第37話 潜伏していい?
レーザーブレードが飛び跳ねて、地面に落下しクルクルと回転している。
双剣が"カタリナ"の首元に突きつけられてる。
「ストップ!ストォップ!
それ以上近づけたら火傷するってば!降参降参!」
冷や汗を垂らしながら、カタリナが命乞いをした。
ようやくホッとしたのかレティの顔が緩んだ。
「はーっはっはっ!参ったか!
私はな、お前が想像する一万倍、修行したんだぞ!
もちろんお前を倒すためだけにな!」
「どうりで。まいったまいった。だいぶ強くなってると思った…よ!」
言い切るよりも速く油断したレティに向けてもう一個のレーザーブレードを振り抜いた。だが、レティもノールックのままブレードを神速で引き戻し、それを受け止め、ニヤリと笑った。
「甘い甘い!一万倍の修行を舐めんなーよっと!」
そのままクルリと回転させるとカタリナのもう一個のブレードが宙に舞った。
「あれ?!」
カタリナが意外な顔をした。
「え?やっばい?」
そう言いながらも周りを確認していたが……。
「隙がない……な。」
そのまま壁際まで押し込まれる。
「おっかしいな、お前、素直ないい子ちゃんだから絶対、さっきの不意打ちは有効だと思ったんだけどな」
「あんたのことなんか、これっぽっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっちも信用しとらんわ!」
「酷い方言うなぁ、あまり友達にそんなことばっかり言ってると、ボッチになるぞ?」
「誰が友達だよ!?ボッチと違うわ!友達たくさんいるっつーの!!」
ふざけあっているように見えるが、団員達にもカタリナのピンチが伝わった。
「だっ団長ぉぉぉぉ!」
遠くにいた面白映画紹介大臣リーンが、映画ばりの演技で体全体を使って、まるで映画のように驚きのポーズをした後、叫んだ。
その隙に後ろから押さえ込まれて後ろ手に縛られる。
「何あれ?」
レティが呟き、カタリナが友達同士の会話のように答えた。
「あれはリーン、面白い奴なんだ。あいつ、めっちゃ映画に詳しいんだ!
今度教えてもらいなよ!あいつの紹介してくれる奴、ハズレがないんだってば!」
「へぇ?ちょっと興味がある。っておい!
何、普段通り話しかけてきてるんだ!
もういいから、みんなに武器を捨てさせろ!
これ以上続けると、死人が出るぞ?」
カタリナが何かに気づいたかのように一考した後、叫んだ。
「みんなー!ごめーん!!レティに負けたー!!命大事にー!降伏していいよー!!」
レティに負けた
その一言を聞いて団員が一斉に戦意をなくす。サクラモカが真っ先に2丁拳銃と予備マガジンを足元に捨てた。
他の団員達もそれに続く。武器を捨て、皆が後ろ手に縛られて一箇所に集められ、座らされた。
ここぞとばかりにレティがカタリナをからかう。
「はーっはっは!カタリナ、いい眺めだな!お前達の最期だ!」
「弁護士を呼べー!」
カタリナが叫ぶ。
カタリナ含め、不安そうな顔をしているものの、レティは何かしら違和感を感じていた。
ディラマ艦隊のクルーは勝利を確信して、見物に集まってきた。その内100人程が弩級戦艦のネコパンチを接収するために乗り込んでいった。
そして、提督らしき者が現れた。
「私がエルジェン・ヴァルモン中将、この艦隊の提督だ。
お前らがイリブラを打ち倒して調子に乗り、ディラマに挑んだ愚か者どもか!
我らディラマ艦隊はイリブラとは一味違うことを思い知ったようだな。」
言い方にイラッとしてカタリナが睨みつけるとそいつはたじろいだ。おそらく弱っちぃ。
「おい、小娘、お前には聞きたいことがある。あー、こほん。例の噂についてだ。」
「噂?」
カタリナが不思議そうな顔をした後、大袈裟に叫ぶ。
「あーっ!!私の部屋の、あの宝の山のことかー!?」
続いてサクラモカも大袈裟に叫んだ。
「おねーちゃんが散らかした、あの宝の事だよー!!
無造作に散らかしてるから、兵士が少しくすねても、きっとバレないねー!!」
「な?!」
提督に焦りの表情が見える。
そこへ先に突入した兵士から報告通信が届く。
「なっ何?!船長室に宝の山だと!?
おい、絶対に触るな!そこで待て!
レティシア准将、ここは任せる!
緊急事態が発生したため、敵弩級戦艦の様子を確認してくる!」
そう言うと走り出した。兵士達が顔を見合わせて、少し黙った後、後を追った。
「閣下、危険ですからお供します!」
ほとんどのクルーが走ってついていった。あの様子だとエルジェンの配下は艦内にはほとんど残っていないだろう。
「あっおい!」
レティはあせったが、すぐに冷静さを取り戻し、対賊陸戦隊にカタリナ達を取り囲ませた。
「もし、何か企んだら容赦なく斬る!動くな」
歴戦の陸戦隊が全く油断せずに武器を構えて取り囲んでいる。
いくらクルーがいなくなったとはいえ、全く楽観出来る状況ではなかった。
レティはカタリナの首元にブレードを近づけている。少しでも怪しい動きをしたらカタリナを斬る。無言でそう伝えていた。
レティは先ほどの違和感の正体をまだ気づいていなかった。
そう、ここにミネがいないことを。
ミネは最初から別行動をしていた。排気口ダクトの中を1人で匍匐前進している。
そして、メインコントール室の真上にたどり着いた。マスクを付ける。マルザンから譲り受けた違法の睡眠ガスをメインコントール室内に流し込んだ。一瞬で中にいた3人が意識を失い眠りこけた。強力すぎだ。排気ダクトの蓋を静か開けて、ぶら下がった後飛び降りる。まるでネコのような柔軟さで音を立てずに着地した。
部屋にあるメインコンピュータを見つめる。
人工知能を停止させたおかげで。この部屋のこいつさえ、ハックしたら、艦の制御を全て奪える。
コンピュータにアクセスしてハッキングを開始した。
遠くで喧騒が聞こえる。カタリナ達がやり始めたようだ。それほど時間はない。
焦りを覚えたが、一度深呼吸して、落ち着きを取り戻した。私なら出来る!
