第18話 本気出してもいい?
バルザックは巨大なレーザーブレードを携えて、カタリナが部屋に飛び込んで来るのを待ち構えていた。
カタリナの到着を確認すると、不敵な笑みを浮かべている。
「ごきげんよう、バルザック!
赤毛猫海賊団のカタリナよ!
お前の船もお前自身も頂きに来た!」
「赤毛猫海賊団か、少し噂を聞いた。
なるほど。噂通り、美人だな。」
男はニヤリと笑う。顔に大きな傷跡が刻まれた、渋くてワイルドな男。セレスが言った通り、なかなか良い男だ。
「だが、まさか女一人で俺の元に来るとはな。
いい度胸だ。」
「うるさい!
とっとと悪党は観念して、降伏しなさい。
軍に引き渡すとお前、コルベット10隻分の価値があるんだから!」
カタリナがレーザーブレードを構える。バルザックも、それに合わせて自身のレーザーブレードを構えた。
「いいだろう。その自信、俺が叩き潰してやる。」
バルザックが踏み込み、一気に間合いを詰める。カタリナはそれを冷静に見切り、双刀で応戦する。
ピシッ!ピシッ!ピシッ!
まるで花火が打ち上がるような軽快な音とともに、カタリナの双刀がバルザックを襲う。その攻撃はまるで雨霰のようだ。一太刀ごとに、バルザックの顔の前に、胸元に、腹に、まるで千本の針を突きつけるかのような高速の連続攻撃を繰り出す。バルザックは、その全ての攻撃を防御するだけで精一杯だった。
「ひゃっはぁ!どうした!その大きな体は、飾りか!?」
どっちが悪党か分からないような言い方で、カタリナはバルザックを嘲笑う。
彼のブレードは、まるで防御専門の盾のように、カタリナの攻撃を弾き続ける。カタリナの剣さばきは正確無比で、バルザックは反撃する隙すら与えられない。カタリナの双刀は、彼を完全に圧倒していた。
外の乱戦では赤毛猫海賊団の勝利が見えてきたため、後を団員たちに任せてサクラモカとミネが広間に突入してきた。
「余裕そうね。」
サクラモカが安心したように呟く。
その隣には、いつでもカタリナをサポートできるように、ミネが様々な道具を詰め込んだ秘密のポケットをまさぐっていた。
カタリナの攻撃は続く。彼女は、相手を圧倒する二刀流で、バルザック一方的に押し続けていた。いつものように、サクラモカがうっとりするようにその美しい剣舞に見惚れている。だが、その一撃は、なぜかどれも決定打にならない。
その時、バルザックが初めて余裕の笑みを浮かべた。
「お前は強い。それにまだまだ成長期のようだな。底知れぬ素質を感じる。」
バルザックは、カタリナの攻撃をいなしながら語りかける。
「だがな、まだ甘い!」
バルザックが初めて反撃に転じる。たった一撃。その重い一撃は、カタリナのレーザーブレードを大きく弾き飛ばす。両手で受け止めるのが精一杯で、片手では受けきれない。
「やはりお前は女よ、一撃が軽い。
その速度は褒めてやる。だが経験不足だ。
パターンが少なく、見慣れたら簡単に読める。」
バルザックの言葉に、カタリナは動揺する。
彼は、カタリナの動きを完全に読み切っているかのように、彼女の攻撃を捌き、逆にカウンターを繰り出してくる。
「いくら速度を上げても無駄だ。
お前はワンパターンだ。どうせ我流の剣術だろう。」
「うるさい!」
苛ついたカタリナがもう一段ギアを上げて高速で切りかかるが、それも防がれる。
「別に我流を馬鹿にするわけではない。言うならばお前は修行不足だ。
15年戦場に立ち続けた俺には通用せん。」
初めてカタリナの顔に焦りが見えた。
「おねーちゃん!」
サクラモカが叫ぶが、カタリナが手で制止する。
カタリナは眼帯を取り外してポケットにしまう。
「見えにくい!こっからが本気だ!」
「あっはっは!その眼帯は飾りか!
とことん海賊を舐めた奴だな。
お前のおままごとに付き合わされる俺の身にもなってくれ。」
「うるさいうるさい!
昔っから眼帯外したら覚醒するって中二の世界じゃ決まってんだよ!」
「はははは!!俺は海賊だ。
お前の遊びに付き合い続ける気はないぞ!
ライバルになるかもしれん奴の成長を待つほどお人よしではないからな。
今日、この場で必ずお前を殺す!覚悟しろ!」
本気の連撃でカタリナが切りかかるが、バルザックは余裕をもって対処した。
「お前達は姉妹だそうだな。
お前はここで殺すが、安心しろ。妹は生かしておいてやる。
お前の仲間が俺から船を奪ったと聞いたぞ。
人質は必要だからな!
