第22話 地獄に行ってもいい?
資金調達が完了したことで、コタが遂に弩級戦艦強奪案を披露する。
カタリナ達3人の他に、序列的に一軍に配されている団員たちが全員集った。
コタがゆっくりとその全容を話し始めた。その実態とは──。
ド・ラ・ヴァル侯爵の私設艦隊イリブラは60隻を超えるであろう大艦隊で、この艦隊には弩級戦艦含め、戦艦や空母も含まれる主力艦隊級の陣容を誇っていた。まともに戦えば、10000回挑戦しても全て大敗する。それほどの戦略差だ。かつてサクラモカがスナック菓子を投げつけて鉄の扉をぶち破るものだと例えた。それはあながち間違っていない表現だった。
それをコタは覆すと言う。
コタはカタリナの方を向いて、穏やかに問いかけた。
「確認します。必要なのは弩級戦艦のみですね?」
「もちろん、それさえ手に入れば今の所は他はいい。」
コタはそれを聞いてニッコリと微笑んだ。
「それならば、強奪可能です。これを購入します。」
ホログラムが表示される。一隻のボロボロなポンコツミサイル巡洋艦だ。
確かにネコパンチ号よりは強そうだが、これでもスナック菓子がゴムボールになった程度だ。
「これでどうやって?」
皆が不思議な顔をした。
そのホログラムをタップすると装備が表示される。一発の大型ミサイル。
「反物質ミサイルにございます。」
前宇宙時代以前、核ミサイルという抑止武器が存在したが、その二世代後継の超火力兵器だ。反物質崩壊エネルギーを利用しており、その威力は核ミサイルと比べるべくもない。
強国の主力艦隊の一部にしか配備されないような、国家最強級の武器だ。まさかこんな弱小海賊が保持するとは夢にも思わない。
「これを用います。宇宙空間での使用です。主に放射線による機器故障、ならびに乗組員の体調に直撃させます。弩級戦艦ほどの分厚い装甲ならおそらく機器故障に至らず耐えられますが、他の艦船は空母であろうが戦艦であろうが、まともに動けなくなるでしょう。
混乱が生じた所で、こちらはコルベット10隻に定員いっぱいに乗せた300人で弩級戦艦に突撃します。乗り込んで白兵戦で制圧するのです。
これをご覧ください。お嬢様にはご理解頂けないかもしれませんが、男のロマンです。」
コルベット10隻は先端がドリルに魔改造されていた。
カタリナは目を輝かせた。
「わかる!!カッコいい!!」
「これで弩級戦艦の随所に突き刺さります。ドリルは停止後に開閉し、中に侵入できます。その後団員は防護服を装着して突入。睡眠ガスを散布します。カタリナ様は艦橋に突入して、制御を奪ってください。おそらく放射線の一撃で敵クルーは弱り切っているでしょう。そこに睡眠ガスを放出したらもはや動きはとれません。その後、最大船速で離脱します。敵クルーは300人ほど居るでしょうが、生体センサーを使って全て見つけ出し、除染しながら脱出ポッドに押し込んでイリブラの他の艦に向けて放出しましょう。」
コタは、団員たちの質問も受け付けずに最後まで言い切った。
皆が黙り込んだ。
まさかの反物質爆弾の使用………誰もが予想の斜め上に裏切られた。
だが、間違いなくほぼ無傷の弩級戦艦を安全に入手できるであろう。
「カタリナ様、いかがでしょうか?」
カタリナは真面目な顔でしばらく考え込んでいた。だがすぐにいつもの笑顔に戻る。
「コタ、やっぱり期待を裏切らないな!これならば手に入りそうかも?モカはどう思う?」
「……成功すると思う。」
「フフ、決まりね。準備はどれくらいかかる?」
コタはあらかじめ計算していたようにしっかりと答える。
「ひと月……それだけあれば準備は整います。」
「分かった、各自、この作戦で行く。私達はこの一ヶ月、療養のために帝都に向かう。コタには全力で協力してあげて!」
「おぉう!!」
団員が一斉に返事した。
・・・
・・
・
その夜、屋上でカタリナは一人で空の星を見上げていた。
「お嬢様、眠れませんか?」
「あ、コタ。そうね。弩級戦艦が手に入るかと思うと興奮が止まらない。」
「……私の前では強がらなくても大丈夫ですよ?」
コタが優しくカタリナに語り掛けた。
「そう……。コタには敵わないなぁ。
ねぇ、コタ。何人死ぬかな?」
「そうですね。2000人以上は殺してしまうかもしれませんね。」
「彼らもさ、民間人じゃないのは救いだけど。
でもさ。家族や恋人………居るよね?」
「居ますね。……この作戦取りやめますか?」
「いや、やる。やると決めた。でも、爆弾のスイッチは私が押す。モカやミネには絶対にやらせない。」
「お優しいですね。」
「優しいのはあの子達だよ。
私のために一生懸命頑張ってくれてる。
地獄に行くのは私だけで十分。
私はね、生きてる間に目いっぱい楽しんで、素直にこの責任を、背負って地獄に行くよ。」
「……。カタリナ様、私の方が寿命で早くあの世に行きます。
私にお任せください。
先に逝って地獄を快適な場所に変えておきます。
お一人で行かせはしませんよ。」
「あっそうだ!!」
コタがカッコいいことを言ったのにカタリナが大声で被せた。
そして胸元からX字型に猫耳が付いたような飾りのネックレスを取り出した。
これは精神主義国家であるニャニャーン神聖帝国民ならだれもが持つ信仰の証。
ニャーン達がニャーン神に祈りを捧げる時に握るもの。
カタリナはこれを取り出して、外に投げ捨てた。
「私、無信教になるわ!
