第11話 コタを頼っていい?
~ 海賊打倒編 ~
ブリッジに姉妹の怒鳴りあいが響いた。既に数時間も続いていて、二人とも少し声を枯らせている。
「無理だっつーの!」
「いや、諦めるなよ!諦めたら試合終了だって昔の偉人が言ってたわっ!!」
「諦めるとかの次元じゃねーんだよっ!あ……良いのがあった。これ見ろ!おねーちゃんが食べ残したスナック菓子だ。これを投げつけてその扉ぶち破れるか!?」
「はぁ?私が気合入れたらできるわ!!」
「じゃあ、やれ!今すぐやれ!」
ぺんっ!ぽろん。
カタリナが思いっきりスナック菓子を投げつけるが無情にも扉にあたり、粉をまき散らして落ちた。
もしミネがこの場にいたらGが出ると発狂しただろう。
「無理だわ!!話すり替えんな!」
「すり替えてない!コルベットの攻撃なんて弩級戦艦からしたら、スナック菓子と扉だ!頭悪いおねーちゃんにもわかりやすいよーに滅茶苦茶親切な説明だよ!」
歯を食いしばって悔しそうなカタリナが無茶を言う。
「だったら、スナック菓子で扉ぶち抜く方法を考えるのがモカの仕事でしょ!」
「無茶言うなや!いい加減諦めるということを覚えろ!!」
ピコポーンピコポーン。
オート運行中だったが、目的地のグラーニャ星系要塞の寄港誘導レーンに乗った合図がなった。
「はぁはぁ・・。とりあえず続きはアジトにしよう。」
二人は少しだけ落ち着いて、ネコパンチ号や、奪ったコルベットを民間港スタッフに預けて無言でアジトに向かった。
ミネやクルーは珍しく本気で喧嘩している二人を見ながら、不安を覚えつつも後に続いた。
勝利の凱旋とは思えない光景だった。
アジトに到着してコタが笑顔で出迎えた。
「今回の戦果はコルベット5隻だよ。ドロメル・ファルサ子爵の艦隊を獲物にしたので船以外にも物資や金品も満載だったわ。」
誇らしげにカタリナが報告する。
「おぉ!!初陣にしては上々でございますね、それにしてはサクラモカ様は浮かない顔をされていますが。」
コタが笑顔で、みんなが聞きたがっていたことを代わりに聞いてくれた。
「おねーちゃんに聞いて!」
突き放すサクラモカに対して一瞬困った顔をしたカタリナだったが、そのまま胸を張って語りだした。
「ほら、覚えてる?帰りにすごい大艦隊とすれ違ったよね?」
「ド・ラ・ヴァル侯爵の私設艦隊イリブラのことですか?」
ミネの確認に笑顔で頷く。
「そう!あれよ。私ね、決めたの!あれの弩級戦艦を貰うことにした!」
ミネや15人の部下達が全員固まる。
「いやいやいやいや、無理でしょう!!」
「無理ですってば!」
「ないない!ありえない!」
「はぁぁぁ?!!」
皆が口々に反対を叫ぶ。
そして勝ち誇った顔でサクラモカが右手をぴっと掲げ、愚痴を制止し、諭すようにカタリナに語り掛けた。
「……これが現実。起きながら寝言いうのが得意なおねーちゃんでもさすがにそろそろ目覚めたが方がいいと思うよ。」
「なっ・・・いやだ、いやだ!絶対にあの弩級戦艦をもらう!もう決めたの!いやだいやだいやだ、おい、モカ、どさくさに紛れて酷い事いうな!いやだいやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!」
遂に床で手足をばたつかせて反抗し始めた。
「もう、おねーちゃん、やめてよ。みっともないから。」
吐き捨てるようにサクラモカが言った途端、その肩にコタが手を置いた。
「こうなった時のカタリナ様は絶対に折れませんよ。」
不思議そうに、サクラモカがコタの顔を見たが、背筋に悪寒が走った。
笑っていた。目はクソ真面目だが表情は笑っていた。
「カタリナ様、大丈夫です。私めが何とか致します。」
「適当なこと言わないで!」
サクラモカが寒気を我慢しながら言い返したが、さらにもう片方の肩にミネが手を置いた。
ミネも震えていた。