だが、俺の部下達がお前の妹をどう扱うかは知ったことじゃないぞ!くくく。」
カタリナの逆鱗に触れる。
「この……ゲス野郎が!!!」
さらに一段ギアが入った。カタリナの渾身の一撃が目にもとまらぬほどの速さでバルザックに襲い掛かった。バルザックは狙われた腕に力を入れた。筋肉が異様に膨らむ。
びしぃぃぃぃ。じゅぅぅぅ。
この時代、ある程度資金のある戦士達は、陸戦用に個人向けシールドコンデンサをベルトに装着している。一定のレーザーブレードの斬撃も筋肉の動きに連動してシールドが干渉し、切れ味を弱める。
レーザーブレードがバルザックの腕を焼くが、切り落とすまでにはいかなかった。
痛みは感じているようだが、そのままカタリナの首を掴み勢いよく放り投げた。
ガンッ!
「かふぅぅ……」
壁にたたきつけられて、肺の空気を吐き出した。
よろけながら立ち上がる。
「怒りで力を倍増させたか?
だが、軽い!軽い!お前の一撃では俺には効かんぞ。」
「おねーちゃん……!!」
眼に涙を溜めてサクラモカが叫ぶ。
サクラモカの方を向き、笑顔で応える。
おねーちゃんは大丈夫だよ!
そう伝えたかったが、カタリナは声が出なかった。
何度か剣を切り結ぶが、カタリナは一振りごとに体勢を崩さないようにするのに必死だ。バルザックが渾身の一撃を大きく振り抜いた。双刀で受け止めるが、そのまま弾かれてカタリナは万歳した状態になる。そこにバルザックが一歩踏み出して右足で強烈な蹴りを繰り出した。
「しまった!」
神懸った反射神経でカタリナは左手を引き戻し、受け身を取る。
ごきゅっ!
嫌な音とともにカタリナは吹き飛んだ。左手のレーザーブレードはカタリナとは反対方向に飛んでいき、くるくると回転している。三回転した後カタリナは転がりながらも膝をたてたが、痛みで顔が歪んだ。
左手がぶらんと垂れ下がった。骨が折れている。
「カタリナ様!」
ミネの秘密のポケットから小さなバンドを取り出してカタリナに投げた。カタリナは右手のレーザーブレードを床に落としつつ、それを受け取り骨折した左腕にはめる。鈍い音とともにそこからクッション状のものが広がって腕を固定した。応急ギブスだ。これにより、激しく動いたとしても骨の状態を悪化させない。
「ミネ、ありがとう。」
痛みに顔をゆがめながら、ブレードを拾い上げて片手でバルザックの方に向けた。
「ふっふっふ。どうした、2本でも勝てなかった俺様に1本のブレードで勝てるか?」
カタリナの頬を汗が滴った。
「やっばい…負けるかも……」
カタリナの脳裏に敗北の二文字が浮かんだ。
(ミネ……モカを連れて逃げて……)
頭の中で二人の心配をする。その隙をついてバルザックが踏み込んだ。一瞬反応が遅れる。
「あっ!?」
バルザックはレーザーブレードを大きく振りかぶった。
ブレードで止めようとするが間に合いそうになかった。
おい、ちゃんと読んだか?バルザック・ド・メルヴァンだ。
なんだって?俺様が負けそうだって?あぁ、笑わせるな!
確かにあの娘、見た目は可憐な小娘だが、その剣筋はなかなかのものだ。雷光のような速度で、こちらの懐に飛び込んでくる。まるで千本の針を突きつけられているような気分だったな。だがな、小娘の剣は、経験不足からくるものだ。パターンが読める。それに、一撃が軽い。俺の重い一撃の前には、まるで赤子同然だ。
だが、あの目には光るものがあった。まるで、獲物を見つけた猛獣のようにな。そして、あの眼帯を取った後、さらにギアを上げた。中二とやらは面白いな。
だが、それも一瞬だ。小娘は、俺の言葉に動揺し、動きが鈍くなった。
俺は、あの娘の妹を人質にすると言ってやった。そして、あの娘の逆鱗に触れた。
…そうだ、それでいい。それでこそ、俺の期待に応えてくれる。
そうやって、怒りを力に変える。それが、戦場で生き抜く秘訣だ。
そう思っていたのだが………
なんだあの小娘の最後の顔は!諦めたか?
負けを悟り、妹を逃がそうとするあの表情。俺たちは海賊だぞ?そんな甘ったるいこと考えるんじゃねぇ!
もう少し遊んでやろうと思ったが、気が変わった。
とどめを刺してやる。
次回、あの小娘を、散りざまを見せてやろう。
楽しみに待っていてくれ。
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この回は、これまでの物語とは一線を画す、シリアスで緊迫感のある戦闘シーンがメインです。
常に余裕綽々だったカタリナが初めて敗北の可能性に直面し、バルザックの圧倒的な強さが際立つシーンですよね。成長には猛者が必須なのです!
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