第14話 作戦を発表していい?
それから三日間、赤毛猫海賊団のアジトは、かつてない静寂に包まれていた。
カタリナは退屈そうに床に寝転がり、両手でデータパッドをいじりながら「つまんなーい」と足をじたばたさせている。
サクラモカは、セレスから追加で調べさせた情報を受け取り、それを眺めながら、アジトの内部地図と、その周りの生態マップを睨みつけている。
「あー、もう!三日経ったんでしょ!ねぇ、モカ!もういいでしょう!」
カタリナが癇癪を起こした。その声に、アジトの各所で作業をしていたクルーたちが一斉にびくっと震え、身を硬くする。
彼女のわがままはいつものことだが、今回は、サクラモカが本気で怒っていることを知っているため、誰もがその行方を見守っていた。
「わかったわよ!今から作戦会議を始める!全員集合!コタも呼んで!」
サクラモカが冷たい声でそう言うと、カタリナが太陽のような笑顔になった。だが、すぐに口を閉じて、大人しく椅子に座る。
メインホールに全員が集まると、サクラモカは不機嫌な顔で作戦会議を開始した。
コタは暇を見つけては、カタリナの好みに沿った、優秀で忠誠心があって、前科なしの女の子達を新しく雇用していた。ホールに100人近い赤毛猫海賊団団員が集結した。壮観な眺めだ。
「あれ?こんなに居たっけ?」
「おねーちゃん、大臣とかは後でいいから!みんな、揃った?」
メインホールは緊張で静まり返る。サクラモカは一度頷き、みんなにも聞こえるよう大きな声ではっきりと話しかけた。
「次のターゲットは、バルザック・ド・メルヴァン。歴戦の海賊で、コルベット8隻と、300人近い子分を率いている。本人の賞金額だけで、コルベットが10隻以上は買える、この辺りではまぁまぁ名の知れた強敵よ!勝率は正面からぶつかれば限りなくゼロに近いわ。艦隊戦であろうと白兵戦であろうとね。」
そう言って、サクラモカは、正面の白壁にプロジェクタで星系の地図を映し出した。
「彼のアジトは、グラーニャ星系のサバンナ型惑星グロニーにある。この地図を見て。大部分が未開の荒野で、アジトは、その町外れにある廃鉱基地跡。まるで要塞ね。施設自体はとても広くて、内部には300人弱の子分がいる。そして、セレスの情報によると、彼はこれから二週間ほど滞在する予定らしいわ。」
カタリナが、少しだけ不満げな顔をする。
「で、どうやって攻める?あまり地味なのは嫌だよ?」
「この期に及んで、わがまま言うな!」
サクラモカはそう怒鳴りつけ、話を続ける。
「…艦隊戦はしない。というか、できない。だから作戦は、奇襲、それしかない。でも、ただ突っ込むだけじゃダメ。彼のアジトが広いというのが、逆に私たちに有利になるわ。」
そう言って、サクラモカは、画面を切り替え、基地内の概略図を映し出した。セレスが手書きで書いた、少し雑な地図だった。
「この基地攻略に際して、突入班と陽動班の二手に分ける。突入班はおねーちゃんと私とミネ、それに…白兵戦でも戦闘能力のある団員30人、合計33人。陽動班は非戦闘員33名。ここが入り口で、ここにバルザックがいるはず。上手く陽動して、海賊達の多くをこの通路から遠ざければ、比較的小規模の戦闘だけでバルザックのところへ到達することも可能よ。今回はどんなトラブルが起きるか予想が難しい。だからコタとミネはサポートリーダーとして、臨機応変に最適なサポートをしてほしい。弩級戦艦の件で忙しいかもしれないけど、コタは陽動班として参加して。」
コタがニッコリと頷く。
「もちろんです、お嬢様達のこんな晴れ舞台、この爺抜きでと言われても勝手についていく所存でした。」
サクラモカは一瞬困惑した顔をしつつも、頼もしく感じて、笑顔がこぼれた。そのまま続ける。
「それから、今回のキーポイント。コタ、昨日相談した時に秘密兵器があると言ったわね?説明して。」
「モカ様、秘密兵器とは、その時に現れるからこそ興奮するのでございます。楽しみにしていてください。」
サクラモカは思い出した。おねーちゃんの性格は少なからずこいつから伝染している。こいつもクレイジーな奴だった。
「いいから明かせ!作戦会議舐めるな!」
モカは、両親指をコタの口に突っ込んでグリグリと引っ張り回す。コタの顔が歪んで変顔になるが、目はキリリと真面目なままだった。
「いひゃでごはいます!あはひはへん!(嫌でございます、明かしません!)」
