第24話 お土産買って帰ってもいい?
サクラモカが訓練施設に顔を出した。
郊外の廃校を買い取って施設として活用しているようだが、外観のおんぼろさとは裏腹に中の設備はしっかりしていた。各教室では、基礎教育から、メカニックや経理、果ては軍学まで。座学に加え、運動場や体育館ではスポーツに見せかけた格闘技訓練、銃撃、剣技までしっかりと行っている。
おそらくコタが選んだ人材だ。彼らの素質はお墨付きだろう。
裏にはボロボロながら大きな寮や食堂、売店があり、衣食住は充実している。
個室からトイレまで、ボロ寮の内部はコタ流リフォームによって快適空間へと変わっていた。
寮の食堂では料理副大臣のミケが栄養価たっぷりの料理で寮生にとってのしっかりママさんに収まっていた。
「凄いな・・・。みんな若いけど、活気とやる気がみなぎってる。すぐに実戦に投入できそうなのもいるね。さすがコタ。」
頷きながら、サクラモカは辺りを視察していた。
「あ、副社長!ようこそお越しくださいました!」
一人の男の子がビシッと挨拶した。引き締まった程よい細マッチョぶりで整った顔立ち。
サクラモカはにこやかに笑顔で手を振って応えた。
「うん、さすがコタ!精鋭揃い。」
さっきよりも力強くコタを絶賛した。
最後に指導役の赤毛猫海賊団団員――教育職員免許持ち大臣のニーナと話す。
コタが組んだカリキュラムを団員達がしっかりと実践していて、文句のつけようがなかった。
二か月後、200人ほど団員が必要になる旨を伝えて、優秀な者から順に合流できるよう、準備を急がせた。
念のため、会社の方にも顔を出して、専務大臣の団員と話をした。
時々アルバートのわがままが鬱陶しいようだが、それ以外は彼女らに任せておけば特に問題はなさそうだった。
「お父さん……。」
アルバートがわがままを言った際に一言凄むだけでそれも解決した。
実質、自身は何もする必要がなく、時折視察する程度で済んだ。
暇を持て余したサクラモカは既存の団員や、訓練施設の若手を連れて、ネコパンチ号で悪党狩りを繰り返した。これがサクラモカの統率訓練にもなり、また団員の経験値にもなった。
時折届くコタからの荷物、それを受け取ってはコタ助手大臣の団員達に受け渡していく。
「コタも元気そうでよかった………。」
留守番側は着々と準備を進めていった。
一方、帝都では。
遊びまくっていた。
それこそ遊びまくっていた。
何度でも言う。遊びまくっていた。
整形外科での傷の治療は神聖帝国の最新医療技術によって原理はよくわからないが嘘のように傷跡が消えた。あれほど大騒ぎしたが、本当にきれいに消えて、カタリナは”骨折は意外と軽傷で2か月もあれば完治する”という診断の100万倍喜んだ。
それからはミネのリサーチ力による美味しい物巡りや、ミネに付き合っての怪しい物(オタク的な意味)買いなど、楽しいことに日々明け暮れた。
帝都にはそれらのネタは尽きないほどあったためだ。
骨折も治り、体重が●kg増えかけたところで、サクラモカからの連絡が入った。
コタから準備が整いつつあると報告があり、決行の日時も決まったというのだ。
気付いたら2か月超、遊び惚けていた。
仕方なくアジトへ戻る準備を行う。
「カタリナ様、モカ様に何もお土産を買わないのですか?」
「あっ!?」
「忘れてましたか?」
「んなわけない、んなわけない。今から買いに行こう。」
困った顔をしたミネだったが試しに聞いてみた。
「忘れてましたね……。ちなみにモカ様の好みとか分かってるんですか?」
「………。私はクールでカッコイイデザインが好きだなぁ。」
「いや、カタリナ様の好みではなくて……。知らないんですね??」
「……。だって、モカ、そういう話してくれなくて!」
「モカ様は可愛い系が好きです。」
「え?そうなの?そんな感じには見えないけど。」
ミネが勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
「カタリナ様、以前モカ様の貯金箱から金貨を盗んで部屋を出禁になりましたよね?すごいゴツイ鍵を3個も付けられましたから。そこからモカ様の部屋に入ってませんよね?」
「ほんのちょっと借りただけなのに、あの仕打ち…。」
「あの後のモカ様の部屋、ベッドの周りとかシープンで一杯ですよ。」
「シープン?」
「知らないんですか?緩い感じにだらけた羊、シープンです。結構人気ですよ。モカ様はグッズも集めておられます。これです。」
「へぇ・・・。こんな可愛いのが好きなんだ?で、何でそれをミネが知ってるの?」
「フフフ…。たかがあんな鍵3つ付けた位で……。キーピックで開けていつも掃除しています。放っておくとGが湧くので……。」
「………。」
「ちなみに、モカ様のルームウェアはこれです。シープンコラボのこれでいつもお休みになっています。」
