第42話 イケメン見に行くぞ!
「で、おねーさん、公爵ってそんなに悪い奴なんだ?」
「………。」
カタリナの問いに店主の奥さんは黙り込む。
「おねーさん、私らがその悪徳公爵を懲らしめてやるよ!」
「え?いや、良いんだ良いんだ。あんた達みたいな若い子らにそんな危険を冒させられないよ!」
「でも困ってるんでしょ?おねーちゃん、こう言い出すと止まらないんだ。
泥船に乗ったつもりで私達を頼ってみたら?」
「モカ、それ沈む奴。大船!マジでうちら大船持ってるんだから!」
「ふふふ、あんた達面白いね、姉妹?いや、本当に大丈夫なんだ。
私達はね、もう救われてるんだ。」
「どういう意味?」
「あまり大きな声では言えないんだけど、シルバーランス海賊団が私達を守ってくれているんだ。」
「シルバーランス、ルキウスの海賊団?」
「そう、彼らが来てから私達は横暴を受けなくなった。税金は高いけどね。
たまに彼らは周りの強欲商人どもから奪った金を私達に配ってくれたりもするんだ。
おかげで、税金が高くても何とかやっていけてる。」
「義賊・・・ってわけか。」
「そうだね、この星系基地の居住区の人間や居住惑星にすむ、貧しい平民は彼らをヒーローのように讃えている。実際私もあの人達には感謝の念しかないわ。」
「へぇ……、おねーさん、ルキウスがどこを根城にしているか知ってる?
妹がさ、すごいファンでさ。会いたがってんの。」
「え?あぁ……まぁ、確かに一回実物をみてみたいな。」
「まぁ、そうだろうね。
あんた達みたいな若い子らは放っておけないんだろうね。
だけどごめんね、私達も詳しくは知らないんだ。
言っても海賊であることには違いがないからね。」
「そう。残念。でも、ありがとうね、美味しかった。」
「こちらこそありがとうね。また来てね。
そうそう、気を付けるんだよ。このあたり物騒な公爵私兵がうろついてるからね。」
軽く会釈をすると支払いを済ませて外にでる。
「おねーちゃん、一回ジーナ達と合流しようか。
絶対公爵をぶっ倒すとか言うんでしょ?」
「うん、言う。」
「またコルベットでエルノ公爵ぶっ倒すとか言わないよね?」
「さすがに言わないよ!私も成長してるってば。
メッタメタ号で滅多滅多に叩き潰す!」
「……おねーちゃんも成長したね…と言いかけたけど言わなくてよかったー。
(すぅー)」
勢いよく息を吸う。
「馬鹿っ!馬鹿馬鹿馬鹿!!
たかが弩級戦艦1隻で叩き潰せるわけないでしょ!
弩級戦艦くらい公爵私設艦隊なら2隻くらい持ってるわよ!」
「メッタメタ号は特別だよ、多分。」
「多分って何がよ…あ…?何あれ?」
話の途中でサクラモカが人ごみを指さした。
「行ってみようか?」
二人は走って近づくと、人だかりができていて、熱気と共に女性の黄色い声が鳴り響いた。
その中をかき分けて近づこうとすると、肘で思いっきり押し戻され、近づけない。
「なんだ、これ?この私が近づけないくらい、こいつら命削って声上げてる。」
仕方なくその場にいた、お年寄りに声をかけた。
「すみません、これって今何が起きてるんですか?」
「ん?シルバーランス海賊団のルキウスさんだよ。二つ名を慈愛の断罪者。
わしら平民の味方だよ。」
「ルキウスがここに居る?!会いたい!どうしたら一目でも会えるの?」
「ほっほっほ。若い子なら当然かの。その内に金貨の施しが始まる。
その時に並びなさい。手渡ししてもらえるよ。」
「ありがとう!そうするよ!」
そう言ったあと、カタリナはサクラモカの肩をポンポンと2回叩いた後、立ち去ろうとする。
すぐにサクラモカが襟をぎゅっと掴んで引き留めた。
「まさかとは思うけど。」
ゆっくりと冷や汗をかきながらカタリナが振り返った。
「私に並ばせておいて、横入を企んでないわよね!」
「え? まっまさかー。そんなことするわけないじゃなーい。
ちょ……ちょっとお手洗いに。」
「さっきのお店で行ってたよね。」
「……ごめん、勘違いだった。並ぶよぅ・・とほほほ。」
2時間ほど待たされ、その間に周りの女の子達からも情報を収集する。
ルキウスやその周りの海賊達は、まるで貴公子のように、振る舞い優雅で、皆に接するらしい。
噂通り、イケメンだとも皆が言う。
また、他の海賊や公爵私兵に絡まれた際に、目にも止まらぬ剣技で助けられたものもいたという。
その義賊ぶりは、徹底しており、出来すぎている。
遂にカタリナ達の番が訪れる。
「はい、どうぞ。美しいお嬢さんたち。何か困ったことがあったら何でもシルバーランスに言ってね。」
金髪碧眼、引き締まった肉体に整った顔立ち、間違いなくイケメンだ。