「モカ様、こういう時のお父さんはどんな拷問されても口を割らないです。サプライズ大好きなので……。諦めた方が……。」
「もういい!コタ、任せたよ!」
「はい!皆の度肝を抜いてみせます。」
「おうー!期待してるよ!!」
「普通でいいよっ!」
姉妹で正反対なことを言う。
不安そうな目でクルー達はサクラモカをみつめる。
サクラモカは再び真面目な顔で作戦の説明を続けた。
「…話を続けるわよ。
セレスが特定した、基地に食料を運ぶ業者がいる。その業者になりすまして、突入班が基地に潜入する。その間、陽動班は、エアバイクでサバンナの猛獣たちを追い立て、基地の方向に一斉に向かわせる。そうすれば、基地内のバルザックの多くの子分たちは、その対処に手一杯になるはず。その混乱に乗じて、突入班がバルザックの元に向かい、残った邪魔者を抑えてるうちに、おねーちゃんをバルザックの元に送り込む!一騎打ちよ!その後は、バルザックの身柄を拘束し、コルベットを奪って脱出する。」
カタリナが嬉しそうに頷く。
「モカ、100点満点中、10000点!!良い!最高にクール!!」
「おねーちゃん、満点の意味わかってる?」
サクラモカの嫌味をカタリナは笑顔で掻き消した。
ミネが不安そうな顔をする。
「お父さんの秘密兵器って?」
至極真面目な顔でコタは人差し指を立てて横に振る。
「ミネ、父を信じよ。」
ミネは手で顔を覆ってうつむきながら首を横に振った。信じている姿には見えない。
「それはそうと…おねーちゃん、ちゃんと作戦通り動いてね。勝手に単独行動しないでね。突入班は基地内では極力目立たないように慎重に進むんだから!」
「わかってるって!私がやれば簡単よ!」
「…本当にわかってるのかしら…」
サクラモカは、不安そうな顔でつぶやいた。
「じゃあ、決行は3日後。各班、現地の第2番街に集合。準備は抜かりなく!帰りはコルベットを奪ってくるから、ネコパンチ号はおいていく。行きはみんなバラバラにシャトルで行って。現地に付いたら突入班はスカラッタホテルに集合。陽動班はコタの指示に従って。じゃあ、解散!!」
各自、バラバラとこの場を離れ、準備を開始した。
「ふぅ!」
大きく息を吐いたサクラモカの後ろから頭に手がかかる。
カタリナだった。頭を撫でながら。
「モカ、上出来!ありがとね!」
「もう!おねーちゃん、成功してから言って!」
はい、カタリナです!14話、読んでくれてありがとね!
どうだったかしら?モカの作戦発表!
相変わらず頭が固いというか、正面からぶつからないなんてつまんないこと言ってるけど、まぁ合格点ね!
だって、陽動でサバンナの猛獣たちを追い立てるんでしょ?
やっとモカも派手なことが良いってことに気づいたかな!
それに、今回は白兵戦に持ち込む作戦だし、何より、最後にバルザックをぶっ飛ばすのは私!
私のための最高の舞台を用意してくれたんだから、10000点満点よ!
作戦会議中にモカがコタの口をグリグリしてたの、可愛かったわね!
コタの「秘密兵器」ってのも気になるし、今回はなんか色々面白くなりそう!
コタって、普段はおとぼけさんで、やる時はやるって知ってるけど、あの顔をした時のコタは期待値1000%!
…まぁ、とにかく、みんなの不安そうな顔は、私にとっては最高の燃料よ!
私が凄いって信じてもらってないから、逆に燃えるわ!
今に見てなさいっての!
そして、バルザック!
セレスが言ってたけど、渋いおじさんなんだってね。胸毛とか生えてるらしいし、なんかヤダ。
でも、そういうダサさも、私の美学で塗り替えてあげるわ!
カッコよくぶっ飛ばして、格の違いを見せつけてやるんだから!
私の華麗なる活躍、みんな、ちゃんと見ててよね!
期待しちゃっていいわよ!
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では、次回も楽しみにしててね!
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ついに強敵との決戦が動き始めました。さすがモカ……と言ったところで、まともな作戦に見えます。コタのイミフな自信を除いて。
次回もお楽しみに。
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