第3話 出航しちゃっていい?
宇宙港に降り立った三人の少女の姿は、周囲の誰の目にも止まらなかった。
貴族の娘が、珍しく宇宙港に遊びに来た、それ以上でも以下でもない、ありふれた光景だった。
だが、彼女たちの内心は、これから始まる**"略奪"**に胸を躍らせていた。
「この宇宙港って、結構ゴキブリが多いみたいですね」
ミネがどこか遠くを見つめながら、静かに呟いた。
彼女の視線は、周囲のゴミ箱やメンテナンススペースのわずかな隙間を警戒している。
こういう時のミネは口数が少ない。
「あら、大丈夫よミネ。
私たちがこれから向かうのは、この宇宙港で一番美しい船がある場所。
汚い虫なんていないわ」
カタリナが優雅に腕を組み、言い放った。彼女の視線の先には、ホログラフに表示されたコルベット戦闘艦の停泊場所を示すマーカーが点滅している。
途中、派手に装飾された船を見かけた。
「これ……。あの伯爵のじゃない?」
それを見てモカの表情が曇った。
「モカが帝都の士官学校の入試で歴代最高得点取ったのに、
裏金積んで、モカのこと不合格にした奴だよな?」
カタリナも徐々に不愉快そうな顔になる。
「自分の息子を主席にしたいとか、つまんねー理由でさ!」
「おねーちゃん、やめてよ!思い出すだけでムカつくのに。」
「あー、ごめんよ。」
カタリナが申し訳なさそうな顔をした。
そして、すぐにしょうもないことを思いついた顔に変わる。
「じゃあ、おねーちゃんが復讐として、
この船に”バカ”って落書きしとく。
私も海賊だから、ちゃんと悪行しないとね!」
ゴキブリを恐れて口数少なかったミネが、思わずツッコミを入れる。
「いや、悪行というか、それ、子供のいたずらレベル!」
「許す!書いちゃえ、おねーちゃん。」
普段はツッコミ役になるサクラモカが背中を押す。
ミネはうつむいて首を振った後、諦めて頷いた。
「………やっちゃえ、カタリナ様。」
バカと落書きした直後に、遠くから何か叫びながら走ってくる整備員を見て、3人は一目散に逃げ出した。
・・・
・・
・
目的地に到着するやいなや、カタリナの表情が凍りついた。
そこには、先日カタリナに財布を盗まれた傲慢な商人の男が、部下らしき男たちを多数引き連れて立っていたからだ。
「貴様ら、よくも俺の船に近づいたな!この下品な野良猫どもが!」
男はカタリナの姿を見るなり激昂し、口汚く罵った。
男の後ろには、銀色の流線型を描く美しいコルベット戦闘艦が停泊している。
カタリナは男の罵声には耳も貸さず、その船に釘付けだった。
とはいえ、男がカタリナの肩を掴んできたことで、否が応でも現実に戻された。
「あら、どちら様でしたっけ?」
カタリナは額に青筋を立てた商人を睨みつける。
「ん~あなた、顔面偏差値23ですわね。わたくし、60以上の方しか記憶に残りませんの。」
心配そうにサクラモカが呟く。
「おねーちゃん、ここは挑発する場面じゃないと思うなー?」
サクラモカを無視し、カタリナは額に青筋を立てた商人の腕をひねり上げ、尻を蹴り飛ばして吹っ飛ばした。
そして再び宇宙船を見惚れた。
「…なんて美しい。この船、まるで、私のために作られたみたいじゃない」
カタリナはそう呟き、レーザーブレードを構えた。
怒り心頭で立ち上がった商人が部下たちに襲いかかるよう命じる。
30人はいるであろう海賊達が一斉にレーザーカットラスを起動させた。
分厚い刀身が一斉にカタリナに襲い掛かった。
しかし、カタリナは一切の血を流すことなく、まるで優雅な舞のように部下たちの攻撃をいなし続けた。相手の武器をかわし、その動きの勢いを利用して突き飛ばす。まるで、遊んでいるかのようだ。
だが、すぐにカタリナは飽きてしまう。
「つまんない。もう終わり!」
今までから一段ギアを上げたような足で海賊達一人ひとりに詰め寄ると、カットラスの刀身と柄のちょうど境目を切断していく。
レーザーカットラスは火花を散らしてかき消えた。
海賊達は火傷を負い手を押さえて蹲っていく。
「な・・な・・何者だ、お前!!」
商人が焦って叫んだが、その途端にカタリナが詰め寄ってブレードの先端を顎の手前にかざした。
「何者って、赤毛猫海賊団のカタリナ様よ!」
「ん?赤毛猫海賊団??」
不思議そうにサクラモカとミネも近づいてくる。
二人とも、一瞬で脳内を駆け巡った思考は同じだった。
(今、名前決めやがった……)
「聞いたことねぇ海賊団だな!!だが、覚えたからな!
