第16話 秘密兵器を使っていい?
一方その頃、陽動班。時を少し戻す。
カタリナ達がトラックのコンテナに乗り込もうとしていた頃。
「お嬢様たちは、あのトラックを気に入っていただけただろうか?」
タキシードに似た執事服を、いつも通りビシッと着こなしたコタが、荒れた砂利道を歩いている。
そしてその後ろに30人からなる女の子達がぞろぞろと。
彼女達は動きやすそうな服装に身を固めた素朴な子達で、コタとの対比が違和感しか抱かなかった。
元々人通りが少ない荒れ果てた町ではあるが、たまにすれ違う人々はこの変わった集団に足を止め、目を丸くした。
そして広場にたどり着く。そこには3人乗りエアバイクが10台配備されていた。
見たことのない髑髏マーク・・海賊マークがペイントされている。
それも1種類ではない。色々な所から調達してきたのだろう。
錆が目立つボロエアバイクに似つかわしくないぴかぴかに磨かれた装置が装着されていた。
「コタ様……私達のエアバイクはこれですか?」
「はい、そうです。これをご覧ください。」
ホログラフ上にこの周辺地図が表示される。廃坑基地を囲むように×印が10か所に記されていた。
「各々のバイクに×地点へのナビが設定してあります。到着後は自動的に第二目的地の廃坑がナビ対象になります。これに従って配置についてください。配置に就いたらこれで連絡してください。それぞれが秘匿直通通信できるようにハックしてある衛星無線機です。皆が配置に就いた時点で作戦を開始します。」
各隊は運転手、通信士、そして秘密兵器操作手の3人で構成される。
通信士にその無線機を手渡していった。
「そして、ここからが大事です。例の秘密兵器です。このサバンナは事前に確認しましたが、本当に野生原生生物が多く生息しています。おそらく少し追い立てれば多数の生物を誘導できるでしょう。ですが、今回は失敗が許されません。秘密兵器を使います。作戦開始後5分でその装置の赤いボタンを押してください。」
「コタ様、この装置は何なんですか?」
「フフフ、作戦開始後のお楽しみです。」
コタから不気味な笑みがこぼれた。目は笑っていない。
「とにかく連絡は密にお願いします。第1バイクは私が運転したいところですが、私は指揮に回りたいので通信士を務めます。各隊役割を決めてください。何か質問は?」
団員達の顔を一通り見まわす。多少不安そうであったが、コタの凄さは団員達にも徐々に浸透している。
「大丈夫です。万に一つの失敗もあり得ません。皆さん、頑張りましょう。作戦開始地点に向かってください。」
各隊はそれぞれの第一目的地について走り出した。
「第4バイク、第一目的地に到着しました。」
「第7バイク、第一目的地に到着!」
「第2バイク、第一目的地に着きました。」
各隊から到着の報告がなされる。最後の隊が第一目的地に到達した。
コタがいつも通りの雰囲気を崩さず、無線で作戦開始の合図を行った。
「では、皆さん。作戦を開始してください。」
各隊が一斉に第二目的地に向けて発進した。
5分後。
「皆さん、秘密兵器を起動してください。」
各隊の秘密兵器操作手が赤いボタンを押下する。
その瞬間、各バイクに設置された装置から巨大な怪獣のホログラフが出現した。
リアルに動き回り、走り、叫ぶ。
「ぎぃやぁぁぁああぁぁ!!」
団員達ですら追いかけられているような恐怖を味わう、本格的なホログラフだった。
そのホログラフが暴れながらバイクを追いかける。
周りにいた野生原生生物はパニックになり一斉にバイクから逃げるように走り出した。
その数は進めば進むほど増大する。
しばらく進むと。
まるで何万という猛獣の大軍勢が廃坑基地に向けて、我を忘れて突進していた。
「うむ……まずい。これは万に一つの失敗かもしれない。まずい、まずいな。」
冷静に真面目な顔でコタは焦っていた。
「皆さん、非常事態です。作戦を変更します。もはやホログラフは意味をなしません。今更消したところでここまで興奮していると手遅れでしょう。この猛獣たちは3時間もしたら廃坑基地を押しつぶします。」
「えぇぇええええええええええ?!!!!」
各エアバイク通信士が全員同時に叫んだ。
「完璧な作戦を立てられたモカ様には大変申し訳ない事ですが、新しい作戦です。皆さん、このまま猛獣を追い抜いて基地まで最大速度で向かってください。基地の500m先に廃宇宙港があります。そこに彼らのコルベット8隻が設置されています。この軍勢に気づけばバルザックを拉致する前に逃げ出す輩が出かねません。先に強奪します。」
「団長たちは?!」
一人の通信士が心配げに尋ねた。
「もちろん助け出します。バルザックを拉致した後、私が必ずお嬢様たちを拾い上げます。私のコルベットの操縦技術を信じてください。」
別に誰もそれを疑ってはいない。操縦云々ではない所で問題が山積みで発生していると考えている。
「他の7隻は邪魔ですので先に離脱してください。コルベットは1隻で十分ですから。」
「でも、コタ様、どこに団長たちがいるかなんて上空からでは、把握できないのでは?」
「それも大丈夫です。ミネの体には、こっそりGPSを埋め込んであります。フフフ……変な虫が付かないように、ね。おっと、何でもありません。ミネはお嬢様から離れる訳がありません。場所はわかります。」
(こっ怖っ!!!)