「わーお、我が妹ながら、モカ、可愛いなぁ。で、何でその写真をミネが持ってるの?」
「フフフ…。私はG対策のため、お父さんの部屋以外の全室に隠しカメラを仕掛けてあります。」
「……。」
滅茶苦茶渋い顔をしているカタリナを置いてミネが歩き出した。
「さぁ、買い物に行きましょう!」
帝都で有名な高級デパートに到着した。
「帝都限定のシープンとかあるのかな?」
カタリナがノリノリで店を歩いている。そこで急にミネが立ち止まり、カタリナの袖を引いた。
「ん?ミネ、どうした?」
ミネがゆっくりと指さした先には、最近発売された最新型レーザーウィップが展示されていた。
それは最新モデルと有名デザイナーのモエール・デザーンイ氏がコラボした帝都限定モデルだった。
持ち手が赤地に控えめなピンク色の羽が施された少し可愛げのあるデザインのウィップ。
「ん?ちょっと子供っぽい。」
カタリナが華麗にスルーする。
「待ってください、カタリナ様!モカ様はこういう可愛いデザインが好きなんです!それに今、レーザーウィップが欲しいとおっしゃっていました。まさにこれです!!」
何かに気づいたように目を輝かせるカタリナ。
「そっそうだ!これだ!これはモカが喜びそう!!」
「でも、少々お値段しますね。」
ミネが冷静に価格を読み上げる。
「カタリナ様、お父さんからもらったお小遣いは残っていますか?申し訳ありませんが私は(秘密道具を買うために)使い切ってしまいました。」
「私もとっくに使い切ったよ。」
「……。じゃあダメですね。これよさそうなんですが。」
カタリナが自慢気にクレカを一枚取り出した。
「あれ?カタリナ様は信用ないのでカード作れないはずですが。」
ニッコリ笑う。
「これ、モカの。あの子、しっかり者に見えて意外と雑なのよね。年会費無料だからって沢山カード作るくせに管理できてないの。これで買うわ。」
「……。モカ様へのプレゼントをモカ様のお金で買うんですか?」
カタリナは聞いていない。さっそく店員を呼び寄せ、購入していた。
「………。カタリナ様、クセ強すぎです。」
ミネの控えめなツッコミも空しく、カタリナはモカへのプレゼントを確保した。
「良いの良いの。これは絶対モカ本人も欲しかったと思う奴だから。オンラインで見つけても絶対即ポチ買いしただろうさ。代わりに私が買ってあげただけ!私はただ、妹に笑顔を届けるために生きてる──そう、ただの”愛の配送業者”さ!」
二人は意気揚々とアジトへと帰還した。
…ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
執事補佐のミネ・シャルロットです。
カタリナ様と帝都で過ごした二ヶ月は、私にとって非常に有意義な時間でした。
もちろんカタリナ様に喜んで頂けたことが一番なのですが………私は私で色々入手できました。
ウフフフフ……ウフフ……都会は良いですね。
さて、今回の帝都滞在では、カタリナ様の美学、そしてモカ様の好みが明らかになりました。
カタリナ様は「自分の美学は誰にも理解されなくていい」と仰いますが、その根底には「妹を喜ばせたい」という、非常に分かりやすい願望があるようです。
そして、モカ様。
普段はクールでしっかり者の副団長ですが、実は可愛らしい「シープン」のぬいぐるみを集め、シープン柄のパジャマを愛用しておられます。これは、私の隠しカメラ…いえ、データ収集によって明らかになった事実でございます。
お土産に選んだレーザーウィップも、モカ様を喜ばせるには最適でございました。
カタリナ様の行動は、一見すると無茶苦茶で、他人のクレジットカードを使うなど非道徳的な部分もありますが、その結果としてモカ様が喜んでくださるのならば、私に異論はございません。
すべては、お嬢様方の笑顔のため。それが私の使命でございます。
アジトでは、サクラモカ様とお父さんが着々と準備を進めているようです。
私達も、今後は本格的に作戦の準備に取り掛かります。
弩級戦艦強奪まで、もう間近。どうぞご期待ください。
【執事補佐ミネより、データ提供のお願い】
カタリナ様の「美学」を銀河に証明するためには、客観的なデータが必要です。
この作品の真の価値(人気)を計測する唯一の方法が、**皆様の「ブックマーク」と「評価ポイント」**にございます。
最高の戦果を得るため、データ収集にご協力いただけませんでしょうか?
皆様の「ブクマ」と「評価」こそが、この物語の「人気データ」となります。
…最後に、一つ、秘密を。
もし感想という形でデータをご提供いただけましたら、私の隠しカメラ…いえ、データの中から、モカ様の可愛らしい姿をお見せしましょうか?もちろん、モカ様には内緒ですよ。
あまりないとは思いますが、カタリナ様のでもいいですよ?
それでは、また次話でお会いしましょう。