その彼が優しく微笑みながら一握りの金貨を手渡ししてくれる。
サクラモカは緊張しているようだ。彼女は芸能人とか有名人という「肩書」に弱い。
カタリナの猫耳がピクピクと震える。
こいつは大悪党だ。カタリナは確信した。
「ありがとう!」
そういうと金貨ごと力いっぱいルキウスの手を握り締めた。
少しだけ小ばかにしたような笑みで見つめる。
ルキウスは微笑みの表情を変えずに、別の手でカタリナの指を易々と引き剥がした。
全力で握っていたにも関わらず。
「ごめんね、次の人が待ってるんだ。」
そういうと二人は1秒ほど見つめあう。微笑みの中で、全く親しみを感じていない見つめ合いだ。
「おっおねーちゃん。」
後ろの人の圧に負けてサクラモカがカタリナの腕を引いてその見つめ合いを引き剥がした。
「ありがとうございましたっ!」
サクラモカが深々と頭を下げてカタリナを引っ張ってその場を離れた。
そして人通りの無い所まで来たところで、路地裏へと足を踏み入れる。
「おねーちゃん、気に入らなかったみたいね。」
「うん、公爵の前にあいつだわ。倒さなきゃいけないのは。」
「とにかく戻ろう。
まずは引っ越し先を決めないと、ルキウスだろうが、公爵だろうが、今の戦力では戦えないよ。」
カタリナは無言でうなずくと、バッカニア号の元へ静かに歩き始めた。
バッカニア号についた頃にジーナも帰還した。真っ昼間からかなり出来上がっている。
「あぁ~団長!帰ってきてたんだ!!ここにもちゃんと飲み屋あったっス。
もう安心っス!よし、団長もいるし、2軒目行くぞ、みんな!」
ジーナ軍団が臭い息を吐きながら腕を突き上げる。
「ちょっと待って!私達は情報収集しないといけないの!
どの惑星が引っ越し先に適してるか。
ルキウスがどこを根城にしてるか。」
「へぇ……。そうなんっスかー。うぃっぷ。
ルキウスはぁ……。第3惑星ニャドルーレンを根城にしてるっス。」
「え?もう調べたの?」
ぷはぁ…と息を吐きだした後、誇らしげにジーナが呟いた。
「呑兵衛なめんなよー!」
そのまま自慢げにジーナは続ける。
「第5惑星ニャルガレーモが根城にぴったりっス!
海洋惑星なんで、団長の故郷と同じっス。海水浴もできるっスよ!
ここ、5つの弱小海賊が根城にしてるっス。」
「ほぉ?」
カタリナとサクラモカが顔を見合わせてから目を輝かせる。
「第5惑星ニャルガレーモ!海洋惑星!私の故郷と一緒!完璧じゃん!ジーナ、天才!」
ジーナが「にししし」と笑いながら叫んだ。
「明日からうちらでやっちまいましょう!
運動のあとは酒がうまーい!」
「よし、いいね!やっちまおう!モカ、みんなを呼んで。
その前に私達だけで掃除しちゃおう。
20日もあれば制圧できるっしょ!」
モカは困った顔をしたが、すぐに「よし、やるかー!」と気合を入れた。
いやー、今回の下見、大収穫だったわね!団長のカタリナだよ!
噂のルキウス・ヴィクター!慈愛の断在者ですって?ププッ、笑っちゃうわね。
確かにイケメンだったわよ?金髪碧眼で、優雅に金貨を施す。周りの女の子たちの黄色い声が耳障りだったけど、まぁ、銀河一美しい私には勝てないわね。フフ。
でも、あいつ、大悪党よ。私、確信したわ。
全力で握った私の手を、優雅な微笑みのまま引き剥がすなんて、並の腕力じゃない。そして、あの親しみのない目。まるで、私たちが汚らわしいものだとでも言いたげな、あの顔!
気に入らないわね!
義賊はね、私だけなのよ!
あんな胡散臭い男が民衆のヒーローぶっているなんて、虫唾が走る。公爵の前に、まずはあいつをメッタメタに叩き潰すことに決めたわ!
そしてジーナ!あいつ、お酒のことになると本当に天才ね!
酔っぱらいの調査力、恐るべしだわ。ニャドルーレンがルキウスの根城で、ニャルガレーモが新しいアジトにぴったりなんて、よく見つけてきたわね!
海洋惑星!
最高じゃない!私の故郷みたい!海水浴ができるなんて、もう引っ越し決定よ!
ただし、ニャルガレーモを根城にしている弱小海賊ども。アンタたちには悪いけど、お引越しをお願いするわ。何事も運動の後は酒が美味しくなるでしょ?
モカもノリノリになったことだし、明日から早速、制圧作戦よ!
この新しい章は、イケメン海賊団を叩き潰して、内乱を片付けるっていう、最高の展開になりそうだわ!
私に逆らう奴は、メッタメタにしてやる!ふふふ、みんな、新しい船名にも慣れてね!
じゃあね、また次話で、ニャルガレーモの海賊どもがどうなったか教えてあげるわ!
(私の悪党レーダーに狂いはないのよ!ルキウス、覚悟しなさい!)




