第15話 潜入していい?
そして、作戦決行当日。
スカラッタホテルは珍しく満室だった。それも若い女の子達によって。
寂れた街で観光と言えるものは何もない中、ここまで人が集まることに違和感を覚えた支配人が作り笑顔でカタリナに問いかけた。
「今日、この町で何かあるんですか?」
「え?実は……」
サクラモカが割り込む。
「実は帝都で大人気のスター、カタリナ様が極秘でこの星を訪れているらしいんです。一目見ようとして人が集まってるんだと思います。内緒にしてくださいね、もし本人にばれたら警戒されて会えないかもしれないんで!」
支配人はカタリナと言う名に心当たりはなかったが、帝都のスターという馴染みがない芸能人だったため、容易に信じた。
「あぁ…そうなんですね!!」
カタリナがニコニコしながら何か言いかけたのでサクラモカは口をふさいで笑顔で立ち去った。
「内緒にしてくださいね!ばれたらこの町が大騒ぎになるんで!」
支配人はニコニコとしながら頷く。
ホテルの裏手。
「おねーちゃん、変なこと言わないでよ!」
「まぁ、嘘じゃないよね、大スターのカタリナ様は確かにこの星を訪れている!」
そうこうしているうちに、一人、また一人と団員が集まって来た。
”スカポン食品店”とペイントされたコンテナが積まれているトラックが3台そこに配備されていた。
急にミネがしみじみと語る。
「お父さん、さすがよね…。何もやってる気配なかったのに…。多分、これレンタカーじゃないわよ。帰りはコルベットで逃げ出す片道切符だし。この辺りはあくどい事やってる海賊が多いから、このトラックとコンテナはそいつらから勝手に拝借してきたんじゃない?ちゃんとセレスの情報通りの食品業者のロゴまで用意して……。」
「あ……そういうこと?相変わらず異常者っぷりだね。」
周りの新入り達はその話を聞いて、驚きを隠していないにもかかわらず、カタリナ達3人はいつも通りと言った感じで冷静に感想を述べた。
「じゃあ、手筈通り、3つに分かれて乗って。運転手はユキとシャリ、レナでお願い。」
「待って待って、私、あんな暑そうなコンテナの中はいやよ?運転席に乗りたい!」
「だめだめ。おねーちゃんは美人すぎるからバレちゃう。それにこの3人はおねーちゃんが認めた、学生時代演劇部大臣の3人衆だから、安心できるよ。」
「あぁ……美人だとダメなのかぁ……くやしー!じゃあ、学生時代演劇部大臣の3人衆、任せたよ!」
カタリナがわがままを言うが、想定内とでもいうべきか、すかさずサクラモカが封じ込めた。
惑星グロニーの荒野を、三台のトラックが走っている。荷台の食料コンテナの中には、カタリナたち赤毛猫海賊団の突入班が潜んでいた。
「…はぁ…蒸し暑い…ブスメイクするから今からでも運転席に移動していい?」
カタリナが、コンテナの隙間から、灼けた荒野をぼんやり眺めながらつぶやく。
「…暑いのは当たり前でしょ。サバンナ型惑星なんだから。それにだめだめ!美人はブスメイクしても、美人オーラが漏れ出すのを隠しきれないのよ。」
サクラモカが、隣でぼやく。
「そっそうか。それもそうだね!美人オーラの溢れは防ぎきれないよなぁ。我慢するしかないのか。……それにしても、退屈だなぁ。」
「…もうすぐ着くから、大人しくしなさい。」
トラックは、やがて、巨大な廃鉱基地の入り口に到着した。巨大な岩壁に、まるで口を開けたような穴が開いており、その中から、たくさんの人が出入りしていた。
その入り口に柄の悪い連中が検問を作って待ち構えていた。本当に軍事基地のようだ。学生時代演劇部大臣の3人衆はごくごく自然なやり取りで検問を突破した。
いつもと違う職員、いつもと違うトラックのため、疑われても仕方ない所を事前に何度もシミュレートしたシチュエーションに従って違和感なく演じきった。
「…よし、潜入開始。」
サクラモカが、コンテナの蓋を少しだけ開けて、外の様子を伺う。
「…おい、そこのトラック!止まれ!」
見張りの兵士が、銃を構えて近づいてくる。
「…大丈夫。事前に調べてあるから。」
サクラモカが、運転席の無線を利用して、あらかじめ用意したスカポン食品店の偽のIDをフロントガラスに表示させた。
「…ああ、食料業者か。ご苦労さん。中に入れ。」
見張りの兵士が、IDの内容を照合し、トラックを中に通す。
トラックは、そのまま基地の中に入っていく。基地の内部は、想像以上に広かった。巨大な採掘機が放置されており、その周りを、たくさんの海賊たちが歩き回っている。
「…よし、作戦通り。」
三人衆が積荷をチェックする振りをしていたところ、急にアジト内が慌ただしくなった。
搬入口にいた海賊達が次々と外に出ていく。
三人衆の一人が走り去ろうとする一人に声をかけた。
「あのぉ・・・どうかなさいましたか?」
「ん?サバンナの猛獣たちが襲いかかって来たんだ。まぁ、たまにある事なんだが、今回は規模が大きいらしい。お前らも早く積荷を下ろしたら帰った方がいいぞ。積荷はその辺に置いておいてくれ。」
「はい、承知しました。」
積荷を下ろすふりをしながらちらちらと周りを見回したが、全員この場から立ち去ったようだ。
合図のノックを行う。ココン、コン、コン、コココン。
中から施錠が解除される音が聞こえてカタリナ達が次々と下りてきた。
「はぁ、生き返る~!!!お風呂入りたい。」
「しね!」
「妹~最近冗談に対する態度が辛辣だよぉ。」
「おねーちゃん、あっちは上手くやってくれたようだね。」
「うん、じゃあ、行くか!」
その時──突如、陽動班からの緊急通信が飛び込んできた!
…ふぅ。副団長のサクラモカです。
いやー、みなさん、今回も大変でした。
無事に潜入は成功しましたけど、もう、おねーちゃんの言動にはヒヤヒヤしっぱなしです。
だけどとりあえずおねーちゃんは、おだてておけば気分良くなって言うこと聞いてくれるんで助かります。
「美人オーラが漏れ出す」とか言って、まんざらでもない顔でコンテナに入っていくのを見たときは、ため息しか出ませんでした。
あと、コタの”異常者っぷり”も、相変わらずですね。海賊から勝手に「拝借」とか、物騒なことをすました顔で片手間で実行しているのが想像できて怖いです。
でも、作戦は順調に進みました。
私たちの作戦は、奇襲で一気にバルザックを叩く、それしかないですから。
陽動班も、ちゃんとサバンナの猛獣たちを追い立ててくれたみたいだし、あとは私たちがバルザックを……
と、ここまでは完璧だったんですけど。
…え?何?「緊急通信」?
もう嫌な予感しかしないんですけど!
何かトラブルがあったんでしょうか?
もしかして、陽動班が猛獣に襲われたとか?
それとも、敵にバレてしまったとか?
…はぁ。
おねーちゃんだけでも大変なのに、他にも問題が起こっちゃった?!ため息しかでません……。
とにかく、何が起こったのかは次回までのお楽しみということで。
私も早く次の展開が知りたいです!
もし、私の不安に共感してくださったら、ブックマークや評価、感想をよろしくお願いします。
では、また次回!
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今回のオマケの1コマ
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