「お父さんはあの顔をした時、不可能はないの……。今までどんな難題もやり切って来た……。」
その言葉を聞いてカタリナは地団駄をやめて立ち上がった。
「コタ、本当?」
「いや、待てコタ!嫌な予感しかしない、やめろやめろ!」
サクラモカが止めようとするが、カタリナがその口を押えてコタに話しかけた。
「コタ、頼っていい?」
コタは大きく頷く。
「もちろんです。ですが、条件もございます。」
「何?」
「まず、今回の戦利品は私に預けてください。全て売り払ってそのための軍資金にします。そしてすぐにイリブラを狙うのではなく、もう少し資金が必要です。あと30隻はコルベットを獲得してください。急がば回れです。それながら必ずカタリナ様に弩級戦艦をプレゼントいたします。」
「お父さん・・・。」
不安げにミネが呟くが、カタリナは希望の光を目に宿した。
「うんうん、あれが手に入るなら全然OK!」
いつものコタに顔が戻りニッコリと微笑んだ。
「はい、それならばこの爺に任せてください。
こちらの準備はどんなに急いでも数か月はかかります。
カタリナ様も焦らずじっくり資金集めをお願いします。」
「分かった!任せて!!」
カタリナは上機嫌になってアジトの自室に向かって歩いて行った。
取り残されたサクラモカとミネがゆっくりとコタに近づいていった。
「コタ、あまり適当なことは言わない方が・・・。」
また背筋がゾクッとする。
コタの顔は笑顔でありながら目が全く笑っていなかった。
「ふっふっふっふ。面白くなってきおったわ………。」
そういうとコタはブツブツと何かをいいながらタブレットに何やら入力しながら立ち去って行った。
「あれはマズイ……お父さん本気だ………。」
ミネの真面目な顔をみて、サクラモカの不安が最大級に募っていった。
…ふぅ。副団長のサクラモカです。
やっとの思いで初勝利を飾って、これでしばらくは安泰かと思いきや…いえ、もう何も言いません。
皆さん、見ましたか?うちの団長、本当に懲りないんです。弩級戦艦を「コレクション」にするとか言い出して、挙げ句の果てに地団駄踏んでましたからね。もう、疲れますよ、本当に。
そして、一番の問題は、ミネのお父さんのコタです。
私やおねーちゃんにとってもお父さん的な存在でとてもやさしくて何でもできるスーパーマンだとは思ってたんですけど……あれ?何か様子がおかしい。
いつもは温厚で、ぼーっとしている人だと思っていたのに…。まさか、あんな恐ろしい顔をして、「この爺に任せてください」なんて言うなんて。あれは、もう別人の顔でした。ミネがあんなに怯えるなんて、よっぽどですよ。ミネに後から聞いたら「お父さんはサプライズ大好きで元々あんな人」らしいです。
何か、いやな予感しかしませんね!
おかげで、話がどんどん大きくなって、私たちの航海は「弩級戦艦を強奪する」という、無謀を通り越した計画になってしまいました。しかも、そのための資金集めにコルベットを30隻も拿捕しろとか…。もう、頭がおかしくなりそうです。
私はただ、お姉ちゃんのワガママをどうにかこうにか、最低限の被害で済ませるのが仕事だと思っていたのに、まさか身内から最強(最凶)の味方が現れるなんて…。
これからどうなるのか、私ももうわかりません。
ただ、ひとつだけ言えるのは、私の苦労はまだまだ続くということです。
もし、私の苦労に共感してくださったら、ブックマークや評価、感想をよろしくお願いします。
では、また次回。
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当初、コタはただのカタリナのお父ちゃんのオマケキャラだったんですが。
なんかすごい奴になってしまいました。まぁ、ミネ父なので当然かと。
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