どれだけ時間が経過したか、ミネの集中はすさまじかったが、なかなかハッキングの糸口が見つからない。ハッキング検定2段(自称)のミネにとっては、この苦戦は苛立たしかった。
周りが静かになる。
カタリナ様が負けた。
まるでミネはそうなることが分かっていたかのように理解した。こうなるともう時間は残されていない。
さらに喧騒が起きる。おそらくディラマの兵士達がポンコツネコパンチに乗り込んでいったんだろう。
汗が額を滴り落ちる。
トンっ。Enterキーを押した途端、画面上にカタリナのバカっぽいデフォルメキャラが現れた。
よしっ!!
ついにカタリナウィルスを使ってメインコンピュータをハックした。どんなシステムでも画面内のカタリナが鼻をほじりながらブレードを振るとアクセス権が得られた。
このギミック、カタリナが見たら荒れただろう。ミネのお気に入りのハッキングツールだ。
「よし、完全に制御を乗っ取った。」
ミネが小さくガッツポーズする。
艦内カメラを全て乗っ取り、状況を確認する。ディラマ残存兵が居る場所を把握した。
突入口から裏手に回った所に、運び入れた大型の睡眠ガスタンクが設置されており、影薄い大臣 エレノアの配下の5番艦エクリプス号の影薄い隠密団員達によって、乱闘の最中に隠れて接続されていた。
兵士達がいる部屋に向けて空気の流れを操作してマルザン凶悪睡眠ガスを流す。
残ったディラマ残存兵は、任務中に気を失っていった。残るはレティ率いる対賊陸戦隊。
ミネはメインコンピュータから操作してポンコツネコパンチとニァラティールを繋ぐルートのハッチを閉めた。これによりほとんどのディラマ兵をポンコツネコパンチに閉じ込めたことになる。
今回の作戦はレティによってカタリナの捕縛を演出すること。
アーティファクトを使わないため60隻に取り囲まれるのは明白だった。
力技で強奪はどうしても時間が足りない。
ならば一度捕まった上で、ディラマ兵をネコパンチに閉じ込めることがその狙いだった。
レティほどの実力者が居なければ捕縛されるのも不自然であり、カタリナを捕まえる役としてはレティが適任だったのだ。
「よし、これで作戦の最終段階、一番のサプライズ、強奪フィニッシュに行こうかしら?」
ミネがその時、ふと指を止めた。
「お父さんだったらどうしたかな?もっとサプライズを仕込んだはず。カタリナ様風味をしっかりと出して。ふふふふふ。」
急に笑い出して、遠隔でポンコツネコパンチに命令コードを送信した。ネコパンチ内の人工知能が命令を実行する。
船長室の宝の山を前にしてエルジェン中将が興奮気味に目を輝かせている。
兵士達がおすそ分けを受け取ろうと、おしくらまんじゅう状態だった。
そんな中、急に艦内が暗くなり赤色灯が点灯、非常放送が鳴り響いた。
「緊急事態、緊急事態、当艦は30分後自爆します。
当艦は30分後自爆します。総員退避せよ!総員退避せよ!」
ネコパンチに乗り込んでいたディラマ兵達が大混乱になった。
ミネはその情景を想像して鼻で笑う。
「さて、次がこの作戦の最大の秘策よ!」
依然として60隻に囲まれた圧倒的不利は全く覆っていない。
この状況を打ち破る最大の秘策……ミネがメインコンピュータを操作し実行した!
…ここまでお読みいただき、ありがとうございます。ミネ・シャルロットです。
どうでしたか?私のサプライズは。
作戦会議でカタリナ様が反発したのは、想定内でした。ですが、彼女のその反発すらも、私の計画の一部でした。彼女が怒り、拗ねてくれたおかげで、作戦はより自然に進行したのです。…ふふ、彼女は最高のキャストですね。
レティ准将も、最高のキャストでした。彼女の真面目さ、そして正義感が、今回の作戦には不可欠でした。彼女がカタリナ様を「捕まえる」という役を完璧に演じてくれたおかげで、私はディラマ兵を無力化することに成功しました。
すべては計画通りに進みました。
私の技術と、カタリナ様の戦闘力、そしてモカ様と団員達の協力が、この奇跡的な作戦を可能にしたのです。
もちろん、お父さんが残してくれた「虚構の物語」というヒントがなければ、この作戦を思いつくことはできませんでした。
私はもう、お父さんの代わりになろうとは思いません。
私は私として、お父さんの物語の続きを紡いでいくだけです。
さて、残るは、この圧倒的な包囲網をどうやって突破するか、ですね。
そして、カタリナ様とレティ准将の一騎打ちの結末。
これは、まだお伝えできません。次の話でのお楽しみに。
…もし、この状況から脱出する方法を思いついた方がいらっしゃいましたら、ぜひご意見をお聞かせください。
では、また次話でお会いしましょう。




