があるでしょ!
「あ、これ私の服の紐だぁ」
じゃないわよ!
しかも「ま、いっか!」って……。
面白いから許す
まぁ、私も団長として放っておけないから助けてあげたけど……
その代償が「強烈な酒臭いゲップ」って、どんな罰ゲームよ!?
空中で鼻をつまみながらパラシュート操作する私の苦労、みんなに伝わった?
本当、途中で放り投げようかと思ったわよ。くっさーい!!
しかもモカ!あんた、実の姉を「死なないから放っておく」って何よ!冷たいわねー。
まぁ、その隙にコルベットを三隻とも盗んじゃうあたり、さすが私の妹。ちゃっかりしてるわ。
で、結局。 私とジーナは敵のど真ん中に着地しちゃったわけ。
周りは銃を持った海賊だらけ。
あいつら、私のことを「人質」にするって息巻いてるけど……。
ププッ、笑わせないでよね!
私を人質にするってことが、どれだけ恐ろしいことか、あいつら分かってないみたい。
銃口を向けられてる今の状況? 全然怖くないわよ。
むしろ、これから暴れるのが楽しみで仕方ないんだから!
次回!この「人質(仮)」がどうやってアジトをメッタメタのギッタギタにするか、しっかり見届けてよね!
あ、ジーナ、あんたは早く酔い醒ましなさいよ!私の鼻が死んじゃうから!
じゃあね、また次のお話で会おうね!