地獄もニャーン神が作ったんでしょ。
これで平気!死んでも怖くない!」
乾いた笑顔をコタに向けた。
「カタリナ様……。」
「コタ、あんたにはモカとミネを任せたよ。
死後の楽園とやらで最高級の生活をさせてあげて。
余計なこと考えなくていいからね!
それよりも、帝都では美味しいものも食べたいからよろしく!!」
カタリナがそのまま自室へ向かって歩き出した。
コタは代わりに星空を見上げた。
考え事をしていたコタだったが、急に袖をつままれたのを見て振り返った。
モコモコの羊モチーフの可愛いパジャマを着込んだサクラモカが居た。
「モカ様、聞いておられたのですか?」
そのまま背中からサクラモカが抱き着いてきた。泣いているようだ。
「コタ、無理を言うよ。
反物質爆弾を使うのはやめよう。別の何かを考えよう。
もし、もっとお金が要るなら私が頑張る……。
おねーちゃんを地獄になんて行かせない。」
(……この姉妹は…まったく。)
コタは優しく微笑んだ。
「承知しました。このコタにお任せください。
コタに不可能はございませんので。
弩級戦艦ごとき、このコタに任せていただければ入手する方法などは一つや二つではありません。
ですが、モカ様にはもう少しお手伝いいただいても良いですか?」
モカの表情に明るさが戻る。そして黙ってうなずいた。
「おねーちゃんに怪しまれないように帝都行きを断らないとね!
おねーちゃん、あーみえて、勘だけは鋭いから。」
翌日。
「おねーちゃん、私、やっぱり帝都には行かない。」
「え?なんで?帝都、楽しそうじゃん!」
「温泉やだ!おねーちゃんと温泉行くと憂鬱な気分になる。」
そういうとモカは自分の胸をぎゅっと握った。
「あら……やだぁ……そんなのコンプレックスにしてたの。モカ、意外と可愛……ぶへ」
言い切るよりも前にモカの掌底がカタリナの顎を打ち上げた。
「い……痛いって!加減しろ、妹!」
「いいからミネと二人で行って!アジトを守る人もいるでしょ!!」
少しだけ、サクラモカを眺めていたカタリナだったが、妹のアジトを守りたいという責任感と受け取ってこれ以上無理強いするのをやめた。
「分かった。
じゃあ、おねーちゃんと離れ離れになってもさみしがって泣いちゃだめだよ。
メールは1日1回までね。返信が面倒だから。」
「なんかムカつくな。さっさと行け!」
「はいはい、じゃあ行ってくるよ、アジトは任せたからね!」
カタリナの姿が見えなくなってからサクラモカは気合を入れた。
「よしっ!やるか!」
コタのもとへ急いで駆け出した。
…皆様、お読みいただきありがとうございます。再び執事のコタでございます。
この度は、弩級戦艦強奪の作戦概要をお披露目いたしました。皆様、ご不安に思われたかもしれません。ですが、ご安心ください。弩級戦艦を無傷で手に入れる、これ以上の策はございません。
反物質ミサイルの使用につきましては、カタリナ様もサクラモカ様も、それぞれのお考えを持っておられました。カタリナ様は犠牲を厭わず、自らその責任を負おうとなさいました。そして、サクラモカ様は、お姉様を地獄へは行かせまいと、私に別の策を求めてくださいました。
この姉妹の優しさ、そして深い絆。私には、これほど嬉しいことはございません。
しかも、私の「地獄を快適にする」という言葉を、カタリナ様は無視されました。
それはこの私めさえも気遣っていただけたということでしょう。
カタリナ様はそういうお方です。誤解を受けやすいのですが本当にお優しい方なのです。
それゆえに、私はこのお二方のために命を賭けてでもお仕えする気が起きるのでございます。
私に不可能はございません。お嬢様を地獄になど行かせません。そして、お嬢様が大切になさっているモカ様、ミネ様も。弩級戦艦を、皆を傷つけることなく入手する方法は、一つや二つではございません。そのための準備期間をいただくため、帝都での療養を提案いたしました。
この先どんな困難が待ち受けようがお二方の優しさが私の背中を押します。
万に一つも失敗する気がいたしません、またも皆さまの度肝を抜いてご覧に入れます。
そういえば、モカ様の「胸のコンプレックス」発言。あれは、お嬢様を説得するための嘘でございます。私には、その目的が手に取るようにわかります。なんとお優しいお方でしょうか。
モカ様はとても理想的なスタイルをお持ちで魅力的な方なんです。コンプレックスなどあろうはずがございません。
さて、お嬢様はミネと帝都へ向かわれました。私とモカ様の二人で、今から弩級戦艦を強奪する準備を始めます。どうぞ、これからの展開にもご期待ください。
もし、お二方の姉妹愛に感じ入ることがございましたら、感想やブックマークをお願い致します。
そうすると私もやる気になって、弩級戦艦強奪に関して凄い方法を思いつくかもしれません。
それでは、また次話でお会いしましょう。
【執事コタより、切なるお願い】
カタリナ様の優しさ、そしてモカ様の献身に心動かされた読者様へ。
この二人の想いを実現させるためには、銀河中の皆様からの応援が必要です。
**どうか、この物語を「面白かった」「続きを応援したい」と感じてくださったなら、わずか数秒で構いません。「ブックマーク」と「評価ポイント」**をくださいませんでしょうか?
皆様の「ブクマ」と「評価」こそが、カタリナ様を地獄から遠ざけ、この物語を多くの方に届けるための、唯一の力となります。
(そして、もし感想をいただけましたら、お嬢様達がハロウィンコスプレをしていた時の写真をこっそりお見せしますね。)
それでは、また次話でお会いしましょう。