俺達に逆らったこと後悔させてやる!」
「うっさい。顔面偏差値18!」
「23だったはずです。」
冷静にミネが突っ込んだが、そう言い終わる前にカタリナが、レーザーブレードを男の服に向けた。
パサパサパサッ、と見事な速さで切りつける。
一瞬の後、男の服はみじん切りで、完璧に裸になってしまった。
サクラモカはいつも通りカタリナの剣技をうっとりしながら見つめていたが、その目の前に男の汚い裸が現れた。
「ぎゃあぁあぁあぁああ!!!」
サクラモカの悲鳴が響いた。
「おねーちゃん、何するの!!汚いもの見せないでよっ!!!」
その瞬間、サクラモカは震えながら、怒りのアッパー気味の掌底をカタリナの顎にクリーンヒットさせた。
完璧なタイミングと威力で繰り出された一撃に、カタリナは信じられないほどの呆けた顔をして、そのまま倒れ、失神してしまった。
「お、おねえちゃん!?」
サクラモカは青ざめ、慌ててカタリナを背負った。
ミネが冷静に敵の状況を確認し、サクラモカに指示を出す。
「モカ様!敵の援軍が来ます!急いで船へ!」
二人は、意識を失ったカタリナを背負いながら、襲い来る敵をかわし、何とかコルベット戦闘艦に乗り込んでハッチを閉めた。
艦内に乗り込んだものの、動かし方がわからない。サクラモカは焦り、操縦席でボタンをむやみに押し始める。
「どうしよう!?動かないよ!?」
敵の追撃が迫り、絶体絶命の状況。
その時、ミネが携帯タブレットをフリックして、サクラモカに見せた。
画面には、**「軍船運行ライセンス3級」「船舶構造技術士2級」**など、数々の資格証明書がずらりと並んでいた。
「大丈夫です。私、資格マニアですから」
ミネは淡々と告げ、操縦席に座ると、まるで自分の船のようにシステムを起動させていく。
「何だよそれ!聞いてないよ!」
サクラモカの叫びも虚しく、ミネは指先で複雑なコマンドを次々と入力していく。システムが起動すると、敵が船体に乗り込もうとしてくる。
「モカ様、敵が来ます!下部タレットで迎撃を!」
サクラモカは言われるがままに下部タレットに乗り込み、敵をめった撃ちにした。しかし、その銃弾のほとんどが、虚しく宇宙港の地面に吸い込まれていく。
「なんだよこれ!全然当たらないじゃん!」
それでも、無数のレーザー弾が飛んでくる様子に敵がひるんだ隙に、ミネはコルベットを浮上させた。そのまま軍港から離脱し、外部エンジンを最大出力で噴射する。
「うおおお!速い!速いよ!」
サクラモカが興奮気味に叫ぶ。コルベット戦闘艦は、あっという間に大気圏を離脱し、越えたところで外部エンジンを放棄した。
「すごい!私、こんなすごい船を操縦できるなんて!」
ミネが初めて感情を表に出して喜んだ。その横で、カタリナがようやく目を覚ます。彼女は船内をきょろきょろと見渡し、状況を理解すると、満面の笑みで二人に駆け寄った。
「やったわね!私の船だ!」
しかし、その次の瞬間、彼女の表情は一変する。
「……ところで、艦の発進、誰がやったの?」
ミネが「私がやりました」と答えると、カタリナは床に転がり、地団駄を踏んで叫んだ。
「えー、処女航海の発進の命令は、私が言いたかったのにー!!」
こうして、三人の少女の記念すべき「最初の一歩」は、カタリナの不満と、二人の呆れたため息と共に幕を下ろすのであった。
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あとがき
…ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
副団長、兼執事補佐のミネ・シャルロットです。
今回の騒動は、私の計算外でした。
まさか、カタリナ様があそこまで馬…コホン…無茶な行動に出るとは。
鼻くそだとか鼻毛だとか、非科学的な言動から始まり、挙句の果てには失神するとは、データにもありませんでした。
サクラモカ様の一撃も、予測できません。
この艦を動かすことになったのも、想定外の事態です。
でも無事に船を入手しましたし、終わりよければ何とやらですね。
ちなみに、私はただの資格マニアではありません。
いざという時に、お嬢様方のお役に立てるよう、様々な知識を身につけているだけです。
コルベットの操縦くらい、3歳でお父さんから教えてもらいました。
……嘘です。
この後も、不測の事態は続きます。
私も、全力でサポートにあたります。
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もし感想をいただけたら、こっそり私のお気に入りの資格について語らせていただきます。
それでは、また次回。
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