陽動班全員に戦慄が走る。
(ミネさん……ご愁傷様です……。)
皆、同時に同じ感想を抱いた。
そんなことを露とも知らず、またもマイペースでコタは続ける。
「それでは皆さん、先にコルベット強奪に向かってください。私はお嬢様に作戦変更を伝えます。」
コタはそういうとミネが持つ秘匿通信用の衛星無線機に対して、緊急通信を入れた。
「コタ、どうしたの?!秘密兵器は?まさか失敗?!」
緊急通信を受けて、カタリナ、サクラモカ、ミネが同時に叫んだ。
「いえいえ、大成功でございます。大成功すぎて……コホン……大変です。」
「はぁ?いや、これお父さんの大失敗した時の奴!!!」
ミネは嫌な予感がして叫んだ。
「成功とも言えますが、失敗とも言えます。そんなことよりも3時間後に廃坑基地に数万匹の猛獣が襲い掛かります。お嬢様、タイムリミットは3時間です。寄り道せずにバルザックを拉致してください。リミットがある方が燃えますよね?」
「はぁあぁぁぁぁぁああああああ!?!?!?」
三人のハモリ声が聞こえた。
「どういうこと!!はぁ?!」
問いかける声を無視してコタは続けた。
「そこでですが、作戦を変更します。海賊達が逃げ出す恐れがあるため、先にコルベットを全部強奪します。その間にお嬢様たちはバルザックを討伐してください。彼を拉致した後、この爺が必ず皆々様を拾い上げます。どうか信じてください。」
「ふざけんなー!コター!!」
サクラモカの泣きそうな声が聞こえた。
「うん、わかった!コタ、任せたよ。」
そして、いつも通りのカタリナの声も聞こえた。
「それでは私めもコルベット強奪してまいります。しばし通信は繋がりません。お嬢様もご武運を!」
ぶちっ。一方的に通信を切るとエアバイクを止めさせてコタが運転を代わる。
「皆さん、しっかりと掴まっていてください。」
「え?ひぎゃぁあああああああああ!!!!」
第1バイク隊の女の子達の声がサバンナに響いた。
…ふふふ。皆さま、お初にお目にかかります。執事のコタと申します。
今回の作戦、いかがでしたかな?
完璧に見えて、完璧ではない。失敗に見えて、成功。
これこそが、人生というゲームの醍醐味でございます。
…え?私?私は失敗などしておりませんよ。
あの装置、最高の秘密兵器でしょう?
あの装置は、野生生物の恐怖を増幅させる特別な音波と、彼らが最も恐れる捕食者の立体ホログラムを組み合わせたものでしてね。まさか、あそこまで大規模な猛獣の群れを誘導できるとは、私も計算外でしたな。想定を遥かに超える成功でございました。
ですが、お嬢様方のお困りになった顔、それはそれで大変かわいらしい。
それに、少しだけタイムリミットがある方が、燃えるタイプのご主人様です。
ふふふ…今回の作戦は、私の最高傑作と言えるでしょう。
…さて、お嬢様方は、これからバルザックをどのように討ち取られるのでしょうか?
そして、私めは、どのようにコルベットを強奪いたしましょうか?
それにしても、ミネが私の行動に気づくとは、さすが私の娘ですな。
あの娘は私の血を引いている。いずれ、私を超える執事になるかもしれません。
GPSの件は、内緒でお願いしますよ。
次話が気になりますかな?
どうぞ、ご期待ください。
お嬢様たちへブックマークやレビュー、感想を頂ければ、このコタめが責任もってお届けします。
それでは、また次回。
~~~~
今回のオマケの1コマ
色々とコタがやらかしたコタ劇場でしたね。
うん、何かコタに言いたいことある方、感想下さい!
ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。
もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。




