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『赤毛猫海賊団 カタリナの野望』 ~カタリナ様はワガママ貫き通すってよ~  作者: ひろの
第1章 カタリナ、ついでに弩級戦艦もらっとく
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第4話 まずは見た目からでいい?

グラ―ニャ星系要塞の造船廠は、大小さまざまな宇宙船のエンジン音が轟き、金属の焼ける匂いが充満していた。ここは、グラ―ニャ星系を航行するあらゆる船が立ち寄る、活気あふれる場所だ。


強奪したばかりのコルベット戦闘艦は、コタ・シャルロットのオンライン工作によって、すでにカタリナの名義へと変更されていた。商船として扱われ、彼女たちの船は民間ドックへと滑り込む。


「コタのおじさん、本当にすごいよね。あんな短時間で名義変更しちゃうなんて」


操縦席から降りたサクラモカが、感心したように呟いた。


「お父さんは昔から、そういう地味な才能に関しては天才だったわ。」


ミネが淡々と答える。彼女は、船のシステムチェックを終え、データパッドに素早く記録を打ち込んでいた。


(ミネ、あんたも地味な才能は天才よ)


カタリナとサクラモカは、互いに顔を見合わせずとも、同じことを考えていた。


「さあて、それじゃあ今後の作戦会議といきましょうか」


サクラモカが真面目な顔で言う。

彼女の頭の中には、すでに完璧なプランが描かれている。まずは、この船の正体を隠すために、外観を地味な商船風に塗装し、警戒されないようにする。その上で、根城となるアジトを探し、戦利品を売買するための裏商人とのコネクションを築くのだ。


「そんなの、後でいいじゃない」


カタリナが退屈そうに言った。

サクラモカが口をとがらせて無言で「黙れ」とアピールする。


「あら、私、ちょっと買い物に行ってくるわ。美味しいものが食べたいの」


カタリナはそう言い放ち、二人の返事を待たず、軽やかにドックの街へと駆けていった。


「もう……!勝手なんだから!」


サクラモカが呆れて叫ぶが、ミネは動じない。


「いつものことですから、気にしても無駄ですよ」


二人は仕方なく、今後の作戦について話し合いを続けた。


「コルベット級高速艦は速度はあるけど、その分積載量は少ない。だから、敵船を拿捕して物資を略奪するより、一撃離脱で、護衛艦を撃沈して輸送船だけを狙うべきだね」


「そうですね。商船と偽って接近し、油断しているところを襲撃する。これが一番効率的です」


「あと一応、ほとんどの操作はオートモードがあるけど、クルーもある程度必要よね。3名でも運用できそうだけど、色々不便そうだし。あー、そうだ。私狙撃の才能ないのがよくわかった。一撃必殺が全部外れるとか洒落にならないよね。軍人崩れとかで信用できる良い人いないかな?」


二人の話し合いは真剣そのものだった。コルベットの弱点を補い、最大限に活かす戦術を、理路整然と組み立てていく。地味な船体にすることで、敵の警戒を解き、奇襲の成功率を上げる。それが、彼女たちが導き出した結論だった。


数時間後、太陽が傾き始めた頃、カタリナがご機嫌な様子でドックに戻ってきた。


「二人とも!聞いて!船の塗装、依頼してきたから!」


カタリナの言葉に、サクラモカとミネは顔を見合わせた。嫌な予感がする。カタリナの**「美的センス」**が、いかにこの海賊団を無茶な方向に導くか、二人は嫌というほど知っていた。


「ま、まさか…」


サクラモカが青ざめた顔で言う。


「もしかして真っ赤に塗ったりしてませんよね?」


ミネが冷静に確認する。カタリナはにっこり笑って頷いた。


「その通りよ!やっぱり、この私には赤が一番似合うわ!」


二人が慌ててドックに駆けつけると、職人のフランクが困った顔でペンキを混ぜていた。すでに船体は、二人が想像していた地味な商船とは程遠い、鮮やかな赤色に塗り始められていた。


「おい、冗談だろ!こんな目立つ色にしたら、すぐに哨戒艦隊に目をつけられるだろ!」


サクラモカが怒鳴りつけると、カタリナは涼しい顔で答えた。


「あら、当たり前じゃない。だって、私たちの名前は赤毛猫海賊団よ?船の色が赤じゃなきゃおかしいでしょ?」


ミネが冷静に指摘する。


「それに、あれはなんですか?」

挿絵(By みてみん)

真っ赤な船体に所々施された黒のアクセント、その一際目立つところに立派な海賊旗が描き込まれていた。


猫の頭蓋骨、そして交差するレーザーカトラス。カタリナの「美学」が詰まった、銀河一危険で美しいデザインだ。


サクラモカが額を押さえて、カタリナを睨む。


「お姉ちゃん、こんな弱い内から海賊だってアピールしてどうするんだよ!これじゃあ、向こうからわざわざ襲ってくれって言ってるようなもんじゃないか!」


「あら、それでいいじゃない」


カタリナはまったく悪びれる様子がない。


「いい?海賊っていうのはね、その旗を見て相手が怯えるくらいじゃなきゃダメなのよ!それに、美しさっていうのは、隠すものじゃなくて、見せつけるものなの!」


カタリナの言葉は、まるで宇宙の真理を語るかのようだった。しかし、二人の頭の中は、今後の莫大なリスクで埋め尽くされていた。


「でも…」


サクラモカが反論しようとすると、カタリナは彼女の肩に手を置いた。


「大丈夫よ、モカ。弱い犬ほどよく吠えるっていうでしょう?私たちは、誰よりも美しいから、誰よりも強く見せつけてやればいいの。それが私の**『美学』**よ」


カタリナの目は、真剣そのものだった。彼女にとって、この船の塗装は単なる飾りではない。それは、自分たちの存在を銀河に知らしめる、最初の宣言なのだ。


「ん………、でもだよ、おねえちゃん。海賊旗を見たら商船全部逃げ出しちゃうじゃん。襲撃できなくなるよ?」


「はぁ?」


カタリナが分かりやすく怪訝な顔をした。


「はぁぁ?」


いやな予感しかしなかったサクラモカが、そのまま真似して返す。


「商船、狙わないよ?犯罪になっちゃうじゃん。狙うのは海賊か軍船だよ。」


「はぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあ」


肺の空気全部を吐き出しても足りないような溜息だった。同情した顔でサクラモカの肩を叩くミネ。全ては既定路線だったのだ。もう、諦めろと……。


結局、サクラモカとミネはカタリナの意見に押し切られ、派手な赤色の船体に、ドクロとレーザーカトラスが描かれた海賊旗が掲げられることになった。


「はぁ…もう、好きにすればいいよ」


サクラモカが諦めたようにため息をつく。


「ま、でも、この船なら、ちょっとは強そうに見えるかもね」


ミネが淡々と感想を述べた。


こうして、赤毛猫海賊団は、その名を銀河に轟かせるための最初のシンボルを手に入れた。それは、単なる飾りではなく、カタリナの**「美学」と「野望」**の象徴となったのだ。


その夜、完成したばかりの真紅の船体を見上げながら、カタリナは一人、呟いた。


「ふふ、これで完璧。さあ、銀河の皆さん。これから、私の芸術をお見せするわよ」


彼女の瞳は、宇宙の闇に煌めく星々よりも、さらに強く、美しく光り輝いていた。


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